参院選挙で問われる日本の進路 -アベノミクスは「日本改悪プラン」-

著者: 安原和雄 やすはらかずお : ジャーナリスト・元毎日新聞記者
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今回の参院選挙はこれまでになく重要な選挙になるのではないか。それは今後の日本の進路をどこに求めるのか、その行方がかかっているからである。安倍首相が唱えるアベノミクスは、日本改革に名を借りた「日本改悪プラン」である。
具体的には消費税引き上げ、社会保障費の冷遇、所得格差の拡大、地域社会の劣化、さらには環太平洋パートナーシップ協定(TPP)による外国産品輸入増と国内農業の崩壊懸念などにとどまらない。平和憲法の改悪、日米軍事同盟の強化、戦争を視野に含む軍事化路線の推進など、これまでとは異質のプランに傾斜しつつある。総体として「アベノミクスは人々の生活を破壊する」と指摘するほかない。(2013年7月6日掲載)

 第23回参院選挙は2013年7月4日公示され、21日投開票の運びとなる。参院選挙をめぐって新聞社説はどう論じたか。大手紙の7月4日付社説を吟味する。ただし讀賣新聞社説は5日付。まず社説の見出しを紹介する。
*朝日新聞=参院選きょう公示 争点は経済にとどまらぬ
*毎日新聞=参院選きょう公示 投票こそが政治参加だ
*讀賣新聞=参院選公示 政治の「復権」へ論争を深めよ
*日本経済新聞=13参院選 政策を問う 与野党が政策を競う参院選を望む
*東京新聞=参院選きょう公示 おまかせ民主主義 脱して

 各紙の要点を紹介し、それぞれに<安原の感想>をつける。

(1)朝日新聞=無関心ではすまされない
 今回の参院選も世論調査を見る限り、有権者の関心は盛り上がりに欠ける。05年の「郵政解散」以来、過去5回の国政選挙は、いずれも政治の風景を一変させた。一方で、そのたびに与野党が政争を演じ、有権者はうんざりしているのかもしれない。
 だが、ここは正念場である。
 これから数年、日本政治には次々と難題が押し寄せる。TPP交渉が本格化し、来年には消費税率引き上げが予定されている。社会保障改革や財政再建も待ったなしだ。
 安倍首相が持論とする憲法改正も、いずれ大きな焦点に浮上する可能性がある。
 私たちのくらしと未来に深くかかわる参院選だ。無関心ではすまされない。

<安原の感想> 緊張感が不足していないか
どうも最近の朝日社説には読後感として物足りなさが残る。なぜなのか。明確な主張が不足しているためではないか。他人事のような書き方が目立つのだ。例えば「憲法改正も、いずれ大きな焦点に浮上する可能性」と書いているが、そういうのんびりした雰囲気ではない。すでに最大の焦点となっているのだ。ジャーナリストとしての緊張感が不足しているとはいえないか。世界に誇る「平和憲法」を守り、生かしていくことが我(われ)ら日本人の歴史的責務だと考える。

(2)毎日新聞=有権者の責任にも
 有権者の責任にもふれたい。
 たとえ選択に迷っても政党、候補の主張を見極め、必ず1票を投じてほしい。いくらネットなどを通じて豊富な情報が得られても投票所に足を運ばないようでは政治に参加する最も大きな責任の放棄である。
 震災復興、緊張する中韓両国との関係、環太平洋パートナーシップ協定(TPP)など有権者がそれぞれ自分が最優先とする個別の政策課題を決め、考え方の近い政党や候補に投票する選択もあっていい。国の針路を決定づけ、民主主義の基盤にもかかわる参院選という認識を公示にあたり幅広く共有したい。

<安原の感想> 進む「日本の劣化現象」
「投票所に足を運ばないようでは政治に参加する最も大きな責任の放棄」という指摘は正しい。日本国憲法第12条に「自由・権利の保持義務、乱用の禁止、利用の責任」とある。言い換えれば選挙権の行使は「大人としての責任」でもある。最近の選挙風景で気がかりなのは投票所に足を運ばない大人が増えていることだ。選挙権を持ちながら、その権利も責任も果たさないのは大人とはいえない。判断力、行動力の拙い幼児同然の存在であろう。このような「日本の劣化現象」進行を食い止める策は果たして見出せるのか。

(3)讀賣新聞= 憲法改正の積極論議を
 憲法も重要な論点である。96条が定める改正の発議要件について自民、維新の会、みんなは緩和を主張する。公明は「改正内容とともに議論する」とし、民主も「先行改正」に反対だが、ともに緩和への余地も残している。
 参院選の結果次第で憲法改正が現実味を帯びる展開もあろう。
 自衛隊の位置づけや二院制、地方分権など、新しい「国のかたち」のあり方をめぐり、各党・候補には積極的な論争が求められる。
 民主主義の根幹である選挙は、政党・候補者と有権者の共同作業だ。ムードに惑わされず、各党・候補者の主張をじっくり吟味し、貴重な1票を行使することが、有権者の重要な責任である。

<安原の感想> 権力と共に歩む新聞の読み方
末尾の「ムードに惑わされず、各党・候補者の主張をじっくり吟味し、貴重な1票を行使することが、有権者の重要な責任である」という主張は、一読したところ、文句のつけようがない。公正中立の視点に立つ主張とも読める。しかし讀賣社説の真意はそうではない。中段の「参院選の結果次第で憲法改正が現実味を帯びる展開もあろう」、さらに小見出しの「憲法改正の積極論議を」が讀賣としての本音とはいえないか。新聞社説を読むときには、権力と共に歩む新聞かどうか、その視点を見逃さないようにしたい。

(4)日本経済新聞=実感を伴う経済成長に
 論戦の焦点はアベノミクスだ。第1の矢の金融緩和、第2の矢の財政出動によって景況感がよくなった。安倍晋三首相が誇るように「日本を覆っていた暗く重い空気が一変した」のは間違いない。
 次の課題はこうした変化を一時的な現象に終わらせず、国民ひとりひとりが実感する経済成長に育てられるかだ。首相が「実感をその手に」とのスローガンを掲げたのは、それがよくわかっているからだろう。首相が今春、経済界に賃上げを要請したのもそうした問題意識による。
 アベノミクスが成長力の向上につながり、恩恵が広く行き渡るようにできるのか。決め手は第3の矢の成長戦略だ。自民党内には小泉内閣が進めた構造改革が所得格差を拡大し、支持基盤である地域社会を壊したとの見方があるが、改革を止めては逆効果だ。

<安原の感想> 第3の矢・成長戦略の行方 
「アベノミクスが成長力の向上につながり、恩恵が広く行き渡るようにできるのか。決め手は第3の矢、成長戦略だ」― 日経社説として、一番言いたいところはここだろう。経済成長主義にこだわる日経らしい主張といえる。しかし成長主義は決して万能ではない。日経社説自身、「自民党内には小泉内閣が進めた構造改革が所得格差を拡大し、支持基盤である地域社会を壊したとの見方がある」と指摘しているではないか。成長戦略に期待していると、やがて大きな失望感を味わうことにもなるだろう。

(5)東京新聞=お任せ民主主義 脱して
 憲法や原発は、国民の運命を決する重要課題だ。候補者は所属する政党の大勢におもねらず、自らの考えを堂々と述べてほしい。
 今回はいつにも増して重要な参院選だ。衆院解散がなければ三年間は国政選挙がなく、この機を逃せば当面、有権者が選挙で意思表示する機会はない。自民党が勝てば、首相はフリーハンドを得る。
 棄権したり、何となく投票したりの「お任せ」民主主義を続けては、政治はよくはならない。暮らしを豊かにするのはどの政党、候補者か。公約や人物を吟味して投じる一票一票の積み重ねこそが、大きな力となるはずだ。

<安原の感想> 「お任せ民主主義」卒業の条件は
「棄権したり、何となく投票したりのお任せ民主主義では、政治はよくならない」は平凡ながら真実をついている。ではお任せ民主主義を卒業するためには何が求められるのか。2012夏発足した新政党「緑の党」(地方議員は多いが、国会議員はまだいない)の次のような変革意欲あふれる政策目標は見逃せない。いのち尊重、脱「経済成長」、脱「原発・放射能」、脱「軍事同盟・日米安保」、参加する民主主義(=脱官僚、市民自ら政策決定)の実践など。「アベノミクスは人々の生活を破壊する」と批判的姿勢で一貫している。

初出:安原和雄のブログ「仏教経済塾」(13年7月6日掲載)より許可を得て転載
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〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://www.chikyuza.net/
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