安倍晋三新政権の前途は険しい。衆院選挙戦の争点を「景気浮揚策」一本に絞った戦術が奏功したとみられるが、原発政策・憲法問題・領土・防衛論議を避けた印象が強い。来年7月の参院選挙に備え、景気浮揚策を声高に訴えて、国民の関心を誘導したのである。しかし、いざ政権に就いたら、矢継ぎ早に難題が浮上。野党時代のような安易な行動は許されなくなった。
本稿では、喫緊の課題である原発政策に絞って考えてみたい。
上関原発も断念せざるを得ない
茂木敏充経産相は12月27日未明の記者会見で、「全国で12基計画されている原発の新増設のうち、着工前の9基について凍結・白紙の考え」を臭わせた。民主党政権の原子力政策の見直しを表明している自民党新政権。「専門家の知見を得て判断したい」と断っているが、注目される発言だ。また、既に着工している大間原発(青森県)など3基については「建設中であり、できた段階で原子力規制委員会の新しい安全基準により評価したい」と慎重に述べていた。新規原発計画の中でも紛糾が続いている上関原発(山口県)の建設も怪しくなってきた。
朝日新聞28日付朝刊は、田中俊一原子力規制委員長とインタビュー。田中氏は「現在稼動中の大飯原発直下に活断層があれば関西電力に停止を指示したい。安倍政権は3年間で全原発の再稼働のはんだんには審査時間がかかりムリだ」と明言した。
原子力規制委の新基準策定は来年7月
そもそも原子力規制委(田中俊一委員長)が発足したのは9月14日。野田佳彦前政権の時だが、当初の4月発足が大幅に遅れた結果、新基準策定は来年7月になるという。また規制委の人選について「原子力ムラ関係者が多い」との指摘で大揉め。国会の同意が得られないため、野田前首相の特例的裁断で規制委を発足させた。本来なら国会の事後承認を求めなければならない重大案件なのに、未だに正式に認知されないまま。規制委の調査が一人歩きしているのも政治の怠慢だ。安倍政権は早急に国会の同意を求めなければならない。
規制委は敦賀(福井県)大通(青森県)両原発の下に活断層を既に確認、廃炉の可能性が高まってきた。志賀原発(石川県)にも活断層の疑いがあり、調査を急いでいるが、新安全基準が策定される来年7月以降に結論が出るだろう。
核燃料廃棄物処理の難題も
このほか、高速増殖炉もんじゅ(福井県)六カ所村使用済み核燃料再処理工場(青森県)についての難題があり、原子力政策の前途は難問山積である。
以上指摘したような難題解決には、ドラスティックな政策転換が必要だ。安倍政権は原発再稼働に執着しているようだが、「規制委の安全基準に照らして」と言っており、新基準ができる来年7月まで凍結状態。いくら焦っても、再稼働の道は極めて険しい。いっそ、安倍政権はその間だけでも凍結を鮮明にして、無駄な努力と経費削減に踏み切る勇断が肝要ではないか。