図書館を支える人々~非正規と障がい害者の方々の待遇の実態(2)

2)障がい者の報酬はこんなことでよいのか

 国立国会図書館の資料のデジタル化は急速に進み、「図書館送信」と「個人送信」の範囲も拡大され、「個人送信」の場合は、自宅で、閲覧できるし、必要個所を印刷もできるようになった。その恩恵は計り知れない。

 国立国会図書館が進める蔵書のデジタル化に、障がい者の延べ約500人が本のスキャンやデータ入力などの作業をもって貢献しているという。図書館が自力でできる作業量でないことは理解できるし、しかも、その作業は決して単純ではなく、細かいノウハウも必要な作業だと思う。下記の毎日、日経の記事はともに、そうした作業に携わることが、障がい者の誇りとなり、やりがいにつながっている、という報道であった。

 ところが、共同配信の「時給222円を変えたい・・・」の記事を読んで愕然としたのである。障がい者雇用の実態がこれほどまでとは、知らなかったのである。近所で、障がい者のグループホームを運営している知人は、仕事探しの容易でないことを嘆いていた。商業施設でカートを集める仕事、近くのマンションの草刈りの仕事が見つかったの、と喜んでいたことがあった。また千葉市のハーモニプラザの売店では、作業所の人たちが作ったという紙すきの葉書や端切れで織り込んだコースターなどを買ったことがある。

 上述の222円というのは、作業所の全国平均の時給なのだが、国立国会図書館の上記デジタル化作業を請け負った日本財団が、全国8か所の作業所で実施し、月収がこれまでより3倍ほどの5万円にアップできたというのである。日本財団によれば、2022年度は、三億七千万円、約三万冊分を受注でき、これからも拡大の意向だという。

・「障害者、デジタル化一助に 根気必要な作業、黙々と 国立国会図書館」『毎日新聞』 (2022年9月29日)https://mainichi.jp/articles/20220929/ddm/041/100/058000c

「「本を未来に」障害者誇り 国会図書館蔵書デジタル」『日本経済新聞』(2022年10月3日)https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUE260N90W2A920C2000000/

・(市川亨)「時給222円」を変えたい 障害者が国会図書館をデジタル化 品質に合格点「彼らの力なしでは成り立たない」『信濃毎日新聞』2022年10月11日(共同配信)

・「障害者の実力」示す国会図書館のデジタル化作業(2022年11月07日)日本財団ホームページhttps://blog.canpan.info/nfkouhou/archive/1431

・徳原直子「国立国会図書館のデジタルアーカイブ事業~資料デジタル化を中心に~」国立国会図書館 https://www.tamadepo.org/kouza/tokuhara20170203.pdf

 それにしても、月収5万円とは。何で、こんなにも安価な報酬なんだろう。何のための最低賃金制度なのか。調べてみると、最低賃金制度には、「減額の特例許可制度」というのがあって、最低賃金を一律で決めてしまうと、労働能力が著しく低い労働者の雇用機会が減ってしまうからという理由で、特例が設けられている。例えば、試用期間や職業訓練期間中の労働者と並んで「 精神又は身体の障害により著しく労働能力の低い者」との規定があって、障がい者雇用の場合は、これによって最低賃金制度から除外されてしまうのである。ずいぶんと雇用者にだけ都合の良い制度なのだろう。たとえ、特例を設けるにしても、「同一労働、同一賃金」の主旨を貫ける制度にしてほしい、思うのだった。

・「障害者雇用の賃金はなぜ安い? 最低賃金制度と減額特例」(2020年1月13日)『障がい者としごとマガジン』 https://shigoto4you.com/saitei-chingin/

初出:「内野光子のブログ」2023.9.12より許可を得て転載
http://dmituko.cocolog-nifty.com/utino/2023/09/post-dc1c04.html

〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 https://chikyuza.net/
〔opinion13230:230913〕