脇野町善造の執筆一覧

「1968年はどういう年であったか」──周回遅れの読書報告(その84)

著者: 脇野町善造

 今年の一月のはじめ、滞在していた九州の地方都市の古本屋で、マーク・カーランスキー『1968 世界が揺れた年』の前篇を見つけた。後篇がなかったので、買うのに少し躊躇したが、価格の安さに惹かれて買ってきて、読んだ。前篇は「

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「自分の、本を見る目の無さにあきれる」──周回遅れの読書報告(その83)

著者: 脇野町善造

 読み返した本の末尾に、その本を初めて読んだ時の「読後感」のようなものが書いてあることがある。トニー・クリフが書いたこの本『ローザ・ルクセンブルク』もそうだった。30年前(1988年)の秋の日付と共に次のようなことが書い

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「マルクス経済学者有沢広巳の魅力」──周回遅れの読書報告(その82)

著者: 脇野町善造

 有沢広巳のことを知っている人間は、みなもうかなりの年配であろう。有沢には『学問と思想と人と』という、自伝のような実にいい著作があるが、こんな本を知っている人間ももう少なくなっているかもしれない。  有沢の功績は大きく分

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「オーラルヒストリーにも面白くないものもある」──周回遅れの読書報告(その81)

著者: 脇野町善造

 何年か前に、宮崎勇『証言 戦後日本経済』を読んだことがある。戦後の経済計画立案の現場に立会い、「官庁エコノミスト」のトップの一人だった人物に対するオーラル・ヒストリーである。本当なら面白くないわけがない。書評での評判も

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「正字歴史的假名遣い論者に問いたいこと」──周回遅れの読書報告(その80)

著者: 脇野町善造

 吉田一穂という詩人の作品「白鳥」が好きである。学生時代にまだ休刊になっていなかった「日本読書新聞」で「磁極30度斜角の新しい座標系に、古代緑地の巨像が現れてくる」という「白鳥」の一節を読んで、こんな詩はとても書けないと

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忘れてもいいことと、忘れてはならないこと──「周回遅れの読書報告」(その79)

著者: 脇野町善造

 古い記録の整理をしていると、全く記憶のないメモが出てくる。もう他界されたある大学の教員とかつて話すたびに、そして手紙を貰うたびに、この大学教員は記憶力の低減を嘆いていた。そんなに酷くなるものかと、訝しく思ったことを覚え

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たまには気分を楽にしたほうがいい──周回遅れの読書報告(その78)

著者: 脇野町善造

 調べものがあって、古いノートを見直していたら、長田弘の詩集『深呼吸の必要』を読んだ際の20年も前のメモが出てきた。本来詩心もないくせに、詩(人)について語るというのもあまり感心した話ではないが、古い記録を残すというのも

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「とんでもない誤訳」──周回遅れの読書報告(その77)

著者: 脇野町善造

 ネットル『ローザ・ルクセンブルク』を知人から借りた。それを読んでいたら、上巻142頁~143頁にローザ・ルクセンブルクの(ベルリンに移住した直後の)日常が彼女の手紙からの引用という形で記されていた。この原文は少し前に読

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「道々の者が消えた」──周回遅れの読書報告(その76)

著者: 脇野町善造

 「定住漂泊」という言葉が好きである。もっと絞って言えば、「漂泊」が好きである。最近まるでそれが出来なくなったから、余計に憧れているのかもしれない。しかし、私が小さい頃にはまだ見かけた、漂泊の人たち(「道々の者」)がすっ

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意見の近親性は意見の簒奪を正当化しない──周回遅れの読書報告(その75)

著者: 脇野町善造

 古い週刊誌(『エコノミスト』1999年11月2日号)に、金子勝『反グローバリズム』に対する間宮洋介の書評が掲載されている。「精緻な議論で、米主導のグローバリズムを切る」という小見出しが付されている。この小見出しからも判

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「異邦人たれ」──周回遅れの読書報告(その74)

著者: 脇野町善造

 昔、抜粋を書き写したカードを小さな箱のなかに入れて机の上においていたことがあった。かっこよく言えば、「未整理カードボックス」とでもいうものである。実際には随分長いこと整理してないカードボックスもあった。ある時、意を決し

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「反スターリニストとしてのイギリス共産党」──周回遅れの読書報告(その73)

著者: 脇野町善造

 伊東光晴『現代経済の変貌』については、すでに(その19)で言及している。したがってその本についてもう一度書くということは、ある意味では「反則」である。しかし、(その19)では忘れていたことがあることに気づいた。「反則」

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「マルクスは何故『資本論』を完成させなかったのか」──周回遅れの読書報告(その72)

著者: 脇野町善造

 山口重克・平林千牧編『マルクス経済学・方法と理論』は、随分と昔になくなった日高普教授の還暦記念としてまとめられたものであるから、その古さが知れる。執筆者のなかには、渡邊寛、侘美光彦、杉浦克己ら、もう世を去った人達も少な

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共同体の夢──周回遅れの読書報告(その71)

著者: 脇野町善造

数年前に異郷で夢を見た。どうしてあんな夢を見たのか理由は今も分からないが、当時のメモ帳を見るとこう書いてある。「人間と同じ姿格好をしているが、大きさは人間の10分の1くらいしかない『借り暮らし族』という種族がいる。その種

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安倍晋三の支持が高止まりしている理由──周回遅れの読書報告(その70)

著者: 脇野町善造

 横山昭雄の『真説 経済・金融のしくみ』を読んだことがある。横山は元日銀マンだが、この本で次のように言っている(258頁)。 「日本国民はこの国難の時、現政権に近来稀なほどの安定を与えた。文字通り、政権が盛んに揚言する“

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「自由に書けることの功罪」──周回遅れの読書報告(その69)

著者: 脇野町善造

 栗原百寿の名前を知ったのは、大学の4年目の年であったように思う。読んだのは彼が戦時中(1943年)に書いた『日本農業の基礎構造』である。戦後に再刊されたこの本の序文で栗原はこれを「奴隷の言葉で書かれた本だった」という趣

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ローザ・ルクセンブルクの驚くべき筆力──周回遅れの読書報告(その68)

著者: 脇野町善造

 部屋を整理していたら捨てられなかった古い記録が随分と出て来た。死んだらみんなゴミとして捨てられてしまうだけだと思い、極力「始末」をしているのだが、始末しきれないものも残っている。大昔、相当の回数にわたって作成した「八百

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政府への信頼の喪失は新しい市民社会を生むか──周回遅れの読書報告(その67)

著者: 脇野町善造

 ずっと昔、もう前世紀のことになるが、アキ・カウリスマキの『浮雲』という映画を観た。そのときのことを思い出した。失業するとはどういうことか、そしてそれを克服するにはどうしたらいいか、そんなことをこの映画を観ながら考えた。

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「マサオ・ミヨシのこと」──周回遅れの読書報告(その66)

著者: 脇野町善造

 マサオ・ミヨシというのが著者の名前である。名前から分かるように、日系の学者である。10年ほど前に死んだという。何度か日本に来たことがあるようだが、会ったことはついに一度もなかった。  ミヨシはサイードやチョムスキーの友

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「夜の闇の中に希望を持つこと」──周回遅れの読書報告(その65) 

著者: 脇野町善造

今日もまた古い話である。講談社のPR誌『本』1999年9月号を読んでいたら、山城むつみという未知の人物が小熊秀雄のことを書いていた。小熊秀雄は私にとっては懐かしい名前である。私はほとんど詩心を持たないし、したがってまた詩

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「反面教師─遍歴放浪の芸術家と道々の輩の差」──周回遅れの読書報告(その64)

著者: 脇野町善造

 反面教師とは人に対して言う言葉である。こういう人物には、高校以来、ずいぶん沢山会ってきた。その都度、こういう生き方だけはしまいと思ってきた。しかし、本になると「反面教師」は意外と少ない。書店の店頭や図書館の書架の前で内

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「モノ書きはすべて無頼の徒」──周回遅れの読書報告(その61)

著者: 脇野町善造

 先日、偶然書棚で見つけた有吉佐和子『開幕ベルは華やかに』を読んだ。もっとも、この著名な作家の推理小説のあらましを語ろうとは思わないし、その内容を評価する力量も私にはない。一つだけ気になる言葉あった。それについて述べたい

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「経済学の目的と経済学の本の書き方」──周回遅れの読書報告(その61)

著者: 脇野町善造

 古いメモを整理していたら、「経済学の目的」という、いささか肩ひじ張ったメモが出て来た。もうそんなことを考えなければならない年でもないのだが、もう少し若い頃はかなり真面目にこのことを考えていたようだ。メモにはこうある。

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「新聞を読むことの効用」──周回遅れの読書報告(その60)

著者: 脇野町善造

 ある程度文字を読めるようになってから、身辺にはずっと新聞があった。純農村というべき田舎で生まれ育ちだったが、どういうわけか、自宅に届けられていたのは地元紙(ローカル・ペーパー)ではなくて、中央の経済紙だった。その手薄な

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「金子勝のセーフティネット論」──周回遅れの読書報告(その59)

著者: 脇野町善造

 古い抜粋ノート(ファイル)の話を続ける。この抜粋ノートを見ると、自分も若い頃はまじめに抜粋を作っていたものだと思ってしまう。金子勝が書いた『セーフティーネットの政治経済学』(ちくま新書)という薄い本の抜粋を、実にB5版

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杉浦克己に見る書評の方法……周回遅れの読書報告(その58)

著者: 脇野町善造

 先週に続き、古い抜粋ノート(ファイル)の話である。杉浦克己が週刊誌『エコノミスト』(1999年9月21日号)で松尾秀雄の『市場と共同体』の書評をしている。その切り抜きが貼ってあり、次のようなコメントが付されていた。  

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「世を去った人達を思う──古い抜粋から」……周回遅れの読書報告(その57)

著者: 脇野町善造

 事情があって、作業部屋に置きっぱなしにしておいた資料を片付けなければならなくなった。その中に書き溜めていた古い抜粋ノート(ファイル)があった。何年かぶりに抜粋ノートを開いてみた。その中に出てくる多くの関係者がもうこの世

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周回遅れの読書報告(その56)「ヘルマン『資本の世界史』のこと」

著者: 脇野町善造

 ヘルマン『資本の世界史』は、そんなに期待して読んだ本ではなかったが、実にいい本であった。抜粋を作ったのだが、やたらと多くなったことも、それを物語っている。こんな風にわかりやすく書くことができるのは、著者がジャーナリスト

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周回遅れの読書報告(その55)本を読むことと考えること

著者: 脇野町善造

 丸谷の本を取り上げるのは2回めである(最初は、その46の『笹まくら』)。最初の報告も奇妙な報告であったが、今回もまたそうなる。「本を読むのも考えもの」というのが今回の報告の主題である。この報告は読んだ本にかかる報告であ

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