2012年は、国連が定めた「国際協同組合年」。経済システムの一つである協同組合をもっと発展させるために世界中の人々が一年間かけて協同組合に対する理解を深め、協同組合をもっと成長させるために一致して努力しようという狙いで設けられた国際年である。日本でもこの1年間、さまざまな取り組みが計画されており、1月13日(金)には、東京・渋谷の国連大学で国際協同組合年キックオフイベントが開かれる。
国連が推進する国際年とは、世界各国に共通する特定のテーマに国際社会が1年間を通して集中的に取り組む企画。最初の国際年は1957年の「国際地球観測年」だったが、1975年の「国際婦人年」を契機にこの企画が日本でも一般に知られるようになった。そのテーマに協同組合が選ばれたのは初めてで、2009年暮れの第64回国連総会で決議された。
世界には農業、漁業、林業、信用、保険、保健、住宅、旅行、エネルギー、消費者、労働者などあらゆる分野の協同組合があり、それらは国際協同組合同盟(ICA)に結集している。現在、93カ国、249の協同組合全国組織が加盟しており、その傘下の組合員は10億人を超える。その家族やそこで働く人たちを加えると協同組合に関係する人は約30億とされ、世界人口の半数近くを占める。世界の主要協同組合300団体の2006年の供給高は約1兆ドルとされているが、これはこの年のカナダのGDPに匹敵する。ちなみに、カナダのGDPは世界13位(2005年)である。世界経済における協同組合経済のウェートが分かろうというものだ。
ICAは、国連の経済社会理事会から諮問機関の地位を与えられているNGO(非政府組織)の一つだが、WFTU(世界労連)、ICC(国際商業会議所)などと並ぶ最古参にして最大規模の国際NGOである。
国際協同組合年に関する国連決議は、以下の3つの目標に向けて国連、各国政府、協同組合関係者が活動するよう奨励している。
① 協同組合についての社会的認知度を高める
② 協同組合の設立や発展を促進する
③ 協同組合の設立や発展につながる政策を定めるよう政府や関係機関に働きかける
国際協同組合年が設定された背景には、ICAによる長年にわたる働きかけが奏功したという面もあるが、国連が、経済社会開発や世界の食料問題、雇用問題、環境問題などで協同組合がこれまで果たしてきた役割を評価したという事実がある。加えて、2008年のリーマン・ショックを契機とする世界的な経済危機で、協同組合がその影響を最小限に抑え、私企業に比べて安定的な経済システムであることを示したことを、国連が高く評価したためだ。とりわけ、金融関係の協同組合が、一般の金融機関に比べてリーマン・ショックによる打撃が少なかった点が評価された。
つまり、国連が、世界経済を再生させるためには協同組合が極めて有用な経済システムの一つであると注目し、その活動に期待をかけるに至ったとみていいようだ。国連本部が決めた国際協同組合年のスローガンは「協同組合がよりよい社会を築きます」だ。
こうした国連決議に呼応して、日本では、2010年8月、「2012国際協同組合年全国実行委員会」が東京で発足した。発足にあたって中心的な役割を果たしたのは、日本協同組合連絡協議会(JJC)。 これは、ICAに加盟している13の協同組合組織(全国農業協同組合中央会、全国農業協同組合連合会、全国共済農業組合連合会、農林中央金庫、家の光協会、日本農業新聞、日本生活協同組合連合会、全国漁業組合連合会、全国森林組合連合会、全国労働者共済生活協同組合連合会、日本労働者協同組合連合会、全国大学生活協同組合連合会、全国労働金庫協会)で構成されている。これら組織の傘下の組合員は延べ9800万人、職員は57万人という陣容だ。
全国実行委の委員は102人。これら組織の代表のほか、学者、文化人、マスメディア関係者らが名を連ねる。代表は経済評論家の内橋克人氏。
その実行委で「国際協同組合年を単なるイベント開催だけで終わらせず、意義あるものにするために、政府に協同組合憲章を制定させよう」という提案があり、満場一致で了承された。
協同組合関係者の間で、これまで長期にわたって検討されてきた懸案事項がある。統一協同組合法ともいうべき法律を政府につくらせようという悲願だ。協同組合関係者によれば、大半の諸外国には、統一協同組合法があり、協同組合に対しては統一的な施策がなされている。ところが、日本では各種の協同組合ごとに法律があり、政府側の対応も各省庁ごとのバラバラ対応となっている。このため、日本では協同組合について包括的な政策がなく、このことが協同組合の成長・発展を阻んできたという。
そこで、協同組合陣営としては、統一協同組合法の制定を政府に求めたいのだが、政界の現状からして当面は無理とみて、統一協同組合法制定の一歩手前の措置として「協同組合憲章」の制定を政府に迫ることになった。これだと、閣議決定ですむ。
全国実行委の下に昨年1月、協同組合関係者、学者らを委員とする「協同組合憲章検討委員会」(委員長、富沢賢治・聖学院大学大学院教授)が設置され、憲章にどんな内容を盛り込むかを検討してきた。昨年6月末には委員会で草案の第1次案がまとまった。これが各協同組合組織の討議に付され、また一般からこれに対する意見を募った結果、草案に修正が施され、同年暮れに協同組合憲章草案(最終案)がまとまった。
それは、「前文」「基本理念」「政府の協同組合政策の基本原則」「政府の協同組合政策における行動指針」「むすび」の5項目からなり、協同組合とはどういうものか、その歴史と現状、これからの協同組合はどうあもべきか、日本の政府が守るべき原則、政府が行うべき政策の中身等が明らかにされている。いわば、前半は協同組合自身による宣言、後半は協同組合から政府への要請と言える内容となっている。
この憲章草案(最終案)は、今月13日に協同組合憲章検討委員会から全国実行委へ答申される。それを受けて、全国実行委は政府に制定を働きかける。
全国実行委はこの他、国際協同組合年の期間中、さまざまな行事を予定しているが、最初の行事が1月13日(金)午後2時30分から、東京・渋谷の国連大学ウ・タント国際会議場で開く国際協同組合年キックオフイベント「協同組合がよりよい社会を築きます」フォーラムだ。各県実行委員会による報告やパネルディスカッション「これからも協同組合がよりよき社会を築けるか」がある。パネリストは生源寺眞一・名古屋大学教授、堀田力・さわやか福祉財団理事長、小川泰子・社会福祉法人いきいき福祉会・ラポールグループ専務理事。全国の協同組合関係者約300人の参加が予定されている。
さらに、全国実行委は7月18日(水)に東京・中野区なかのZEROホールで国際協同組合デー記念中央集会を開く。
この他、ICAのアジア太平洋地域総会が11月28日(水)、兵庫県の神戸国際会議場で開催されることが決まった。
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