本題に入る前に再度いっておくが、川内原発再稼働反対論の論点の一つである、カルデラを形成するような巨大火山噴火の危険度評価は意味のない議論である。そんな巨大噴火が起きる可能性を否定しているのではない。起きてしまったら噴火の中心点が見出せるとして、そこから半径100kmから200kmくらいの範囲では溶岩流、有毒ガス、火砕流、激烈地震などなどで一瞬に壊滅する。原発の耐性を云々する以前にその地域内の住民をどうそれから守るのかをまず議論すべきである。しかし火山専門家はそのような噴火を予知することは不可能であると断言しているのだから、いまからその地域内の住人を避難させることを真剣に議論すべきだろう。それをしないで原発再稼働反対論の論拠としてのみ取り上げようというのならば、真の地域住民の安全確保を考えていない、偏頗な反原発イデオロギーのあからさまな表出以外の何物でもない。それに乗っかっている火山専門家も学者バカを満天下に曝しているのである。
さて本題なのだが、地震で原発は壊れない?そんなバカなという声が直ちに上がるのは当然想定内のこと。ここで言いたいのは原発の設計基準や再稼働の規制値である基準地震動の数値そのものをいくら取上げても本当にどんな地震によって原発が破壊されるかについて正しい認識が出来ないということなのである。
筆者は、以前からこの単位は加速度次元のガルで表現される基準地震動でなぜ原発の地震耐性が評価できるのか不思議でならなかった。力学や機械工学の初歩知識ではあるが物体がどれほど変形するかは、加速度=力の次元ではなく、それを時間で積分した仕事量=エネルギーで決まる。もっと詳しくいうと周波数成分まで加味した加速度スペクトルの積分で決まる、と考えるのが既存の確立した知見=パラダイムの理論的認識である。
が、放射能の論争と同じくここでもニューサイエンスが創生しつつあるようで、この基準地震動の値だけでそれが十分な値なのかどうかを争っているわけである。というか、反原発陣営の知識がそこまで及んでいないのではないか。当局は、スペクトラム云々は当然分かっているから、早い話攻撃の矛先を姑息にかわすつもりになれば、基準地震動の数値だけあげてエネルギー的には変わらないようにスペクトラムをいぢることくらいは朝飯前のことなのである。大飯原発再稼働を差し止めた福井地裁の判決もこの点全くの無理解に基づいているから、二審では簡単にひっくり返されるだろう。
どうしてこんなに基本的な知識を欠いて反原発運動が出来るのだろうか、ここでも既存の世界観や価値観を「超克」した、新パラダイムが生じつつあるのかもしれないが、もっと下世話に考えれば、そういう次元に反対論を誘導している活動家・知識人が実は敵の回し者で、ガス抜きをしつつ最終的には敗北に至るよう巧妙に仕掛けていると見た方がずっと現実的なのだろう。
放射能の健康影響にしても、火山の巨大噴火にしてもこの基準地震動にしても、反原発という誰も否定できないような御旗を立てながら、不可思議な方向性へ運動を持って行こうとしている、何やら大きな陰謀がそこで蠢いているのではないか。それをどうやって見抜けばいいのか、残念ながら筆者の既存の知見では到底そこには及びえないのである。
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