安保法制が想定する存立危機事態に入る危険が高い地域が南沙諸島沖である。ここはフィリピンやベトナムなどのアジア諸国と領海「九段線」を主張する中国との緊張にさらされている。そんな中、ベトナム国営石油会社ペトロベトナムが海底石油・ガス田の掘削事業に日本企業の出光興産および国際石油開発帝石と契約を結んだと8月に発表された。採掘現場が中国の主張する領海に近いことから、中国政府が介入してくる可能性もある、と見る人もいるようだ。
これが単なる妄想と言い切れないのはすでに過去に南シナ海でベトナムと提携したスペインの石油開発会社が中国から脅しを受けて撤退したことがあるからだ。その事件は昨年7月にBBCで報じられている。
■ベトナムが南シナ海での石油掘削を停止 中国から脅しと業界筋(2017年7月24日)
https://www.bbc.com/japanese/40701694
「東南アジアの石油産業の情報筋はBBCに対し、ベトナム政府が掘削に関わるスペイン・レプソル社の関係者に現場を離れるよう命令したと話した。ベトナム外交筋も事実関係を確認した。数日前には、レプソルが現地で大規模なガス田の存在を確認していた。業界筋によると、ベトナム政府は先週、レプソル幹部に対し、中国が掘削を続けるならベトナム軍が駐留する南沙(スプラトリー)諸島を攻撃すると脅したためだと説明したという。」
この件が起きた採掘予定現場はベトナム沖400キロということで、今回の日本の開発会社が採掘を行う現場は少しベトナムの海岸に近い300キロの地点だと言う。昨年の事態はベトナム側が引いた形になったが、独立の気概を持つベトナム人たちのナショナリズムが高まれば中国軍との間で戦闘が起きる可能性もある。実際、中国とベトナムは1979年に戦闘に突入したことがある。これは中越戦争と呼ばれている。今回は中国とベトナムの間に日本企業も介在している、ということは南シナ海で「存立危機事態」が近い将来に現実に起きる可能性がある、ということだ。
もし集団的自衛権を使ってベトナム海軍を護衛するために自衛隊が出動し、中国海軍とたとえ小規模だったとしても戦闘する事態になった場合、日本の世論は急速になだれを打って改憲に向かう可能性がある。その場合、報道機関の政府による直接統制も始まることになるかもしれない。実際、中国と戦時に入った場合、どこまで戦線が拡大するか確かなことは言えない。だが、改憲となるとまず徴兵制が敷かれ、さらに日本政府は核武装化を選択することになるかもしれない。その場合、危機の継続を理由に存立危機事態を解除せず、その間に日本政府が核兵器を完成させる、という可能性もあるかもしれない。
集団的自衛権を安保法制で認めた以上、もしこの件で中国との紛争が起きなかったとしても、今後続々とこの手の衝突の可能性は起きてくることになるだろう。
■出光・国際帝石、越企業と南シナ海で資源共同開発(時事)
2018年8月1日
https://www.jiji.com/jc/article?k=2018080101006&g=eco
■PetroVietnam, Japanese firms sign South China Sea gas deal amid tensions with Beijing
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
〔opinion8007:180918〕