8月2日、市内の表記講演会に参加した。古くなった佐倉市の図書館の建直しを機に10年前から、利用しやすい図書館を目指して活動してきた市民の会が主催だった。「佐倉市立図書館アクションプラン(2025~2032)」において、図書館への「民間活力の導入」がうたわれ、「指定管理者制度」導入への方向性が示されたのを受けて、開催された講演会だった。私も図書館という職場から離れて久しいが、もっぱら利用する立場になったので、無関心というわけではなかった。ただ、利用する資料が、古い雑誌だったり、特殊コレクションの資料だったり、学術書だったりすることが多かったので、公立図書館収蔵資料の利用というより館外貸し出しの窓口として利用することがほとんどである。今回、こうした会に参加するのは初めてで、たいそうなことは言えないが。
公立図書館に「指定管理者制度」が導入されると、図書館の現場ではどういうことが起こるのか、利用者へのサービスが向上するのか、実際導入した図書館が、自治体直営に戻った経緯はどうであったのかなどを、私は知りたかった。会場の大方の人もそんな期待を持っていたのではなかったか。
講師は、公共図書館職員、館長を歴任した方で、経験と知見はゆたかに違いなかった。ところが、講演内容は、図書館概論的なもので、図書館の歴史、図書館の役割などへの言及が長く、いつ本題に入るかと不安にも思えたのだった。1時間が過ぎた頃、司会者は、講師に紙を渡していたが、多分、その催促ではなかったか。講師は、時計を見て、ようやく本題に入った。受付で配布された資料「指定管理者制度の概要と現状」には、政府の進める公共施設の指定管理者制度自体の法的根拠やメリットとともに「図書館における指定管理者制度」に関するデータや参考文献の抄録なども用意されていたので、この辺りに時間を割いてもらいたかったと、少し残念であった。
配布資料に、市区町村のデータが一部転記されているが、元資料と思われる日本図書館協会の下記「図書館における指定管理者制度の導入等の調査について2023(報告)」注① にあたってみると、以下のことがわかる。都道府県立図書館で22年度まで導入しているのは8館のみで、(表1)によれば、その内、導入業務を見ると、「施設管理のみ」4館、「施設管理等」3館で、「図書館業務の一部」1館となっている。
市区町村立図書館では、22年度までに674館が導入済みで、全3228館の20.9%ということになる。(表4)によれば、市区町村立図書館で導入した指定管理者の種類、性格を見ると、674館の内、民間業者が圧倒的に多く554館である。なお、民間業者、最大手のTRC(図書館流通センター)の最新の情報によれば、25年7月現在、602の公共図書館がTRCを導入していることになっている。注② TRCのシェアが拡大しているのがわかる。なお、首都圏について、注③を参照してみると、東京都23区の図書館の導入率が60%を超えるのではないかと思われる。
さらに、「指定管理者制度」と一口にいっても、以下のような形態がある。a)は、日本では、まだ普及していない。c)の「委託」というのは、従来からも実施されていた方式であり、採用している図書館も多く、統計には「指定管理者制度」に組み込まれているらしいが、実態は把握しにくいのではないか。b)が、制度本来の方式である。
a)PFI(Private Finance Initiative): 公共施設等の建設、維持管理、運営等を民間の資金、経営能力及び技術的能力を活用し、効率的かつ効果的に公共サービスを提供する。
b)指定管理者制度: 民間事業者等のノウハウを活用し、住民サービスの質の向上、施設の設置の目的を効果的・効率的に達成するため2003年9月から実施された制度。自治体の運営目的に添って事業者が提案、運営する。
c) 業務委託: 自治体作成の仕様書に添って、業務の一部を民間事業者に委託する。
この指定管理者制度の目的は、市民サービスの質的向上と効果的、効率的運営ということになるが、果たしてその目的にかなうものなのかどうか、私は疑問に思っている。日本図書協会は、以下のような理由で、図書館は指定管理者制度になじまないものと結論付けている。私なりにまとめてみると、図書館は、自治体の責任において直営するのが基本であり、政策決定をする自治体と運営主体となる管理者との分離は、運営自体に障害が発生し、計画的な人材育成がむずかしくなる。その上、指定期間が3~5年と短く、職員の経験や専門性の蓄積が困難となる。指定管理者制度を続けていると、自治体に図書館に通じる専門職員が誰もいなくなる?事態は発生するのでは。
実態として、市民へのサービスの質が落ちたり、利用者が減少したりする例も多く、(表2)に見るように指定管理者制度から直営に戻るケースも決して少なくはない。下記「報告」の(2)をご参照ください。
たしかに、b) 指定管理者制度により専門性を要する図書館業務―たとえば、選書、整理、配架、レファレンス、リクエスト対応、検索、出納などが担われることになると、機械化が進み、効率的になったとしても、利用者の要望が届きにくく、対面のサービスも後退する。その図書館の地域的な特色や蔵書構成へ知見も軽視され、画一的に処理されるだろう。しかも、指定管理者の職員雇用態様はまちまちで、雇用期間や報酬が不安定になり、多くは、派遣、契約、パートなどの非正規職員によって担われることは明らかで、サービスの向上はむしろ減速するのではないか。直営に戻ったケースから、私たちは学ぶことも多いに違いない。
講演会の参加者は50人、その中には、佐倉市市議会議員も、党派を超えて9人も参加していたそうだ。それだけに、指定管理者制度導入の問題点を明確にした内容だとよかったのになあ、と思うことしきりであった。
- 「図書館における指定管理者制度の導入等の調査について2023(報告)」
file:///C:/Users/Owner/Desktop/hokoku202302.pdf - TRC図書館業務運営実績
https://www.trc.co.jp/outsourcing/index.html - 首都圏の公共図書館◆委託・指定管理者業者一覧【2024年】
https://library-site.hatenablog.com/entry/2021/05/01/080000
<図書館における指定管理者制度導入等の調査にについて2023(報告)>


初出:「内野光子のブログ」2025.8.4より許可を得て転載
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〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 https://chikyuza.net/
〔opinion14360:250805〕