嘘も方便?

 かつて長期政権にあった自民党は、左から右までの政治的潮流を有し、保守政治家の中にあっても、国難に際しては、反自民党勢力からも一目を置かれるような見識と対応を披歴される方々が居られました。 

 今、政権の座にある民主党にも、様々な政治的立場の政治家がおられますし、今世紀始まって以来の国難にあっては、政治家としての尊厳を賭けた戦いが待ち受けているであろうことも想定されておられる筈です。 しかしながら、現実に政権にある菅首相以下の面々を観ますと、この党の中の最良の政治家とは、到底、思えない事実に思い至るのです。

 彼らに何が足りないのか、との問いには、国家百年の大計とか震災復興計画の基本構想とかが識者よりは指摘があるでしょうが、私には、彼らには、もっと基本的なことが欠けていると思われるのです。 それは、国民に対する誠実さ、国民に選ばれた者が保持せねばならない国民に対する忠実さ、ではないのかと思うのです。 

 政権に就くがため、一票を得んがために、ありとあらゆる相互に矛盾した政策を集めて、国民を欺瞞し集票した後、一旦、政権の座を得ると、権力を悪用し、嘘も方便とばかりに「大本営発表」に依って自らの延命を図るのは、歴史の示すところに従えば、ファシストです。 私は、彼らに、ファシズムの臭いを感じるのです。

 彼らにとって「想定外の」東北大震災と原発事故に際しては、当初大混乱に陥ったのは致し方の無いことではあったでしょうが、原発事故の事実経過と放射能拡散の危険性を秘匿し、事故を過小に歪曲して、東北の国民を二重に災害に晒したのは、如何なる理由によるものでも許し難いものがあります。 この反国民的な犯罪行為は、今後、国民により検証され断罪されるでしょう。

 その証拠の一端は、菅首相自身が任命した内閣官房参与の小佐古敏荘東京大学大学院教授の記者会見資料に明らかですが、フリーのジャーナリスト江川紹子氏が報じるところに依ると、原子力安全委員会は、記者会見で、5人の原子力安全委員の他に、2人の専門家の意見を聞き、全員が20mSv/年を「適切」と判断した、と説明していたにも拘わらず、実際には、反対意見も存在したのです。

 「4月28日の午後、私(江川氏―引用者注)は前夜の記者会見で、廣瀬研吉内閣府参与(原子力安全委員会担当)から、この値を支持した人の1人として名前が挙がった本間俊充氏((独)日本原子力研究開発機構安全研究センター研究主席・放射線防護学)に確認の電話を入れてみた。すると、本間氏の答えは意外なものだった。

 「私は(緊急事態応急対策調査委員として)原子力安全委員会に詰めていたんですが、(子どもについても)20mSv/年が適切か、ということに関しては、私は『適切でない』と申し上げたんです」

http://www.egawashoko.com/c006/000330.html

「『適切でない』と申し上げた」~”子どもにも20mSv/年”問題と放射線防護学の基礎

(江川紹子ブログ) 2011年05月01日 

 「嘘も方便」とは言うものの、学識経験者の意見を完全に無視するのみならず、自らを正当化するために白を黒と言い包めるとは。 比較するのも気が引けますが、最高裁判所の大法廷判例では、特に、憲法の解釈等で意見が分かれた場合には、少数意見も律儀に併記されます。 時には、少数意見の方が説得力があり法曹界に影響力を行使したりもします。 何よりも、裁判官独立の精神が表れていて、司法が三権分立を体現しているようでもあり、私には、好ましくもあります。 それに比べて、反対意見も賛成に勘定するとは、何んとおぞましいことでしょうか。 最早、何も言うことはありません。

〈記事出典コード〉サイトちきゅう座  http://www.chikyuza.net/
〔opinion0439 :110502〕