台湾総統選の結果には注目すべきだろう。時事の記事には、「蔡英文氏が再選 過去最多得票で韓氏に圧勝―「一国二制度」拒絶」と見出しが打たれている。取材者の印象が「圧勝」だというのだ。
昨日《1月11日》の投開票で、投票率は75%と高い。前回が66%だから、選挙民のこの選挙への関心の高さがよく分かる。民進党・蔡英文の得票が817万票(57%)で過去最多であったという。対する最大野党国民党の韓国瑜は552万票(38%)だった。
各紙の報道は、対中関係での強硬路線と融和路線の争いと見て、「強硬な姿勢で臨んだ蔡氏に絶大な支持が集まり、対中融和路線派に圧勝した」とする。なお、同時に行われた立法院(定例113)選でも民進党は61議席を得て過半数を維持した。
時事によれば、蔡候補の訴えは、
「台湾の主権と民主主義を守ろう」
これに対する韓候補のフレーズは、
「中国と関係を改善すれば、台湾は安全になり、みんな金持ちになれる」
というもの。
もう少し敷衍すれば、
蔡「なによりも、主権の確保・民主主義の貫徹・自治の防衛が重要ではないか。けっして、大国である中国に呑み込まれてはならない。目先の経済的利益のために、あるいは政治的摩擦を恐れての安易な妥協は将来に取り返しのつかない禍根を残す」
韓「所詮中国の政治的・経済的影響を排除することなど無理なこと。現実的に考えれば、対中融和こそが、望ましい安全保障政策であり、台湾経済を豊かにすることができる」
理念派対実利派の対抗関係でもあり、政治重視派対経済重視派の争いでもあり、短期利益重視派対長期利益重視派の論争でもあると言えよう。
日本各地でもありふれた政治抗争パターンである。原発立地問題や基地建設問題、アベ友学園建設問題、カジノ誘致…、みんなこの手の争いである。日本では、実利派が圧倒的に強く、理念派の旗色が悪い。しかし、香港でも台湾でも、また韓国でも、良識ある理念派の層の厚さに敬意を表せざるを得ない。
なお、4年前の蔡政権発足以後、政権への民衆の支持は必ずしも高揚せず、世論調査による政権支持率は低迷していたという。しかし、中国が事態を逆転させた。2019年1月、習近平が将来の台湾統一に向けて「一国二制度こそが最良の形だ」と発言した際には、蔡氏は即座に「絶対に受け入れられない」と反発した。
そして、同年6月以来の、「一国二制度」の悲劇が香港で繰り広げられた。香港の運動に共感する人々が蔡政権への支持を高揚させた。反対に、台湾でも中国への警戒感が高まり、対中国融和派には、強い逆風となってしまったという。
逆風の源は香港だけではない。たとえば,昨年暮れには上海からこんなニュースが発信されている。
上海に復旦大学という名門がある。日本の大学になぞらえれば京都大学に相当するという。その大学規約の改正が話題となった。毎日の年末の報道では、「大学規約から『思想の自由』削除に抗議 中国の名門・復旦大で異例の集会」という見出し。
中国では大学の規約改正に教育省の許可が必要。同省が12月5日に許可した復旦大の新規約によると、序文にあった「学校の学術・運営理念は校歌にうたわれている学術の独立と思想の自由」との部分が削除された。そして「学校は中国共産党の指導を堅持し、党の教育方針を全面的に貫徹する」となった。
大学では学生らによる抗議集会が18日以降、断続的に開催されている。中国当局は大学での思想管理を徹底。名門大でのこうした集会は極めて異例だ。
この動きは、ネットで伝えられたが、12月末、既にネット上では関連投稿がほぼ削除されている。検索サイトでも「復旦」「自由」などのキーワードで検索できなくなっている。復旦大当局は18日に「改正手続きは合法的に行われ、党の指導をさらに徹底するものだ」とのコメントを出した。
これだから、香港の人々も、台湾の人々も、中国には呑み込まれたくないと必死にならざるを得ないのだ。
(2020年1月12日)
初出:「澤藤統一郎の憲法日記」2020.1.12より許可を得て転載
http://article9.jp/wordpress/?p=14123
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 https://chikyuza.net/
〔opinion9344:200113〕