原爆文学の「世界記憶遺産」登録を目指し三度申請へ 広島の市民団体が賛同署名運動を開始

 78年前に広島で被爆した文学者の作品を国連教育科学文化機関(ユネスコ)の「世界の記憶」(世界記憶遺産)に登録しようと活動している広島市の市民団体「広島文学資料保全の会」(土屋時子代表)が、この活動への賛同を求める署名運動を始めた。
 
 ユネスコの「世界遺産」は、遺跡、景観、自然など人類が共有すべき普遍的価値をもつ物件で、移動が不可能なものが対象。これに対し、同じユネスコの「世界記憶遺産」は、世界的に貴重な直筆文書、書籍、絵画、映画などの記録を保護するためにユネスコが1992年に創設した事業である。2年ごとに各国政府)からの推薦を受けて審査、登録する。各国からの申請は2件以内とされている。
 日本での申請受付の窓口は日本ユネスコ国内委員会(事務局は文部科学省内)だ。

 世界記憶遺産には、これまでに『アンネの日記』や『ゲーテの直筆作品』、『アンデルセンの原稿』、『ベートーベンの直筆楽譜』などが登録されている。日本からは、藤原道長の『御堂関日記』『慶長遣欧使節関係資料』『山本作兵衛炭坑記録画・記録文書』、『舞鶴への生還―1945~1956シベリア抑留等日本人の本国への引き揚げの記録―』など7件。なかでも、『山本作兵衛炭坑記録画・記録文書』は国内で注目を集め、国民の間に世界記憶遺産への関心を呼び起こした。
 
 広島文学資料保全の会は、20世紀で最大の出来事であった広島・長崎での原爆被害を描いた日本の原爆文学を、核兵器廃絶と世界の恒久平和を訴える人類共通の重要な遺産として後世に伝えたいとして、広島市と共同で、∇原爆詩人・峠三吉(1917~53)の「ちちをかえせ ははをかえせ」で知られる『原爆詩集』の草稿∇詩人・栗原貞子(1913~2005)が代表作『生ましめん哉』を書いた創作ノート∇小説『夏の花』の作者として知られる作家・原民喜(1905~51)が被爆直後の状況を記録した手帳などを、2015年と2021年に申請した。が、いずれも国内審査で落選している。
 
 保全の会は、今年、3回目の申請を計画しており、今回は、峠三吉、栗原貞子、原民喜の作品に広島市出身の被爆作家・大田洋子の作品『屍の街』を加える。保全の会は、これら4人の作品について「いずれも、被爆作家が生命を賭して1945年8月6日の惨状を文学作品として著したもので、人類にとって貴重な財産」「『二度とこのようなことがあってはならぬ』という人類への警鐘」としている。

 保全の会が始めた署名のタイトルは「広島の被爆作家による被災直後の資料のユネスコ『世界の記憶』登録を応援します」と題されており、いわば、原爆文学の世界記憶遺産に向けて国内世論を盛り上げようという試みだ。宛先は文部科学大臣と日本ユネスコ国内委員会。締め切りは5月末。

 署名運動に関する問い合わせと署名の集約先は次の通り。

 広島文学資料保全の会(広島市中区本川町2丁目1-29-301 電話082-291-7615)

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