国民審査には、レッドカードの今崎幸彦・中村愼の両名に✕を。あるいはイエローカードの宮川美津子・平木正洋を加えた4名に✕を。

(2024年10月23日)
 総選挙の投票日が近づいている。同時に、最高裁裁判官の国民審査が行われる。誰にバッテンを付けるべきか。

 随分以前から議論が分かれるところ。
 A「審査対象の裁判官全員に ✕ を付けるべきだ」
 B「特に批判すべき裁判官を選んで ✕ を付けるべきだ」

 A説の論拠は次のようなところ。
 「最高裁なんて、どうせ権力の僕だ」「出世する裁判官に碌な者がいるわけはない」「司法部総体に対する批判として、全員 ✕ とすべき」「そもそも裁判官としての適格性を判断しがたい」

 B説は次のように反論する。
 「最高裁を人権の砦として育てる努力を放棄してはならない」「最高裁判事も玉石混淆ではないか。玉は評価し、石を批判しなければならない」「司法部総体に対する批判のためにも、国民は不断に監視して裁判官を評価選別しなければならない」「だから、裁判にも裁判官にも監視の目を光らそう」

 今回の審査対象の裁判官は6名。日本民主法律家協会のホームページでは、「的確な国民審査をなすべき資料となる、パンフレットを作成し、これをホームページにアップしている。
https://www.jdla.jp/shinsa/images/kokuminshinsa24_6.pdf

 結論から言えば、「✕」相当のレッドカードは今崎幸彦・中村愼の2名。限りなく「✕」に近いイエローカードが宮川美津子、平木正洋の2名となる。

 選択肢は下記の三つある。
  (1) レッドカードの今崎幸彦・中村愼の2名に✕。
  (2) レッドカードの今崎幸彦・中村愼に
    イエローカードの宮川美津子・平木正洋の2名を加えた4名に✕。
  (3) レッドカードもイエローカードも無視して、6名全員に ✕ 。
 そのどれでも、選択願いたい。くれぐれも、✕を付けずに白紙のまま投票することのないように。それでは、全員信任したことになってしまう。

 今回注目していただきたいのは弁護士出身の宮川美津子裁裁判官である。以前は弁護士出身判事は比較的マシな人だったが今は様変わり。

 安倍晋三第2次政権が発足して、彼が最初に任命した弁護士出身の最高裁判事は、あの木澤克之(東弁)だった。弁護士として何か活躍をしたわけではない。安倍のオトモダチだった加計学園の加計孝太郎の同級生で、加計学園の監事だっただけの人物。安倍晋三の恣意的な人事の典型の一つ。

 安倍晋三の木澤克之任命については、下記のブログをお読みいただきたい。

澤藤統一郎の憲法日記 » 木澤克之と加計孝太郎と安倍晋三と。ー 仲良きことは麗しいか?

 その後は、安倍から菅・岸田まで、一弁出身者ばかり。「一弁一弁また一弁」。宮川美津子は、連続6人目の一弁出身者。もちろん、人権派とは無縁。マチベン(町弁)ですらない。典型的な大ローファームの代表で、企業法務の専門家。在野・反権力を真骨頂とする本来の弁護士像とは無縁の人ばかり。

 以下にレットカードとイエローカードの4裁判官の評価を、日民協ホームページから転記する。

今崎幸彦
 2022年6月24日最高裁判所判事、2024年8月16日より最高裁判所長官。裁判実務の経験は、1983年の裁判官任官から約40年のうち8、9年程度。最高裁事務総局などの司法行政畑を主に歩いてきた典型的司法官僚。
最高裁裁判官任命後の関与判決には、
①名張毒ぶどう酒事件第10次再審請求審特別抗告審で、請求棄却の多数意見を支持(最3決2024年1月29日)
②犯罪被害者給付金の支給について、事実上同姓婚の関係にある者への支給が認められるかに関する判決において、「同性パートナーは犯給法の『犯罪被害者の配偶者』に該当しない」との反対意見(最3判2024年3月26日)
③買収で失職した議員は政務活動費と議員報酬を遡って返還すべきかどうかが問題となった事件で、当選無効までの報酬など元大阪市議に全額返還命じる判決をした事件で、当然に全額返還すべきとの多数意見に対し、議員報酬は返還する必要はないという反対意見(最3判2023年12月12日)。
 「性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律3条1項4号は、憲法13条に違反する」との判断には与したが、優れた人権感覚は感じられません。経歴としても裁判官の統制を促進する側ともいえ、「憲法の番人」にふさわしいとは思われません。

中村愼
 裁判官生活36年5か月のうち、裁判実務を担った期間は、判事補時代を含めても10年弱にすぎません。最高裁調査官、同総務局課長、同秘書課長、同総務局長、水戸地裁所長、最高裁事務総長を経て、最高裁判事になる直前は東京高等裁判所長官を務めるなど、司法行政の中枢を歴任しており、典型的な出世コースを歩んできたと言えます。
 なお、検事出向中の約3年間は、外務省条約局事務官や国連日本政府代表部の書記官などを担当していました。
 下級審判事時代は民事事件を担当していますが特に注目すべき判決はありません。その一方で、最高裁総務局課長時代に裁判員制度施行前の準備を担当しています。通常、裁判官出身だと民事畑か刑事畑かで区別されるのですが、いずれに属するか明確ではない点で異例と言えます。典型的な「裁判をしない裁判官」であり、司法行政に染まった裁判官に、行政府や立法府に対して毅然とした判断を示すことを期待することはできません。

宮川美津子
 宮川美津子氏は、弁護士出身の女性裁判官です。しかし、そのイメージのとおりに社会的弱者の味方であるか、人権の守り手であるか、まったく未知数です。かつては、最高裁判事に任命される弁護士は、東京の3会と大阪その他の地方会からも選任され、企業法務専門弁護士ばかりではなく、多様な弁護士が選任されていました。ところが、安倍晋三政権以来、第一東京弁護士会出身者が続いています。それも、企業法務弁護士ばかり。宮川氏は、連続6人目の一弁出身弁護士、しかも典型的な大手の企業法務専門法律事務所の代表でした。
 知的財産法を専門とする弁護士として、パナソニックの監査役や三菱自動車の社外取締役などの経歴を持ち、政府の知的財産関係の審議会にも関わっています。まだ目立った判決への関与はなく、個別意見もありません。従って、決めつけはできませんが、経歴を見る限り、財界や政権に毅然たる姿勢を期待するのは難しいと言わざるを得ません。

平木正洋
 2024年8月16日最高裁判所判事に任命。1987年の裁判官任官後、実際の裁判実務担当は15年程度。但し、初任の東京地裁時代、数件の無罪判決に左陪席として関与。東京高裁裁判長時代にも、原審の有罪判決を破棄したことがあります。
 司法官僚歴が長い点はマイナス要素。最高裁での関与事例も現段階で不明。但し、過去に数件の無罪判決に関与してきた事実もある点では、全く期待できないとまでは断定できないでしょう。

なお、平木正洋裁判官の人間性については、こんなSNSの投稿がある(10月21日)。発信者は二弁の弁護士である「やまぐち としき」さん。

「今回の国民審査の対象になっている最高裁判事の平木正洋裁判官は、私が修習生として配属された部の部総括でした。
 修習中盤の懇親会の際、ある修習生が、法曹一元制度についての見解を尋ねたところ、平木さんは、『修習で何見て来たんだよ!弁護士なんかに裁判官が務まる訳ねーだろ!』と仰いました。

 修習の際には、色々なことをおしえていただき、お世話にもなりましたが、人間性には極めて問題がある人物だと思っています。私は国民審査でを付けます。

 『この人は最高裁判事になる人だから、この話は国民審査の時まで取っておこう』と思い、10年待ちました。『この人は最高裁判事になる人だから、この話は国民審査の時まで取っておこう』と思い、10年待ちました。

 質問をした修習生だけでなく、全ての弁護士をバカにする口調で、仰っていました。同席していた修習生はみんな唖然としていました。」

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参考にすべき判決

 福島第1原発事故の被害回復を求める集団訴訟は全国各地に32件、原告となった住民の総数1万2千の規模で時代を映す大型訴訟となっています。どの訴訟も、国策として原発を推進した国の責任を問い、違法な国策を裁こうとするもの。その最初の最高裁判決が、2022年6月17日、第二小法廷で言い渡されました。判決対象となった先行4件の高裁判決のうち3件は住民側の勝訴でした。しかし、「6・17判決」は、これを逆転し4件すべての請求を棄却しました。国策擁護の司法の姿勢を露わにしたものと言わざるを得ません。この判決の多数意見(3名)は、結果の不当性だけでなく判決理由の貧弱さも指摘され、詳細な理由を述べて国の責任を認めた反対意見(1名)が高く評価されています。それでも、その後の下級審判決はこれに追随し、さらに2024年4月には第3小法廷が、同じ判断で上告不受理(門前払い)としました。その決定には今崎幸彦裁判官が関与しています。

初出:「澤藤統一郎の憲法日記 改憲阻止の立場で10年間毎日書き続け、その後は時折に掲載しています。」202410.23より許可を得て転載
https://article9.jp/wordpress/?p=21709

〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 https://chikyuza.net/
〔opinion13931:241026〕