8月15日、当ブログでお知らせしましたように、以下の集会で、上記の題で話をしました。
なぜ私たちは天皇制に反対しているのか
即大訴訟控訴審に向けて8・31集会
2024年8月31日(土)18時~/文京区民センター2A
講演:内野光子「短歌と勲章~<歌会始>という通過点」
主催・即位・大嘗祭違憲訴訟の会
詳細は:ダウンロード – img175.pdf
台風10号の進路がなかなか定まらず、関東も、いつどこで遠隔豪雨や雷雨に見舞われるかもしれない状況の中で、主催者も迷われたとのこと、私も心配だったが、実施となり、交通機関も平常通りであった。
多くの方の前で話すのが、いつまでたっても苦手なので、レジュメや資料の他に読み上げ原稿も持参したが、斜め左の壁時計を見ながら、かなり端折りながらの1時間であった。
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短歌と勲章~「歌会始」選者という通過点 内野光子
1.歌会始選者への道、その閉鎖的な世界
1)コースのパターン化
2)長期化・固定的
3)結社の偏向、私物化
4)前衛?リベラル派?からの変節・転向
2.文化勲章への道~国家的褒章はだれが選考するのか
1)芸術選奨の場合
2)紫綬褒章・文化勲章の場合
3.“リベラル派” 識者・論者の天皇制への傾斜
資料① 近年の歌会始選者たちの国家的褒章受賞歴
資料② 近年の芸術選奨(文学部門)の歌人の選考審査委員・推薦委員一覧
資料③ 受章者はどのように決まるのか
資料④ リベラルな?人たちの発言典拠一覧
資料⑤ 引用短歌一覧
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「1.歌会始選者への道、その閉鎖的な世界」では、 資料①②を使いながら、歌会始選者の近年の傾向、特色を説明した。資料①から明らかなように、選者に就くコースがパターン化している。「芸術選奨⇒歌会始選者⇒紫綬褒章」のコースをたどるのが永田和宏、三枝昂之、内藤明、栗木京子。また以下の三人は、いきなり歌会始選者にピックアップされたが、つぎのような縁故があったことは無視できないだろう。永田和宏の妻であった故河野裕子、三枝昂之の妻ある今野寿美、岡井隆の「未来」の後継者となった大辻隆弘である。
つぎに長期化の例としては、木俣修24年間、岡野弘彦29年間、岡井隆21年間、世代がかわっても、現役の永田が20年間、三枝が16年間で、当分辞めそうにもない。内藤明は12年間務めて来年から栗木京子に替わっている。なぜ長期になるのか。栄誉や権威が伴うとされ、執筆・講演・短歌大会や新聞雑誌歌壇選者などの依頼が多くなり、属する結社の会員獲得にも一役担うなどの現実的な利益も享受できるからではないか。
選者は五人、来年を例にすれば、三枝・今野夫妻は同じ「りとむ」の発行人、編集人であり、永田・栗木は、同じ「塔」の選者であり、大辻は、「塔」と同じアララギ系の「未来」の代表・理事長である。現在、結社の主張の違いや特色はすでに薄れてはいるものの、この偏り方はやはり異常であり、長期化、固定化、私物化の傾向と重なる。
資料①近年の歌会始選者たちの国家的褒章受賞歴
ダウンロード – e8b387e696991.pdf
資料②近年の芸術選奨(文学部門)の歌人の選考審査委員・推薦委員・受賞者一覧
ダウンロード – e8b387e69699e291a1.pdf
「1-4)前衛?リベラル派?からの変節・転向」については、資料⑤で、選者・作品に即して紹介した。塚本、穂村、斉藤の作品は、歌会始選者ではないが、 天皇を詠んだ歌として参考までにあげた。塚本は後、紫綬褒章を受章、斉藤には歌会始選者にと声がかかったら「ぼくも行くかも」の発言がある(『短歌人』2016年11月)。
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資料⑤ 引用短歌一覧
塚本邦雄(1920~2005)
・日本脱出したし 皇帝ペンギンもペンギン飼育係りも
(『日本人霊歌』1958年)
岡井隆(1928~2020)
・また一歩ジャーナリズムは右へ寄る 読み捨てて出づあつき靴履き
(『斉唱』1956年)
・天皇の居ぬ日本を唾(つばき)ためて想う、朝刊読みちらしつつ
(『土地よ、痛みを負え』1961年)
・皇(すめら)また皇(すめらぎ)といふ暗黒が杉の間に低くわらへる
(人生の視える場所 1982年)
三枝昂之(1944~)
・檄文にちかき言葉を書きつのる冬の真昼の樫よりかたく
(『若き志士達の世界へ』1973年)
・サーチライトがわれをよぎりゆきわが影がはいつくばっている 祖国
(同上)
永田和宏(1947~)
〈特定秘密保護法案、衆議院で強行採決、11・26〉
・だれもまだ怖さを実感してゐないその間にこそ機はあるらしも
(『置行掘』2021年)
・不時着と言ひ替へられて海さむし言葉の危機が時代の危機に
(同上)
・権力にはきつと容易く屈するだらう弱きわれゆゑいま発言す
(「現代短歌」 2015年1月)
(安保法制反対の学者の会の呼びかけ人コメント6首のうちの1首)
栗木京子(1954~)
・観覧車回れよ回れ想ひ出は君には一日我には一生
(『水惑星』1974年)
・観覧車ゆふべの空をめぐりをりこれからかなふ望み灯して
(歌会始「望」2020年、召人)
大辻隆弘(1960~)
・冷ややけき床のおもてに膝を折り手を延べまししことも偲はゆ
(『橡と石垣』2024年)
・皇室は短歌(うた)の強味であることをわれは書きたりはつか怯えて(同上)
・天皇を嗚咽せしめし感情を推しはかりつつ涙してをり(同上)
穂村弘(1962~)
・ゴージャスな背もたれから背を数センチ浮かせ続ける天皇陛下
(『短歌往来』2010年2月)
吉川宏志(1969~)
・天皇が原発をやめよと言い給う日を思いおり思いて恥じぬ
(『短歌』2011年10月『燕麦』2012年所収)
斉藤斎藤(1972~)
(国民統合の象徴でいただく為の文化的貢献こそ、われわれ歌人にしか不可能な、超政治的貢献である〉
・つまりなるべくしずかに座っててください 察しますから、察しますから
(『短歌研究』2021年1月)
*赤字の短歌は、当日の資料には書き洩らしてるが、ぜひ伝えたかった作品である。
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岡井隆は、塚本邦雄、寺山修司らと前衛歌人と称されていたが、1960年、当時の現代歌人協会が歌会始入選者の祝賀会を開催したことに強く抗議し、メディアの歌会始報道と選者たちを批判していた。ところが1993年、昭和天皇没後のはじめての歌会始の選者となった。当時の歌壇にはまだ批判する歌人も多く、特集など組むメディアもあった。岡井自身は、歌会始は、最大ではあるが、一般の短歌コンクールの一つだから、特別な思いはないとか、いまや体制も反体制も死語になったとか弁明しつつ二重橋を渡った。しかし晩年には、歌会始批判は若気の至りであったとし、人間は変わるから成長するとも語っていたが、なんとも身勝手な、無節操な、と私には思われた。
三枝昂之は、1960年代後半、早稲田大学の学園闘争の活動家で、第一歌集は革命的ロマンティムズの歌とも称されていたが、後に日常的な作風に替わった。評論も多いが代表作『昭和短歌の精神史』(2005年)では、戦争期・占領期をひとくくりにする視点から、その二つの時代に活躍した歌人たちにむけて「あの時代を苦しくも誠実に担った人々への、60年後の鎮魂の書である」と結んでいる。これって、戦時期の翼賛、占領期の無抵抗の歌人たちの責任をなかったこととするに等しいのではと考え、書評を書いたこともある。
永田和宏は、変節というより、親天皇(制)を全うしながら、政権批判をしていることになり、それぞれの場での短歌の評価に矛盾はないのか、ダブルスタンダードの典型的な例かもしれない1915年から歌会始選者となった今野寿美が、2016年から「しんぶん赤旗」歌壇の選者を二年間務めたことと共通するものがある。
来年から選者になる栗木京子の観覧車の歌は、若い人ならだれでも知っている有名な歌である。というのも、中学校の国語教科書すべてに、与謝野晶子、石川啄木、斎藤茂吉たちの歌と並んで教材として収録されているからである。2020年召人として詠んだ歌は、自らの歌の「本歌取り」といえる。ずいぶんとサービス精神に富んだものというのが感想であった。数年前、お笑い芸人たちに短歌を競わせ、栗木が一刀両断で勝負を決めるというNHKの短歌番組が続いていた。栗木がそこまでするのかと、どこか痛々しく見えてしまったのだが、その芸人の一人が、松本人志のセクハラに加担したとして、活動を停止している。あの番組はどうなったのか。
大辻隆弘は、2019年2月の朝日新聞の歌壇時評「短歌と天皇制」において、戦後短歌は天皇制への反省からスタートしたが、今や天皇制アレルギーはなくなった、という。岡井の弁明を想起するが、資料⑤の三首以外にも多くの類歌を2024年3月に出版した歌集『橡と石垣』に収められている。
<参考過去記事>
来年の歌会始の選者が決った~やっぱり栗木京子も(2024年7月 2日)
http://dmituko.cocolog-nifty.com/utino/2024/07/post-b0fbd5.html
来年の「歌会始」はどうなるのだろう(2023年3月 9日)
http://dmituko.cocolog-nifty.com/utino/2023/03/post-74140a.html
「短歌と天皇制」(2月17日『朝日新聞』「歌壇時評」をめぐって(1)~(4)(2019年2月25日~3月5日)http://dmituko.cocolog-nifty.com/utino/2019/02/210-9ef9.html
(1)以下URL省略
初出:「内野光子のブログ」2024.9.3より許可を得て転載
http://dmituko.cocolog-nifty.com/utino/2024/09/post-eb6193.html
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 https://chikyuza.net/
〔opinion13868:240903〕