周回遅れの読書報告(その6)

 民主党の高速道路政策がフラフラしている。フラフラしているのは、高速道路政策に限るわけではないが、高速道路については振幅が大き過ぎる。『文藝春秋』の2010年6月号に猪瀬直樹が「小沢の狙いは道路公団の復活だ」という批判記事を書いている。猪瀬は小泉が首相だった頃、道路関係四公団民営化推進委員会の委員だった。そして、委員会の意見書を受けて、民営化の政府案が決まった時、何人もの委員が「政府案は委員会の意見書を無視するものだ」として厳しく批判し、辞任さえした時、「政府案は合格点だ」と擁護に回った。私に言わせれば、民主党の政策がフラついているのは、小泉の民営化がいい加減なものだったからだ。いまさら猪瀬が民主党を批判する資格はない。ある飲み会でそんな話をしていたら、話し相手はすっかり同意したうえで、「なんでマスコミは猪瀬のいい加減さがわからないのか」と愚痴り始めた。

 マスコミは分からないわけでも知らないわけでもない。ただ書けないのだろう。民営化委員会のなかで猪瀬がどういう動きをしたかは、民営化委員会で猪瀬と一緒だった田中一昭や、猪瀬を「権力の道化」とこきおろした評論家の櫻井よしこがすでに詳細に書いている。そのことをマスコミが知らないわけではない。しかし、小泉時代に官邸によって「道路公団改革の旗手」とされ、当時の国交相石原伸晃の父親慎太郎によって東京都副知事に据えられた猪瀬のことを批判するのをはばかっているだけのことではないか。

そういう中で、朝日新聞の記者として民営化委員会の動きを一貫してウォッチしていた星野眞三雄が当時の猪瀬の動きも含めて詳細なレポートをまとめた。関係者の話では、この本のもととなった原稿は2003年にはまとめられていたらしいが、朝日の社内の強烈な反対(いってみれば言論弾圧)で出版できなかったらしい。これが事実だとすれば、日本の言論の貧弱さもここに極まった感がある。

この本はもっと早く出版されるべきだったが、猪瀬が当時何を言っていたかを知ることは今もなお意味を失わない。2003年10月に猪瀬は、星野とは別の朝日の記者の取材に対して次のように言っている。「規格の見直しだって俺が古賀(誠)さんに話をつけたんだって。実質はここで決着ついているわけ。…今井さんは経済界の総理で重みがある。中村さんは学会の権威。俺は問題提起してきた。それだったら重みがあるけど、何も考えていない連中が4人いて、重みなんかないよ。表に出したくないだろ、バカな連中がいるってのはさ」。今井敬・元経団連会長と中村英夫・元東大教授はともに道路族寄りの主張を続け、民営化委員会の最終意見に反対した。猪瀬は「何も考えていないバカな4人の委員」と一緒に最終意見をまとめたが、2003年の末には、なんと今井・中村の主張に沿った政府案を擁護した。道路族のドン・古賀との間で話がついていたのであれば、それは当然である。

しかしこのことは当時の朝日新聞は全く伝えなかった。星野は朝日の記者であるが、猪瀬批判を介して、期せずして朝日が如何に駄目な新聞であるかも伝えている。

星野眞三雄『道路独裁』(講談社、2009)

〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://www.chikyuza.net/
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