国際人権規約委員会の総括所見を尊重して、裁判所は国旗国歌の強制を違憲と判断しなければならない。

(2023年1月12日)
 本日は、東京「君が代裁判」第5次訴訟の弁護団会議。ここしばらくは、ズームでのオンライン会議が続く。その便利さに慣れてはきたが、リアルに顔を合わせないのは、なんとなく物足りないような、淋しいような。

 次回2月9日の法廷には、原告準備書面(11)を提出する。テーマは、国際人権規約委員会の総括所見に表れた「教員に対する、国旗起立国歌斉唱強制の違憲違法」。本日の会議は、その準備書面の案文検討が主たる内容。若い弁護士が新鮮なテーマを立派にこなしている。こちらは、なかなか付いて行くのもたいへん。

 さて、国連の国際人権規約委員会は、2022年11月3日、市民的及び政治的権利に関する規約(通称「自由権規約」)実施状況に関する第7回日本政府報告書に対して、総括所見を発表した。もちろん、関係者の意見を十分に聴取してのことである。

 この総括所見では、不起立等を理由とする教員に対する懲戒処分に懸念を示し、日本の法律とその運用の慣行を、思想及び良心の自由についての『自由権規約18条』に適合させるべきことを勧告した。その勧告の結論は以下のとおりである。

38.委員会は、締約国(日本)における思想及び良心の自由の制限についての報告に懸念をもって留意する。学校の式典において、国旗に向かって起立し、国歌を斉唱することに従わない教員の消極的で非破壊的な行為の結果として、最長で6ヵ月の職務停止処分を受けた者がいることを懸念する。委員会は、さらに、式典の間、児童・生徒らに起立を強いる力が加えられているとの申立てを懸念する。(第18条)

39.締約国(日本)は、思想及び良心の自由の効果的な行使を保障し、また、規約第18条により許容される、限定的に解釈される制限事由を超えて当該自由を制限することのあるいかなる行動も控えるべきである。締約国は、自国の法令及び実務を規約第18条に適合させるべきである。

 最高裁判例では、国際協調主義(憲法前文、同98条2項)の立場から、「条約法条約」31・32条に基づき、自由権規約の一般的意見や総括所見を踏まえて法令の解釈適用がされてきている。自由権規約を批准する日本においては、自由権規約に定められる権利の実現のために必要な措置をとるため、憲法上の手続に従って必要な行動をとらなければならない(自由権規約第2条2項)。

 裁判所には、自由権規約の完全な実施が求められている。裁判所も総括所見(2022)を踏まえて自由権規約18条を解釈すべきであり、10・23通達等は条約不適合により無効である。

 自由権規約委員会は、不起立等を、宗教及び信念の自由と同等に保護される思想、良心の自由についての表明と評価し、不起立等を理由に最長で6か月の停職処分にもなる自由の制限は、同条3項の制限を超えて自由を制限しているもので規約不適合の疑いがあるとし、日本政府に対し、法令や実務を自由権規約18条に適合させることを勧告するものである。

 同条3項は、「宗教又は信念の自由については、法律に定める制限であって、公共の安全、公の秩序、公衆の健康若しくは道徳又は他の者の基本的な権利及び自由を保護するために必要なもののみを課すことができる。」としており、自由権規約を体系的に解釈すれば、同項は厳密に解釈されるべきとされる。原告らの思想、良心を表明する自由の制約が10・23通達によるもので「法律に定める制限」ではなく、また教育実施と起立斉唱行為では求める内容が違い、日本政府の回答からは安全、秩序、道徳等の具体的な制限事由を見いだせないことから、自由権規約18条に適合しない疑いがあるとするものである。

 なお、念のため、自由権規約委員会は、不起立等を「消極的で非破壊的な行為」(単に、起立しないだけで、式の進行を妨害したり混乱させることのない行為)と評価し、自由権規約19条の「意見を持つ自由」「表現の自由」とはせず、自由権規約18条の思想、良心を「表明する自由」としている。

 自由権規約に定められる権利の実現のために必要な措置をとるため、憲法上の手続に従って必要な行動をとらなければならない(自由権規約2条2項)。裁判所は、司法権の範囲内で条約上の義務を実現する義務があり、理念を同じくする憲法については条約適合的な解釈を試み、条約違反の法律については国内で適用してはならない。

 裁判所が、締約国の司法機関として、自由権規約を実施する義務を負い、管轄の下にあるすべての個人に対し、 人権享受を確保することをも約束していることに締約国の注意を喚起するものである。日本のように、条約を一般的に受容する体制を取っている国においては、自由権規約2条2項は「立法措置」よりも「その他の措置」を求めており、関連国内法規等が規約と十分に一致していないとき、関連国内法規等を条約適合的に解釈適用することが裁判所の役割として強く求められている。

 以上に確認の通り、裁判所は「総括所見」での勧告を遵守して、10・23通達等は自由権規約18条に不適合であり、無効であることを宣言しなければならない。

初出:「澤藤統一郎の憲法日記」2023.1.12より許可を得て転載
http://article9.jp/wordpress/?p=20608

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