反動と専制の枢軸同盟に活路を見出すミャンマー軍事政権

 12月8日にミャンマー軍事政権が強行しようとしている総選挙を前に、中国は「春の革命」――2021年2月のクーデタに対する抵抗運動――を挫折させるべく、政権へのテコ入れを本格化させている。第一に、アセアンからも締め出され、国際的に孤立していたミンアウンフライン政権に正統性(正当性)を与えるべく、習近平国家主席自らがミンアウンフライン最高司令官を中国に迎え、5月、9月と二度にわたって正式会談をした。クーデタ以降、自国民に対する拷問、射殺、空爆撃などによって、「政治犯支援協会(AAPP)」によれば、7000名近い死者を出している世界で最も残虐非道な政権に対し、中国は恥知らずにも最恵国といっていい待遇を与えようとしている。5月の中国外務省の正式声明は、欺瞞に満ちた歯の浮くような美辞麗句を連ねている。

「中国はミャンマーと協力して運命共同体の構築を深め、質の高い一帯一路協力を共同で推進し、世界開発構想、世界安全保障構想、世界文明構想を実現し、両国の人々にさらなる利益をもたらす」

 国際関係のレアルポリティークを勘案したとしても、世界で最も残虐で腐敗した政権との友好関係は、中国の国家的威信をみずから貶めるものである。1955年、アジア・アフリカの新興諸国が一堂に会し、非同盟中立運動を立ち上げたバンドン会議での周恩来首相の晴れ姿を思い出すとき、あれはいったい何だったのかという気分に陥る。いま、中国以下、ロシア、ベラルーシ、北朝鮮と連なる反動と独裁の枢軸の一翼にミャンマーが加わろうとしているさまは、二十世紀社会主義諸国の挫折後の荒廃した政治風景と映る。

9月3日、「抗日戦争勝利80年」式典にて、金正恩主席と

5月、ロシアの戦勝記念式典でルカシェンコと

 中国のテコ入れの二つ目は、武装抵抗勢力の戦闘力を殺ぐために、物資のサプライ・チェーンを強い圧力で断ち切ったこと。そのことによって、旧王都まで迫りつつあった武装勢力の進撃は止まり、かつ占領地から撤退せざるを得なくなった。さらに、ミャンマー最大の少数民族武装勢力(4万人)であるワ州連合軍(UWSA)から様々なルートで民主派抵抗勢力にも流れていた武器の流れはとまった。したがって推測の域を出ないが、乾季明けの10月半ばから12月にかけて計画していたであろう、総選挙阻止の武力攻勢は縮小せざるを得ないであろう。対して、中国とロシアからの物心両面での厚い援助は、軍事政権による「文民」政府の樹立にむけたロード・マップの履行を容易ならしめるであろう。

 さらに軍事政権にとって僥倖といえるのは、日々、ネオ・マッカーシズム旋風を巻き起こしているトランプ政権が、彼らと同質の権威主義志向であることである。民主主義の価値など歯牙にもかけないトランプ大統領は、豊富な天然資源を有するミャンマーを中国が囲い込むのを座視するよりは、軍事政権と外交関係を正常化させて、レアアースやタングステンなど希少資源を獲得する方に傾くであろう。今、軍事政権は、トランプ政権との国交正常化を策し、情報省が、とりあえず契約金1年で300万ドル(約4億5千万円)で米DCIグループとロビー活動の契約を結んだという。1年前は、軍隊内でのクーデタの噂さえあったミンアウンフライン政権は、この潮目の劇的な変化に欣喜雀躍する思いでいるかもしれない。

 しかし最高司令官ミンアウンフラインが、総選挙をきりぬけ、かたちだけの文民政府の元首に収まったとしても、軍事政権の本質は変わらない。国民の90%以上から支持されない政権が、持続可能でないことは論を待たない。軍事政権は生き延びようとすれば、今後ますます中国やロシアに従属せざるをえないのだ。他方、民主派抵抗勢力は、政治綱領の練り上げと政治的軍事的指揮系統の一本化に全力を尽くさなければならない。この国の宿痾ともいうべき、民族・宗教・地域別による分断と抗争をどれだけ克服できるのかが鍵となる。そのためにもトップリーダーが姿を現し、苦難に耐えている国民に対し、直接訴えかける機会をもつことがぜひとも必要である。

<ロシアの手を借り、原発導入策す>

 クーデタ後ミャンマーの電力事情は、恐ろしいほど劣化の度を強めている。例年であれば、ダムの貯水量が増し発電量が増す雨季ですら、ヤンゴンでは一日の半分は停電に見舞われ、工場などの稼働に支障をきたしてる。ジェネレーター(発電機)を使用すれば、燃料費がかさみ採算割れすることになる。その意味で、ロシア産石油の輸入に頼らざるを得ないが、それでも外貨不足に悩む軍事政権にとっては限界があり、それを解決するかにみえる原子力発電は、以前から垂涎の的であった。しかし、さすがの中国でもこの件では軍事政権を信用せず、相手にしていなかった。ところが、ロシアは国際社会が危険とみなすことでも、自己の仲間が増え、サバイバルに役立ちそうなら多少の冒険は気にしない。現にロシアは北朝鮮に対して、原子力潜水艦用の小型原子炉を含む動力機関を今年中に提供するというではないか。

 すでにロシアは、国営原子力企業ロスアトムが、軍事政権の行政首都ネピドー近郊において、110メガワット級小型モジュール原子炉(SMR)の建設を支援を始めている。内戦で砲弾が飛び交うなかで、なによりも安全性が最優先されるべき原発建設を強行するという神経が理解できない。

陳腐化した原発技術をありがたく押し頂くミンアウンフライン イラワジ

 去る9月25日、モスクワで開催された「世界原子力週間フォーラム2025」に、ミンアウンフラインは招かれた。「2022年にロシアとの協力を開始して以来、加速した努力とロシアの多面的な支援のおかげで、大きな進歩が遂げられてきた」として、ミンアウンフラインは、国際聴衆の前でロシアの80年にわたる核開発の進歩を称賛し、モスクワに感謝の意を表したという。自らの延命に手を貸してくれた習近平とプーチンに対し、その靴底を舐めることすら厭わない勢いではないか。

<新聞の論考から>

もうひとつのノーベル賞:暗闇の中で調査する人々

――Justice for Myanmar(ミャンマーのための正義)という団体は、東南アジアの残忍な軍事独裁政権から利益を得ている者たちやそのビジネス・パートナーたちを調査によって明らかにしている。
出典:taz.1.10.2025  Von Sven Hansen
原題:Alternativer NobelpreisRechercheure im Dunklen
https://taz.de/Alternativer-Nobelpreis/!6117238

 ミャンマーの軍事政権、その側近、そして外国のビジネス・パートナーたちの不正行為を調査で暴いている活動家グループこそが、自らも秘密裏に活動しなければならないというのは、ある種の皮肉である。しかし、2021年2月1日に東南アジアの国でクーデタを起こして権力を掌握したミンアウンライン将軍率いる軍事政権は、反対派に対して残忍な手段を講じている。権威ある現地の人権団体「政治犯救援協会 AAPPB」 によると、クーデタ以降、7,310 人が軍事政権軍によって殺害され(9月30日現在)、現在 22,464 人の軍事政権反対派容疑者がミャンマーの刑務所に収監されている。国連によると、国内ではさらに約300万人が避難民となっている。

 この責任は、国内および海外の軍事政権のビジネス・パートナーも負っている。彼らは軍事政権の犯罪を可能にしているのだ。その闇の活動、癒着、そして致命的な取引について、一般の人々がより多くを知ることができるようになったのは、現在「Right Livelihood Award」(「代替ノーベル賞」)を受賞した組織「Justice for Myanmar(JFM、ミャンマーの正義)」の功績である。JFM は、自己防衛の理由から受賞発表の日に記者会見を開かず、公の場に出られない、今年の受賞者の中で唯一の受賞者である。組織がどこにあるのかさえ、はっきりしない。JFM はそのウェブサイトに次のように記している。「私たちは、調査、データ視覚化、報告を通じて、残虐行為、戦争犯罪、大規模な苦難から利益を得ている企業や犯罪者を暴露する、秘密裏に活動するグループである」

「勇気ある」、「先駆的」、「革新的」

 この賞の選考委員会は、「ミャンマーの腐敗した軍部への支持を弱める、勇気ある先駆的な調査手法」を称賛している。JFM の調査は、欧米諸国や日本の制裁にもかかわらず、軍事政権との取引を継続している企業を対象とするだけでなく、ヨーロッパなどの一般市民が自ら行動を起こし、可能な限り消費行動を通じてミャンマーの民主化運動への連帯を示すことを可能にするものである。

 同時に、JFM は活動家、人権団体、労働組合にキャンペーンに必要な重要な情報を提供している。なぜなら、企業は大きなプレッシャーがかかって初めて反応するからである。JFM は、他の団体と共同でキャンペーンを展開し、ドイツとフランスの航空機メーカーであるエアバス社に、ミャンマー空軍に武器を供給している中国の航空機・防衛企業である中国航空工業集団(AVIC)の株式売却を働きかけることに成功した。空軍は学校や修道院を繰り返し攻撃し、長い間、軍事政権が権力を維持するための最も重要な手段であった。

 ベルリンに亡命中のミャンマー人作家であり人権活動家でもあるマ・ティダ氏は、自国における作家団体PEN(ペンクラブ)の創設者であり、JFMへのこの表彰は当然のものだと考えている。「ミャンマーの抵抗運動において、この組織に匹敵するものは他にありません」と、マ・ティダはドイツ紙tazに語っている。「この組織は、非常に賢く、戦略的に活動し、優れた調査能力を発揮しています」

(機械翻訳を用い、適宜修正した)

〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 https://chikyuza.net/
〔opinion14456:251003〕