本日の毎日朝刊に、次の見出しの記事。
「籾井・NHK会長:与党聴取『圧力と捉えず』 やらせ疑惑巡り」
「NHKの籾井勝人会長は3日の定例記者会見で、『クローズアップ現代』のやらせ疑惑を巡り自民党が局幹部から事情聴取したことについて、『圧力と捉えるのは考えすぎだ』と述べた。放送倫理・番組向上機構(BPO)の放送倫理検証委員会は11月6日、自民党の聴取を『政権党による圧力』と批判する意見書を出している。
籾井会長は意見書の指摘には『コメントを控える』としたうえで、『(クローズアップ現代の報道に関する)我々の中間報告書が出た時点の話だから、説明に行っただけ』と主張。さらに『自民であろうが野党であろうが、説明に来いと言われれば行くが、そこで《この番組はどうだ》と(内容について)言われても、我々は《聞けません》という話だ』と述べた。」
読売もほぼ同じ内容で、見出しは「自民の事情聴取『圧力は考えすぎ』…NHK会長」。
産経(デジタル)が籾井の言葉を詳しく報道している。その一部。
「自民党の聴取については、あのとき、NHKの中間報告が出ていた。それを説明に行ったということだ。番組について、NHKがプレッシャーを受けたということはない。こう言うと、また『籾井は自民党寄りだ』といわれるかもしれないが、そういうことではない。NHKの中間報告が出た時点で、それを説明に行ったということ。これを圧力ととらえるのは考え過ぎではないか。こう言うと反発を食らうかもしれないが、事実はそういうことだ」
「--BPOの意見書などは、政権与党がテレビ局を呼んだことを「圧力」と指摘していた。だが、籾井会長自身は圧力ではないと受け止めているというか
はい。結構です。言い過ぎかもしれないが。われわれは不偏不党でやっているので、自民党であろうが、野党であろうが、『説明に来い』と言われたら、説明には行く。そこで『この番組はどうだ』と(注文を)言われたら、NHKとしては聴けません、という話だ。われわれとしてはそういう認識で(説明に)行った」
「--BPOとは考え方が違うということか
BPOと考え方が違うとか、そういうことではなく、NHKとしてはそう思っているということだ」
籾井記者会見の発言は、実は大きな問題を露呈しているのだ。NHKはBPOの指摘をまったく理解していない。理解する能力をもっていない。だから、当然のことながら、BPOの指摘を真摯に受け止める姿勢に欠けている。
BPOはNHK自体の問題として、『クローズアップ現代』のやらせ疑惑を指摘した。さすがに籾井もこの点は理解しているようだ。しかし、BPOの指摘はこれだけでなく、総務相や自民党の放送への介入を厳しく戒めている。これが真骨頂。
BPO意見書は、「NHKが自主的に問題を是正しようとしているのに、政府が行政指導で介入するのは、放送法が保障する『自立』の侵害行為だ」「自民党情報通信戦略調査会がNHK幹部を呼び、番組について説明させたのは、放送の自由と自律に対する政権党による圧力そのもので厳しく非難されるべきだ」と政権の介入を厳しく批判した。また、BPOは、NHKの側にも「干渉や圧力に対する毅然とした姿勢と矜持を堅持できなければ、放送の自由も自律も浸食され、やがては失われる」としかるべき対応の努力を促したのだ。
籾井には、BPOからの指摘の問題点が理解できない。だから自覚など生じようがないのだ。
「NHKがプレッシャーを受けたということはない。これを圧力ととらえるのは考え過ぎではないか。」というのは、おそらく彼のホンネなのだろう。
籾井は、自ら「こう言うと、また『籾井は自民党寄りだ』といわれるかもしれない」としている。自分には「自民党寄り」という自覚はあるのかも知れないが、実態はとんでもない、そんなレベルではない。「寄り」ではなく安倍自民党と一体の存在であることを自白しているに等しい。圧力とは、異質のものからの働きかけについてだけ感じられるもの。籾井は、高市や自民党から何と言われても、身内からの助言としか感じない。圧力と感じる能力を欠いているのだ。
言論人は、権力との距離を十分に意識し、自分が権力とは異質であることを自覚しなければならない。権力の行使のあり方には常に敏感でなくてはならない。自分に対するものだけでなく、他者に対するものについても、権力からの圧力は鋭敏なアンテナで覚知して、声を上げ抵抗する覚悟がなければならない。
籾井勝人には、そのような資質が決定的に欠けている。どっぷり浸かった権力との同質感がその妨げとなっている。戦前のメディアの多くは権力からの弾圧を感じていなかった。NHKは大本営発表に汲々とし、新聞は戦意高揚を煽って部数を伸ばした。自らを権力と同質のものとし、権力からの独立や対峙の気概をもたなかった。
籾井勝人は、戦前のNHKとまったく同じ感覚ではないか。BPOの指摘をないがしろにするNHK会長は、やはり不適任。辞めてもらわねばならない。日本人の幸福のために。
(2015年12月4日・連続977回)
初出:「澤藤統一郎の憲法日記」2015.12.04から許可を得て転載
http://article9.jp/wordpress/?p=6001
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
〔eye3144:151205〕