「なんともみっともない展開で、開いた口がふさがらない」。東京五輪・パラリンピック大会組織委員会の森喜朗会長=元首相=が2月3日の日本オリンピック委員会(JOC)の臨時評議員会で女性を蔑視する発言をしたにもかかわらず、いまだに会長に留まっていることに対する大方の日本国民の受け取り方である。森氏がこれからも会長の座を降りないようなことになれば、国際世論から「日本人はなんと人権意識、国際感覚の乏しい民族だろう」と指弾されるのは必至だ。
JOC臨時評議員会での森会長の発言は以下のようなものだったとされる。
「(JOCの)女性理事を選ぶっていうのは、4割、これは文科省がうるさくいうんですよね。だけど、女性がたくさん入っている理事会は、理事会の会議は時間がかかります」
「女性っていうのは競争意識が強い。誰か1人が手をあげて言われると、自分もいわなきゃいけないと思うんでしょうね。それでみんな発言されるんです」
「女性の数を増やしていく場合は、発言の時間をある程度、規制を促していかないとなかなか終わらないで困ると言っておられた。誰が言ったとは言いませんが」
総理大臣まで務めた男性の、それも公の席での発言とはとても思えない「性差別発言」である。そして、なによりも、それが、「性差別」を認めないオリンピック憲章を最も守らなくてはならない立場、すなわちオリンピック・バラリンピックの準備・運営を任された組織委員会会長のポストにある人物から発せられたことに驚かざるを得ない。
オリンピック憲章には「このオリンピック憲章の定める権利および自由は人種、肌の色、性別、性的指向、言語、宗教、政治的またはその他の意見、 国あるいは社会的な出身、 財産、 出自やその他の身分などの理由による、 いかなる種類の差別も受けることなく、 確実に享受されなければならない」とある。つまり、「ジェンダー平等」が明確にうたわれているのだ。
森会長は、こうしたオリンピズムの根本原則を読んだことがあるのだろうか。読んでいたら、とてもJOC臨時評議員会での発言など、口をついて出てこないはずだ。
しかも、今回の女性蔑視発言は、国際社会が「ジェンダー平等」の実現に向けて全力で取り組んでいるに最中での出来事である。
具体な例をあげよう。
国連に「UNWomen(国連女性機関)」という組織がある。そこが、2015年から「Planet 50‐50 by 30」というキャンペーンを始めた。「地球上で影響力をもつ者の男女割合を2030年までに50/50にしよう」という意味である。あらゆる分野で、指導的地位に女性が占める割合を50%にしようというのだ。
加えて、国連は2015年から、加盟国に対してSDGs(持続可能な開発目標)の実現に取り組むよう呼びかけている。2030年までに17項目の目標を実現しようというわけだが、その5項目に「ジェンダー平等を実現しよう」が掲げられている。そこでは、「女性のエンパワーメントとジェンダーの平等は、持続可能な開発に欠かせません。女性と女児に対するあらゆる形態の差別に終止符を打つことは、基本的人権であると同時に、他の全ての開発領域に対して波及効果があります」と述べられている。
米国のバイデン新政権登場で副大統領にカマラ・ハリスさんが選ばれたこと、WTO(世界貿易機関)の次期事務局長にナイジェリアの元財務、ヌゴジ・オコンジョイウェアラさんが選出されることが確実になったことも、「ジェンダー平等」「男女共同参画」をさらに加速させようという国際的機運を反映したものと言っていいだろう。
それに引き換え日本では――
政府の内閣府男女共同参画推進本部は2005年に「2020年までに、指導的地位に女性が占める割合が少なくとも30%程度になるよう期待し、各分野における取り組みを促進する」と決定している。今はすでに2021年。この目標が達成できなかったことはもや明白だ。そこへ、森会長よるジェンダー平等に反する発言。この面で、日本が世界の潮流から遠く離れた「後進国」であることが、白日のもとにさらけだされた。
そのためだろう。すでに、海外の各方面から「森会長辞任」を求める声が伝わって来る。なんとも日本人として恥ずかしい事態である。
早急に事態を収拾しなくてはならないが、その責任は、東京五輪・パラリンピック大会組織委員会を構成するJOC、政府、東京都、経済団体にあると言える。一刻も早い対応が望まれる。
初出:「リベラル21」より許可を得て転載http://lib21.blog96.fc2.com/
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