東日本大震災・福島第一原発事故(2011年3月11日)から11カ月、犠牲者1万9312人のうち、3446人(福島217、宮城1861、岩手1358人)の行方はいぜん不明だ。被災地から避難した人は約15万人に上り、「家族離散」が深刻な陰を落とす。特に原発20㌔圏内の住民は生活手段を奪われたまま、〝故郷へ戻れない〟焦燥感が募っている。
福島大学災害復興研究所が行った「双葉郡災害復興調査」が最近公表された。激甚被災地域の浪江町・双葉町・大熊町・富岡町・楢葉町・広野町・葛尾村・川内村の計2万8184世帯を調査したもので、原発事故の悲惨さを如実に示している。「故郷に戻りたい」との願望は共通しているが、現在の除染状況や政府の後手後手の対応を反映して、約7割の住民が「3年以内に帰還できなければ、戻ることは困難になる」と回答している。「職が無く、若い人が戻って来なければ生活が成り立たない」との不安だろうか。…「国の安全宣言が信用できない」(65・8%)、「原発事故の収束に期待できない」(61・4%)との回答に、被災住民のシビアな状況が読み取れる。
定期点検後の再稼働に〝赤信号〟
野田佳彦首相は1月8日、佐藤雄平・福島県知事を訪ね、双葉郡内に「中間貯蔵施設」設置を再要望した。これに対し知事は返答を避け、逆に「冷温停止、事故収束宣言」を出した政府の姿勢に不快感を示したという。原発事故対策に追われる福島県の苦悩は深く、前途は厳しい。
福島県内には、今回事故を起こした東電福島第一原発が双葉町・大熊町に6基(うち1~4号機破壊)、第二原発が富岡町・楢葉町に4基、計10基の原子炉が林立している。大惨事を目の当たりにした県民の恐怖感が高まるのは当然で、原発10基の廃炉を求める声が急速に高まってきた。県議会は昨年9月、全基廃炉の請願を採択。1月中旬までの情報によると、福島市をはじめ同県59市町村のうち37市町村(約3分の2)が廃炉決議・意見書を可決している。
全国に54基ある原発のうち、首都圏に電力を供給していた福島原発10基をすべて廃炉せざるを得ない状況に追い込まれたといえるが、他の原発立地県にも波紋を広げている。
原発は13カ月ごとに稼働を停止して定期検査が義務づけられている。1月に入って3基が定期検査入りし、2月以降の稼働原発はわずか3基のみ。定期検査を終えても、各地で〝稼働反対〟の声が高まって再稼働できない状況が続出している。
中部電力浜岡原発(静岡県御前崎市)は昨年5月、菅直人前首相の要請によって3基がストップしたまま。政府は、津波対策やストレステストを経て再稼働させる方針だったが、御前崎市を除く周辺市町村(牧之原市・菊川市・掛川市など)がそろって再稼働反対の要望書や意見書を提出しており、川勝平太・静岡県知事も稼働に難色を示している。野田首相も1月4日、伊勢市で「原発再稼働は、ストレステスト(耐性評価)、原子力安全・保安院などの確認を経て、地元自治体の同意を得て判断する。浜岡再稼働については今年12月完成予定の防護壁が必要だ」と語っている。
中越地震(2004年)で被害を受けた東電・柏崎刈羽原発(7基)の一部再稼働につき泉田裕彦新潟県知事も極めて慎重だ。若狭湾岸に原発11基(関西電力)が密集している福井県の西川一誠知事も再稼働に難色を示すなど、各首長の悩みは深刻である。一連の〝再稼働ノー〟の流れを検証すると、今春の泊原発(北海道電力)3号機の定期検査入りを最後に、全原発54基が稼働できない状況になるかも知れない。
「40年の寿命」の線引きだけではダメ
原発が使用電力の30%を供給してきたエネルギー政策の抜本的見直しこそ焦眉の急である。ところが、野田政権は昨年暮れ、「福島原発冷温停止宣言」や「原発輸出」に意欲を示すなど、〝脱原発〟に水を差すような方向転換が、気懸かりだ。新年早々の1月6日、細野豪志・原発事故担当相が「原子炉等規正法改正」の方針を表明したが、脱原発への一里塚と捉えていいのか、世論対策の臭いを警戒すべきなのか難しい問題である。
「原発の寿命は原則40年」と明記し、老朽原発を廃炉にする方針だ。30年を超す原発が多い現実が以前から危惧されており、「遅きに失した決定」との批判もあるが、事故を契機に一定の歯止めをかけた措置といえるだろう。現段階で「40年で廃炉」となる原発は、福島第一原発1号機、美浜原発1号機、敦賀原発1号機の3つ。今後この法改正を厳格に適用すれば、震災前54基あった原発が2020年末までに18基廃炉、30年末までには18基が廃炉の運命という。ここで問題なのは、「40年を超えても運転延長を認める」との例外規定が付記されていることだ。これまでも、30年稼働した原子炉は10年ごとに保全計画を出させて延長を認めていたので、抜本的歯止めになるか疑問が残る。〝脱原発〟の流れをやわらげるため、「老朽原発は使わない」とアピールし、原発再稼働に道を開く地ならし的狙いが潜んでいるようにも勘繰れる。
飯田哲也氏(環境エネルギー政策研究所長)は「原発の運転期間を40年とするのは、脱原子力社会への第一歩として評価できる。だが政府は最初から例外的な運用を認めており、廃炉へのルールと体制を厳しく作らなければ、ザル法にもなりかねない。世界の原発の平均寿命は22年。雰囲気で、40年というのではなく、電力会社自らが安全でない原発から撤退するルールを作るべきだ」(朝日新聞1月7日付朝刊)と指摘。原子炉材料工学の長谷川雅幸・東北大名誉教授も「原子炉を40年以上使用する場合、公的な検査機関が事業者にさまざまなデータを提出させ、誰もが納得できるような検査をする必要がある」(毎日新聞1月7日付朝刊)と警告していた。
過去の事故を振り返ると、美浜原発2号機の細管破断(91年)、福島第一原発1号機の炉心隔壁ひび割れ(94年)、浜岡原発1号機の緊急炉心冷却系の配管破断(01年)、美浜原発3号機の配管破断(5人死亡、04年)など深刻な事例が見つかった。金属疲労や腐食、中性子による材料劣化、ケーブルの被覆管破損などが引き起こした事故であり、「原子力安全神話」の罪深さを痛感する。
「原子力安全庁」は責務を全うせよ
原子力行政を監督・規制する「原子力安全・保安院」が、原発推進側の経済産業省の傘下に置かれていた組織的欠陥を解体して、4月から環境省の外局として「原子力安全庁」が発足することになっている。12年度予算案に504億円が計上され、「保安院」と「原子力安全委員会」の業務を一元化するというが、実効ある組織運営ができるだろうか。500人近い職員のドラスティックな意識改革を断行して、〝原子力ムラ〟体質からの脱皮を図ってもらいたいと願っている。
「政府は原子炉の寿命を40年とした。これを機に、脱原発の道のりをより明確にして、原子炉の延命ではなく、代替エネルギー、とりわけ風力や太陽光など自然エネルギーの開発に力を注ぐ方針を明示すべきだ。少しでも安全と安心の時代に近づきたい」との指摘(東京新聞1月11日付社説)の通り、「原子力安全庁」の責務は極めて重い。
「これまで政府は運転30年を超える原発について電力会社の評価と老朽化対策を確認することで運転延長を許可してきた。細野大臣は『これまでの確認作業とは根本的に違い、延長のハードルは極めて高い』と述べているが、違いをはっきりさせなければ、なし崩しに例外ばかりになってしまう恐れがある。日本には福島第一原発1号機以外に運転開始から40年を超過している原発が2基ある。細野氏は法改正後の原発の扱いについて明確な方針を示さなかったが、積極的に廃止していくべきだ。寿命を40年で区切った根拠もはっきりさせておく必要がある。原発の寿命はこれまで安全性だけでなく経済性も加味して決められてきた面がある。今後は、安全性に特化し、年限にこだわらず、老朽化の影響を精査していく体制が必要だ。既存の原発に最新の知識や基準を適合させる『バックフィット』にも実効性を保つ厳しい基準と体制がいる」と、毎日新聞1月9日付社説が指摘した論旨に共感する。
政府は「放射線による有害な影響から人と環境を守る」との基本理念を再確認し、脱原発社会の構築を目指して欲しい。
初出:「メディア展望」2月号(新聞通信調査会)より許可を得て転載 ――編集部
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://www.chikyuza.net/
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