和訳:「目から鱗」イズラエル・シャミール シリアに開く突破口

著者: 童子丸開 : スペイン・バルセロナ在住
タグ:

バルセロナの童子丸開です。

ユダヤ系ロシア人ジャーナリスト、シャミールの最新作を和訳(仮訳)しました。

シャミールはロシア、イスラエル、スウェーデンなどいくつもの国に住んできたのですが、今は生まれ育ったロシアを起点に世界的な視野を持つジャーナリストとして活躍しています。

そんな彼と別に同列に並ぶつもりはないのですが、日本人として長年スペインに在住し、自分の上にのしかかる現実や周囲に飛び交う情報を別角度からどこか醒めた目で眺める私自身にとって、なぜかこの作家の文章は感覚的に非常に入っていきやすいものです。

お読みになって「役に立った」とお感じの際には、ご拡散のほどを、よろしくお願いします。

*  *  *  *  *  *  *  *  *  *

http://bcndoujimaru.web.fc2.com/fact-fiction2/A_Syrian_Breakthrough.html

和訳:「目から鱗」イズラエル・シャミール
シリアに開く突破口

イズラエル・シャミールはいつも我々の目に貼りついたウロコを優しく剥ぎ落してくれる。前回(2月1日)に公開した和訳(仮訳)『雪中のモスクワ、リトゥヴィネンコ毒殺、そしてシリア戦争』でも言ったことだが、我々に本当に必要なものは、各国・各勢力の地政学的な戦略やその利害から離れた独立したジャーナリストの視点である。2月11日付で発表された彼の最新記事は、彼にしては比較的短いものだが、シリアでの戦闘と中東の戦乱が大きなターニングポイントを迎えようとしている今日、ぜひとも世界中の人々によって読まれるべきものだろう。
翻訳(仮訳)に用いた原文は次のものである。
http://www.unz.com/ishamir/a-syrian-breakthrough/
A Syrian Breakthrough(シリアに開く突破口)  Israel Shamir February 11, 2016

まず拙訳をお読みいただき、お時間を頂戴できれば私からの【翻訳後記】にお目をお通し願いたい。訳文中には必要に応じて地名や人名などの英語綴り、【 】内に訳注を添えておいた。

2016年2月15日 バルセロナにて 童子丸開

▼▼▼▼▼▼▼(翻訳開始)▼▼▼▼▼▼▼

シリアに開く突破口
イズラエル・シャミール 2016年2月11日

ロシア人とそのシリアの同盟者たちは、反乱側のアレッポ北部への兵站補給路アザズ回廊を断ち切った。我々の 前回の報告(参照:当サイト記事)で、我々はアザズ回廊について次のように書いた。『それはトルコとアレッポにいる反乱武装勢力とをつなぐ幅の狭い地域である。そこは、場所によっては4マイルにまで狭まっているのだが、ロシアの空からの支援があるにもかかわらずシリア(政府)軍は奪うことができない。全ての作戦の成功のために、この回廊を奪い取り補給路を断つことが決定的に大切なのだが、激しい政治的な集中攻撃と軍事的な困難さがあるのだ。最近のラブロフとケリーとの会談で、このアメリカの国務省長官はロシア外相に対してアザズ回廊から手を引くように6度にわたって懇願した。アメリカ人たちはロシアの勝利を見たくないのだ。一方でトルコは、もしこの回廊がふさがれるならシリアに侵攻すると脅迫している。』

いまやことは成り、その回廊はふさがれてしまっている。それは予想されたかもしれないような大きな戦闘ではなく、いくつかのシーア派の村に対する小規模な動きがあっただけだ。しかしその回廊はそれほどに狭く、それで十分だったのである。この地域にいる私の協力者たちは、反乱側はトルコ国境に向かって逃げていると語る。彼らは大勢の一般市民たちを付き従えている。市民たちは、反乱者たちが蒸発して消えでもしないかぎりきっと起こるであろう、アレッポの最終的な戦闘を恐れているのだ。アレッポと全アレッポ地域がシリア軍によって奪取されるようなときが来る場合には、我々はプーチンとアサドに、そしてシリア国民に、偉大な勝利への祝意を表することができるのだろうが。

それまでは、何カ月かの戦闘と爆撃にもかかわらず、ロシア人とシリア人たちは、その努力の割に、ごくごく僅かに目を引く程度の成果をあげてきただけだった。この戦闘は、しらみつぶしにではなく、電撃的な作戦だった。小さな村々はその支配者を変えつつある。いま事が動き始めた。シリア軍がトルコおよびヨルダンの国境線に向けて進み、様々な反乱グループの兵站供給ルートを立ち切りつつある。アレッポ地域にいる包囲されたイスラム原理主義者たちはまだ長い期間にわたって戦うことができるだろうが、彼らは戦意を大きく失っているようだ。

サウジアラビア人たちはシリアに襲撃部隊を派遣する計画をさらけ出した。表向きは「テロリストと戦うため」だが、実際のところは、その敗北を食い止めてシリアのサラフィスト支配地の一部を保護するためである。これは危険な展開であり、アサド大統領は、招かれざる客は棺に入れられて故国に戻ることになるだろうと断言した。しかしながら、サウジは派遣すべき部隊を持っていないのだ。彼らの軍はイエメンで釘づけにされており、不屈のアンサール・アッラー(Ansar Allah)【訳注:北イエメンのイスラム組織で一般にはHouthisと呼ばれる】 と戦う厳しい時を過ごしているのだ。そこですらサウジはコロンビア人の傭兵に頼らねばならないのである。もし彼らがシリアにその部隊の残りを投入するなら、自分たち自身の国があらゆる不測の事態の展開に対して極端に脆弱な状態にされるだろう。それがアンサール・アッラーの逆襲であれ、イランの侵入や大規模なシーア派の反乱であれ。

ロシアは、トルコによるシリアへの侵略が差し迫っていると警鐘を鳴らす。ロシアのメディアは不誠実なトルコについて口角泡を飛ばしている。国営TVのチャンネルで文字通りの「2分間憎悪」儀式(オーウェルを参照)【訳注:ジョージ・オーウェルの「1984年」にある敵の悪口を言う義務】 が1日に何回か繰り返されているのだ。トルコ人たちを震え上がらせて、北方での作戦が続く間は身動きならないようにさせようという考えからだ。その一方でロシアの反対派は、トルコ兵士によるシリア領でのロシア人若者たちの大虐殺という恐るべきシナリオを描いている。トルコのメディアも同様に、あらゆる言辞を尽くしてロシア人どもの恐怖をかきたてようと努めているのだ。

もしあなたが紅海のサンゴ礁の中で潜ったことがあるなら、たぶんあなたはアラビア語でAbu Nafhaと呼ばれるフグの一種に出くわしただろう。それは敵になりそうなものを脅かすために丸く膨らむのだ。この作戦は海の中では際限なく行われる。イギリス人どもはそれが得意である。彼らはロシア人の士気をくじくために正真正銘のパニック・キャンペーンを発動した。

イギリス人はBBCで新しいビデオを矢継ぎ早に放映した。彼らはプーチンを超オリガルヒ、400億ドル(ひょっとして4000億ドルか?)をポケットに入れる世界で最も金持ちの人物にすることから始めた。これは、ロシア・ユダヤ人の反対派の作家であるスタニスラフ・ベルコフスキー(Stanislav Belkovsky) が大好きな話題だった。この人物はプーチンについての本を 何冊か書いたが、三文ジャーナリズム典型のものだった。彼はロシア大統領を、クレムリンから逃げて南国の海でのんきでだらけた生活をおくりたいと望む超金持ちの隠れ同性愛者として描いた。彼が、2011年のプーチン再登場の以前にそれを書いたことをご記憶願いたい。もしプーチンがその記述の通りを望んでいたというのなら、そのようにする絶好の機会を手にしていたのだろう。新たな大統領職に就くのではなく…。

いまBBCはこの本の塵を払い、腐敗した金持ちで怠け者のプーチンについての映像を作った。アメリカ財務相の活動的な次官代理であるアダム・シュビン(Adam Szubin) は即座にこれを確証した。そうだ、プーチンが途方も無い金持ちで極端に腐敗していることを我々は間違いなく知っている、と。かつてロシア最大の外国人投資家だったビル・ブラウダー(Bill Browder) は、脱税その他の誤魔化しのためにロシアでの欠席裁判で長期間の禁固刑を言い渡された人物だが、CNNに対してこう言った。プーチンは2000億ドルを所有している、と。ブラウダーは、プーチンがスイスかどこかの外国の口座にそれを貯め込んでいると暴いてみせた。まるで諜報機関の目からそんな巨額の資産を隠すことが可能ででもあるかのように! もしプーチンが外国に隠し金を持っているというのなら、すでに何年も前からアメリカによって差し押さえられ、あるいは凍結されていることだろう。そんなことを知るのに天才である必要はない。あなたは巨額の資金を隠すことはできない。何百万ドルであればできるだろう。何億ドル程度でもそんなことはできないのだ。

そういったいい加減な告発がブラックPRキャンペーンにとって必須の部分であるようだ。憎むべき人物は誰でも常に世界一の金持ちとして描かれる。ベラルーシ大統領のルカシェンコほどの質素な人物ですらその運命から逃れられなかった。プーチンならなおさらである。ムアマール・カダフィは「ものすごい金持ち」と呼ばれたし、サダム・フセインも同様だが、彼らの死の後に、いまだにだが、どういうわけか何も見つからなかった。かつては支配者がその富を頑丈な自分の部屋に貯めておくことができたのだが、現代の貨幣はアメリカによって認可されるだけであり、その認可もいつ取り消されるか分かったものではない。

プーチンの友人たちや同僚たちは、確かに金持ちになった。ちょうどハリーバートンとチェイニー副大統領やエンロンとブレアーの事業の隆盛が思い出されるような話が、プーチンのロシアの中に数多くある。プーチンは支持者たちに、オリガルヒたちの巨大な力と対抗できるように自分の富を積み上げるように奨励した。ロシアは西側の「同類たち」よりもきれいだというのではない。ロシアは、その敵対者によって描かれるような腐敗に満ちたマフィア国家でもない。資本主義は資本主義であり、それは何の誇張もなく十分に醜いものである。

プーチンが同性愛者であり小児性愛者であると語ったロシア人亡命者に、イギリスの旦那たちが声を与えた。そんないい加減な告発に証明など必要ないのだ! デイリーメール紙は人々の中で幼い少年にキスをするプーチンの写真を添えてその記事を飾った。それは政治家たちが常に行うことなのだが…。

イギリスの恐喝キャンペーンで最もおっかない一分冊は、モキュメンタリー【訳注:架空の人物や場所を使ってドキュメンタリー風に作る作品】 The Third World War: Inside the War Room だった。それは本当のニュース報道の姿をとっているが、次のようなものである。ラトヴィアにいるロシア系住民が自治を要求する。その人々が民族主義の国家指導者によって公民権を剥奪されたからである。政府はそれに対して軍隊を派遣する。ロシアの人道的支援部隊が人々に食料と医薬品の緊急援助を運ぶ。NATOは援軍派遣を決定する。直ちに核兵器の応酬が行われ、そして世界は滅びる。私はこのビデオ作品が誰をも恐怖させうると認めざるをえない。フレディ・クルーガー【訳注:映画「エルム街の悪夢」の主人公】 がやったよりもずっと激しくである。

この恐怖ばら撒きキャンペーンの多くがアレッポをめぐって現在行われている戦闘と結びついているようだ。アメリカとその同盟者たちがその戦闘に加わる意図はない。これは良いニュースである。しかし彼らはロシアを脅迫して反乱者の集団を生き延びさせようとしている。一方でトルコは国境を超えなかった。幾分か誤ってそのように報道されているのだが…。IHHと呼ばれるトルコのイスラム博愛主義の機関が、国境付近のシリア側に大きな難民収容所を作った。私はIHHを知っているし、何年か前にガザでの人道的作業の関係でそれを訪問したことがある。この行為は侵略に達するものではない。そして願わくはそれ以上先に進んでほしくないものだ。トルコの首相アーメド・ダヴトグルは、トルコはアレッポのために戦うと語ったが、おそらく彼らが西側の支援なしで敢えてそうすることはないだろう。

トルコはアレッポに新しい補給路を作ることができるし、これには技術的な問題があるだけだ。西の方でアレッポは、以前のシリアのアンタキア(Antakya)、古代のアンティオキア(Antioch)、アラビア語でLiwa Iskenderunという地域と境界を接している。フランス植民地支配者たちが1939年にトルコにこの地方を引き渡したのだ。現在ではハタイ(Hatay) と呼ばれている。反乱者たちはハタイをトルコの一部と認識している。一方でシリア政府はそれを、イスラエルに占領されるゴラン高原同様に、占領された土地と見なしている。理論上は、トルコ人たちはハタイを通って反乱者たちに兵站供給を行えるのかもしれないが、そこには良い道路が無い。大きな容積の運搬のためには不適当な田舎道があるだけなのだ。そして多分、新しい道路を作るのに十分な時間が無い。それでも、その可能性があることは覚えておいてほしい。

新たな西側メディアのキャンペーンは、もうお分かりだろうが、ロシアの爆撃が積み重ねる大虐殺について語る。巡航ミサイル自由主義者と彼らのお気に入り新聞ガーディアンがすでに、リビアやイラクやアフガニスタンへの侵略を求める扇動に使ったのと同じ、お涙ちょうだいものの調子でいくつかの記事を発表した。

私は停戦を求めたいとは思うのだが、それは反乱者たちが武器を棄てて選挙に参加することに同意した後だけである。さもなければ、停戦は苦痛を延長させるだけになるだろう。実際に始まりもしないうちに終了させられたジュネーヴでの交渉を再スタートさせる最初の試みとして、両サイドが2月25日まで交渉を中断させることになった。もしそのときまでにロシアの爆撃とシリア軍の攻勢によって、反乱者たちの頭に幾分かの良識が作られるなら、彼らは議会と政府の中に居場所を見つけることができるだろう。それから、いずれにせよ停戦がやってくるだろう。

イスラエルは、シリア戦争についていえば、影の薄い存在のままでいる。彼らは、ユダヤのことわざが言うように、有徳のユダヤ人のための作業をダエシ(Daesh)のような悪党どもにやってもらうことを望んでいる。いまやその希望は戦場での出来事によって追求が厳しくなっている。そしてイスラエルの政治家たちは、ダエシの敗北がこのユダヤ人国家にとってどれほどの災厄になるのかを声高に叫び始めた。その最初のものはその点を大声で明らかに語ったユヴァル・シュタイニツ(Yuval Steinitz) であり、他の者たちも彼を支持した。ところが、この(イスラエルがダエシを支援しているという)情報はアメリカの読者とロシアのメディアの耳目からは隠されている。その2大国で、人々は、イスラエルがダエシによって脅かされその壊滅を祈っているかのように信じ込まされているのだ。

シリア戦争でのロシアの成功は、オバマ大統領の用心深い中立さ抜きでは達成できなかった。結局のところ、きっと彼はそのノーベル賞受賞にふさわしかったのだろう。アメリカの大統領ならこのロシアのすばらしい冒険を本物の地獄に変えることができたのである。称賛すべき所に称賛を向けよう。イスラエルが泣きわめこうがサウジが縮こまろうが、ワシントンはロシア人たちがシリアを救うのを静かに許しているのだ。

ニューハンプシャーで戦争狂いのクリントン夫人が敗北したことは、アメリカ国民が平和を、中東での平和とロシアとの平和を、欲しているしるしである。いまそれは手の届く範囲にある。

▲▲▲▲▲▲▲(翻訳ここまで)▲▲▲▲▲▲▲

【翻訳後記】

欧米発の情報も、ロシア発の情報も、イスラエルやサウジやイランやシリアや…、どんな国家や勢力から発せられる情報でも、大なり小なりプロパガンダとならざるを得ない。まして現在行われている、あるいは近未来に予定されている戦争を念頭に置いたものは露骨な戦争キャンペーンであろう。そしてそれを目にして、あるいは怒り狂い、あるいは歓声を上げ、あるいは幻滅に打ちひしがれる人々の姿は、まことに滑稽とも哀れとも言えるようなものだろう。

私がもう10年以上も前に書いた『「スペイン内戦」の幻想と傷と癒し 』の中で、スペインのセビーリャ大学出版の学術雑誌「アンビト」2000年3-4号に掲載された「戦争とプロパガンダの犠牲者としての市民:スペイン内戦(1936-1939)の例」という論文の一部を引用した。著者はセビーリャ大学コミュニケーション科学研究員(当時)コンチャ・ランガ・ヌーニョである。
*******************************************
【前略:訳出・引用開始】
1936年に始まった内戦はスペイン人にとっては可能な限りの最も悲劇的な性質のものであった。同様に、国外ではその展開が情熱を掻き立てるようなものであり続けた。二つの対抗する勢力と大戦間のヨーロッパでの思想的な重荷がそれに油を注いだ。国外からの援助の必要性が、共和国政府をも武装蜂起勢力をも国際的な同調を得るためにプロパガンダの戦いを拡大しようとさせた。両陣営とも、いかに自分たちが犠牲者であるかを誇示し、自分たちの行動を正当化するために理屈を振りかざした。共和政府側がその政治的正統性を武装勢力と保守主義者とファシストによって脅かされていると主張する一方で、相手側はスペインの救済を掲げて人民戦線内閣と「左翼勢力」の横暴を非難した。当然だが、一般市民の苦しみと人権の無視は、どちらの陣営にとっても相手を非難するあらゆる言葉の中心だった。
このような状況の中で、プロパガンダとそのコントロールが最も大切な手段となった。アレハンドロ・ピサロソが断言したとおりである。「スペイン内戦は武器と戦術の実例の宝庫であったと共に、情報とプロパガンダの分野におけるパイオニアだった」のだ。この点に関しては、大戦間のヨーロッパで全体主義のシステムが主役を演じていたことを思い起こす必要がある。スペインの両陣営によって追求された形態はそれに沿っていた。そしてそれはヘスス・ティモテオ・アルバレスが次のように示唆している。
『ここでは、このような全体主義のシステムが幅を利かす。それは党派主義者と狂信者であることによって、少なくとも精神的に帝国主義者であることによって、大衆の共感を得る必要があるし、プロパガンダをすぐれて公的な機能にまで、国家と社会システムの中心柱にまで高めるための手段を必要とするのである。』
【後略:訳出・引用終わり】
http://www.ull.es/publicaciones/latina/aa2000kjl/y32ag/75langa.htm
*******************************************

どうやら我々の現在の世界は、少なくとも、プロパガンダに過ぎないものを真に受けて信じ込み金切り声を上げウォークライで踊る大勢の人々の精神構造という面では、80年も昔に行われたスペイン内戦時期のそれから何一つ進歩していないようだ。もっと古くもっと有名な話をするなら、1898年の米西戦争の前段階で行われた「イエローペーパー」による戦争熱煽り立てがある。しかし多くの人々にとって、学校で「歴史を勉強する」ことはあっても、「歴史から学ぶ」ことは、きっと縁遠い作業なのだろう。

しかしそれは生きるために忙しい毎日をおくる大部分の我々にとってほとんど不可能に近い作業である。イズラエル・シャミールのような本当に優れたジャーナリストの文章こそ、そんな我々に必要不可欠なものなのだと思う。彼は、トルコやサウジアラビアがシリアに軍事侵入する可能性は小さいと語り、シリアに関して《見えない(マスコミが伝えない)ところ》で行われている《米露協調》を指摘する。実際の戦場では思いがけないことが起こる可能性もあり、イスラエルがこのままおめおめと引っ込むとは思えないので、彼の予想が当たるかどうかは分からない。

しかし、シャミールは「予言者」でも「予想屋」でもない。まして、我々が知らなかった知識を披露する「物知り屋」などではありえない。彼の文章は我々の目と感覚を常に新しい方向に導いてくれるのだ。いや、「新しい」という言い方は間違っているだろう。人間が生きる世界では最も当たり前で、当たり前すぎるがゆえにプロパガンダ作者によって我々の視線から遠ざけられている側面に、光を当ててくれるだけなのかもしれない。我々がその光を感じる神経を取り戻し保ち続けることが、世界を、戦争狂いどもから救う最大の手段であるように思える。

【翻訳後記、ここまで】

〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
〔eye3292:160215〕