2012年の「国際協同組合年」に向けた日本国内での取り組みが具体化してきた。すでに、協同組合関係者や学者・文化人らが加わる「2012国際協同組合年全国実行委員会」が発足したが、同実行委のイニシアチブで、国際協同組合年を機に、協同組合をさらに発展させるための「協同組合憲章」を政府に制定させようという作業が進んでいる。もし、協同組合憲章ができれば、わが国の協同組合史上画期的なことになるだろう。
国連は2009年12月18日の第64回総会で、2012年を「国際協同組合年」とする総会宣言を採択した。国連には「国際年」というものがあるが、これは、国連が定める共通のテーマを国際社会が1年間を通じて重点的に取り組むために設けられた期間のことで、1957年の「国際地球観測年」が最初である。その後、国際観光年、国際人口年、国際婦人年、国際児童年、国際平和年、国際識字年などが設けられてきた。こうした国際年により、世界各国、諸国民が共通の世界的課題の解決に取り組み、少なからぬ成果をあげてきた。
国連が国際協同組合年を設定した背景には、協同組合が、これまで世界の社会経済開発や食料問題、金融危機といった面で大きな役割をはたしてきたという事実がある。とりわけ、2008年の世界的な金融・経済危機(リーマンショック)で、協同組合が危機に対し耐久力、回復力を示したことが、国連の注目するところとなった。協同組合が地域経済に根ざした事業体であるために、世界的なバブルとその崩壊の影響をあまり受けずにすんだからだったが、このことから、協同組合が地域に安定をもたらす経済システムとして国連関係者の関心を集めた。
このため、国連は社会経済開発や食料問題、金融危機などにおける協同組合の役割を評価し、それへの期待から、協同組合をさらに発展させる必要があるとして、2012年を国際協同組合年とした。
「2012年を『国際協同組合年』とする国連総会宣言」は「国連総会は……協同組合はさまざまな形態において女性、若者、高齢者、障がい者を含むあらゆる人々の社会経済開発への最大限の参加を促していること、及び先住民族が経済社会開発の主たる要素となりつつあり、貧困の根絶に寄与するものであることを認識し」「またあらゆる形態の協同組合による、世界社会開発サミット、第4回世界女性会会議、第2回国連人間居住会議(ハビタットⅡ)、世界食糧サミット、第2回高齢化に関する世界会議、開発資金国際会議、持続可能な開発に関する世界首脳会議及び2005年世界サミットのフォローアップに対する重要な貢献と可能性を認識し」「先住民族及び農村地域の社会経済状況の改善において協同組合の発展が果たす可能性のある役割を評価し……」と述べ、この後「全加盟国並びに国際連合及びその他の全ての関係者に対し、この国際年を機に協同組合を推進し、その社会経済開発に対する貢献に関する認知度を高めるよう奨励する」としている。
さらに、各国政府に対しても「協同組合の活動に関する法的行政的規制を見直し、とりわけ、適切な税制優遇措置や金融サービス・市場へのアクセス面などでその他の企業体・社会的事業体と同様の活動の場を協同組合に与えるよう」求めている。
ところで、協同組合とは「人びとの自治的な組織であり、自発的に手を結んだ人びとが、共同で所有し民主的に管理する事業を通じて、共通の経済的、社会的、文化的なニーズと願いをかなえることを目的とする」(協同組合の国際的組織「国際協同組合同盟=ICA」が定めた定義)組織である。一言でいえば、人間らしい暮らしを続けてゆくためにつくられた、人と人の結びつきによる非営利の協同組織だ。資本を主人公とし営利を目的とする株式会社とは異なる事業体であり、運動体である。
ICAがロンドンで創立されたのは1895年。現在、93カ国から農林漁業、信用、保険、労働、消費者など、あらゆる分野の国レベルの協同組合組織と国際機関249が加盟しており、傘下の組合員は10億人を超える。世界最大の非政府組織(NGO)であり、組合員の家族、協同組合で働く人を加えると、協同組合と何らかの関係をもつ人は約30億とみる向きもある。地球の全人口のざっと半分にあたる。
日本からは13団体がICAに加盟している。全国農業協同組合中央会、全国農業協同組合連合会、全国共済農業協同組合連合会、農林中央金庫、家の光協会、日本農業新聞、日本生活協同組合連合会、全国漁業協同組合連合会、全国森林組合連合会、全国労働者共済生活協同組合連合会、日本労働者協同組合連合会、全国大学生活協同組合連合会、全国労働金庫協会だ。この13団体で日本協同組合連絡協議会(JJC)を構成する。
日本における協同組合員は述べ9800万人、協同組合で働く職員は57万人とされる。日本の世帯数は4900万とされるから、大半の世帯が何らかの協同組合に加入しているとみていいようだ。
「2012年を『国際協同組合年』とする国連総会宣言」に呼応して、「2012国際協同組合年全国実行委員会」が昨年の8月4日、東京で設立された。ほとんどすべての協同組合の全国組織の代表、協同組合研究者、文化人、メディア関係者ら102人が実行委員に名を連ねた。代表は内橋克人氏(経済評論家)、副代表は生源寺眞一(生協総合研究所理事長)、童門冬二(作家)、茂木守(全国農業協同組合中央会会長)、山下俊史(日本生活協同組合連合会会長=当時)の4氏。
実行委設立にあたって採択された「国際協同組合年にむけた今後のすすめ方」には「協同組合の事業や活動は、現代社会において開発途上国のみならず先進国においても広がりのある重要な社会的役割を果たしている。しかし、国内においては、このことが多くの人たちに十分に理解され評価されていない実態にある。国際協同組合年を機会に、マスコミや政府関係者をはじめ、多くの人々に協同組合の役割・価値、事業・活動の実態を伝える取り組みを行っていく。また、協同組合をより発展させるための政府への働きかけ、共同研究、途上国の協同組合への支援などの取り組みを行う」とある。
関係者によると、第1回実行委で、「国際協同組合年を単なるイベント開催だけで終わらせず、意義あるものにするために、協同組合憲章の策定を」という提案があり、昨年11月の実行委幹事会で、政府に協同組合憲章を制定させる取り組みを始めることを決めた。具体的には、実行委で憲章案をつくって政府に提案し、閣議決定するよう求めるという。
憲章とは、一般的には「原則的なおきて」を意味する(「広辞苑」)が、富沢賢治・聖学院大学大学院教授によれば、ある事柄に関して根本的なことを定めた取り決めであり、基本的な方針や施策などを示すものという。また、国民的な取り組みの大きな方向を提示するものという意味でも用いられ、さらに法律上の用法としては、ある事柄に際してその原則を明らかにして、関連法規の統一的理念を示すものであるという。
それでは、なぜ国際協同組合年を機に政府に憲章をつくらせようというのか。
協同組合関係者によれば、協同組合陣営では、もう長いこと、一つの懸案事項がある。統一協同組合法ともいうべき法律を政府につくらせようという悲願だ。
関係者によれば、諸外国の大半は統一協同組合法ともいうべき法律をもち、協同組合に対しては統一的な施策がなされている。ところが、日本は各種の協同組合ごとに法律があり、政府側の対応も各省庁ごとのバラバラ対応だ。例えば農協の所管は農水省、生協の所管は厚生労働省といった具合。このため、わが国では協同組合に対し包括的な政策が乏しく、このことが協同組合の発展を阻んできたという。
そこで、協同組合陣営としては、統一協同組合法の制定を政府に求めたいのだが、政界や政府の現状からしてすぐ制定は無理、との見方が関係者の間で強く、統一協同組合法制定の一歩手前の措置としての協同組合憲章の制定を政府に迫ることになった。
その点で、関係者が一つのモデルにしているのが、昨年6月に閣議決定された「中小企業憲章」である。これは、中小企業関係者による数年に及ぶ制定運動で実現した、中小企業発展をうたった憲章で、中小企業の歴史的位置づけ、中小企業の経済的・社会的役割、政府が進める中小企業政策の行動指針などが明らかにされている。
今年1月には、全国実行委の下に、協同組合憲章検討委員会が発足した。協同組合関係者、研究者ら29人で構成され、委員長は富沢教授。憲章検討委員会は6月23日の第5回委員会で憲章の第一次案をまとめた。これは、7月半ばの第二回全国実行委に提案され、そこで承認されれば、8月に公表される。その後、協同組合各組織や国民に討議を呼びかけ、ここで出された意見をふまえ憲章の最終案を確定する。
5月28日に東京で開かれた日本協同組合学会2010年度第30回春季研究大会の共通論題は「協同組合の社会的価値を問う―国際協同組合年と協同組合憲章―」で、協同組合憲章をめぐって論議が交わされた。
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