(2025年7月19日)
第27回参院選投票日を明日に控えた本日、毎日新聞夕刊社会面トップの下記の見出しが目に飛び込む。
《史実無視「陰謀論」の典型》《参政党の歴史認識 演説を識者と検証》《「被害者意識」膨らませる手法》
参政党のデマに対するファクトチェックの集大成と言ってよい内容。参政党の体質や歴史認識を手際よく紹介し批判している。栗原俊夫記者が山田朗教授の見解をまとめたもの。信頼に足りる記事であり、考えさせられる。明日の選挙では、こんな輩が「躍進する」という事態の深刻さを嘆かざるを得ない。
この記事の検証対象となっている参政党・神谷宗幣の演説内容は、以下の4章句である。
<(日本は)中国大陸の土地なんか求めてないわけですよ。日本軍が中国大陸に侵略していったのはうそです。違います。中国側がテロ工作をしてくるから、自衛戦争としてどんどんどんどん行くわけですよ>
<日本も共産主義がはびこらないように治安維持法って作ったんでしょ。(中略)悪法だ、悪法だっていうけど、それは共産主義者にとっては悪法でしょうね。共産主義を取り締まるためのものですから。だって彼らは皇室のことを天皇制と呼び、それを打倒してですね、日本の国体を変えようとしていたからです>
<大東亜戦争は日本が仕掛けた戦争ではありません。真珠湾攻撃で始まったものではありません。日本が当時、東条英機さんが首相でしたけど、東条英機を中心に外交で何をしようとしてたかというと、アメリカと戦争をしないことです。そして、中国と和平を結ぶ。当時、中国ってないですけどね、支那の軍閥、蔣介石や毛沢東、張学良、ああいった人たちと、いかに戦争を終わらせるか、ということをやるんだけど、とにかく戦争しよう戦争しようとする人たちがいるわけですよ。今も昔も>
<(共産主義者は国体を)自分たちだけでは変えられなかった。彼らは何をしようとしたか。政府の中枢に共産主義者とかを送り込んでいくんですね。スパイを送り込んでいくんですね。そして日本がロシアや中国、アメリカ、そういったところと戦争をするように仕向けていったんです。ロシアとされると困るんです。旧ソ連ですね、ソ連は共産主義だから。じゃあアメリカやイギリス、そのバックアップを受けている中国とぶつけよう。それで日本は戦争に追い込まれていったという事実もありますよね。教科書に書いてないですよ。なぜか。戦後の教科書は、彼らがチェックしてきたからです。こういうことをちゃんと、国民の常識にしないといけない>
驚いた。これ、ドラマの中のセリフでも、ものを知らないオヤジが飲み屋で喚いた戯言でもない。一党の代表が、白昼の街頭でマイクを握って、人に聞かせている内容なのだ。安倍晋三だって、これほどひどくはなかったろう。
この中に見える主張を整理してみる。
1 日本は中国を侵略していない。中国側のテロ工作に対して、日本軍は自衛戦争をしただけ。(悪いのは中国、日本は悪くない)
2 大東亜戦争は日本が仕掛けた戦争ではない。日本は対米・対中外交で和平を追求していたが、「戦争しようとする人たち」のせいで開戦になった。(日本は悪くない)
3 共産主義者は天皇制を打倒して日本の国体を変えようとしていた。共産主義を取り締まる治安維持法を悪法というのは共産主義者にとってだけのこと。(悪いのは共産主義)
4 共産主義者は政府の中枢にスパイを送り込んで、日本がロシアや中国、アメリカと戦争をするように仕向けた。それで日本は戦争に追い込まれていった。(悪いのは共産主義、日本は悪くない)
5 以上のことは教科書に書いてない。なぜか。戦後の教科書は、「彼ら」がチェックしてきたから。こういうことを国民の常識にしないといけない。
まとめてみれば、ありきたりの歴史修正主義(侵略戦争否定)・反共主義・國體擁護、陰謀論、そして教育への介入願望である。どうして今ごろ、こん手垢のついた愚論が、有権者の一部に浸透していると言われるのだろうか。不思議でならない。
戦後80年を経て、日本の国民が戦争体験を忘れつつあるのではないだろうか。何があの戦争の惨禍を生み出したのか、真剣に歴史を紐解き歴史の真実から学ぼうとする姿勢が過去のものとなりつつあるとすれば、事態は深刻である。
毎日記事は、次のように述べている。
「近現代史を巡る(参政党の)歴史認識には、戦後歴史学が積み上げてきた研究成果を、全否定するような主張も目立つ。」
「こうした歴史認識について、山田教授は「戦争は『共産主義者』の陰謀という見方は、戦前から存在する典型的な陰謀史観。事実認識としては全く誤っている」と指摘する。」
「なぜ、こうした「陰謀論」が公然と語られ、また、影響力を持ち続けるのか。山田教授は「真面目な歴史学や地道なジャーナリズムの成果が、出版や教育を通じて一般化されておらず、歴史的事実を無視した極端な議論が『面白い』『新しい』と受け取られてしまう状態が広がってしまっている。戦後80年の節目に、こうした状態を転換したい」と話している。」
戦後80年の夏は、暑苦しく、重苦しい夏になりそうである。排外主義者の主張が歴史修正主義とだけでなく、反共や國體擁護論と結びついていることを確認して、何故あの戦争が起きたのかを考える夏としなければならない。
初出:「澤藤統一郎の憲法日記 改憲阻止の立場で10年間毎日書き続け、その後は時折に掲載しています。」2025.7.19より許可を得て転載
https://article9.jp/wordpress/?p=21904
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 https://chikyuza.net/
〔opinion14331:250720〕