国会事故調査委員会(黒川清委員長)は昨年12月8日からの「福島原発事故調査報告書」を7月5日に衆参両院議長に提出して、任務を終了した。7月6日付「ウオッチ」欄で概略を報告したが、綿密な検証・分析に基づいてまとめた提言は、原子力政策の指標となるものである。
強力な調査権限を付与され、15億円もの予算をかけた公的調査であり、黒川委員長が強調しているように、憲政史上初の重みを持つ。
特に①原子力問題に関する常設委員会を国会に設置②政府の危機管理体制の抜本的見直し③政府の責任で、被災住民の健康と安全を継続的に守る④政府と電気事業者間の公正なルールを作成し、情報開示を徹底⑤高い独立性と透明性を持った規制組織の新設⑥国民の健康と安全を第一とする一元的な原子力規制を再構築⑦民間中心の専門家家で構成する調査委員会を国会に新設する――この7提言を国会議員も国民も尊重すべきであり、特に国会の責任には重大で、具体策を取りまとめて早急に実行してもらいたい。
メディアは「提言を生かす」方策を提示すべきだ
在京朝刊7日付 6紙のうち朝日・毎日・読売・東京4紙が1面トップに報じ、中面で詳報したのは当然だが、「国会がこの提言をどう生かすべきか」を訴える論調やコメントが足りなかったことに不満を感じた。「事故原因究明が足りない」と指摘していた点は分かるが、今なお放射線濃度が高くて原子炉内部を調査できないため、国会事故調が「断定的に言うことはできない」と報告書に記さざるを得なかった事情を忖度する必要があったろう。
黒川委員長は7月5日の記者会見で、「事故はまだ終わっていない。この提言を確実に実行し、不断の努力を尽くすことが国民から未来を託された国会議員の使命だ。直ちに動き出すことが、事故で失った世界や国民からの信頼を取り戻すことになる」と熱っぽく訴えていた。ところが、国会は相変わらずの政局がらみの混乱が続き、原子力政策見直し論議は驚くほど緩慢だ。民主党は内紛の影響でまとまらず、自民・公明の一部議員が今後の対応策を相談している程度の無気力さにはあきれる。
「事故を風化させてはならない」…野田政権を厳しく監視
野田佳彦首相は6月8日、大飯原発(福井県おおい町)の再稼働方針を表明した会見で、「福島第1原発を襲ったような地震、津波でも炉心損傷に至らない」と言い切った。国会事故調の検証作業が完了していない時点で、しかも大飯原発「免震事務棟」が完成していないのに再稼動の判断を下した野田首相の責任を厳しく追及すべきである。黒川清委員長が「なぜ国会事故調の報告を待ってからやらないのか」と批判したのは当然で、メディア側にも問題意識の欠如を感じた。
いずれにせよ、国会事故調の提言を風化させてはならない。国民の安全のため、全国会議員の覚醒を促したい。
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