(2022年3月18日)
一昨日(3月16日)、国際司法裁判所(ICJ、オランダ・ハーグ)は、ロシアに対し、ウクライナでの軍事行動を即時停止するよう命じる「仮保全措置」を出した。この決定は法的拘束力のある決定だが、ロシアはそもそもICJには管轄権がないと主張しており、武力行使を停止する可能性は低い(朝日など)、と報じられている。
「法的拘束力はあるが、強制力はなく実効性に乏しい」という解説が、ことの性質上やむを得ないながらも十分には分かりにくいし、まことに歯がゆい。
国連自身が、「ICJによる判決には拘束力がありますか?」という問に、「国家間の紛争に対して、裁判所あるいはその裁判部によって下された判決は関係各国を拘束します。国連憲章第94条は、『各国際連合加盟国は、自国が当事者であるいかなる事件においても、国際司法裁判所の裁判に従うことを約束する』と規定しています」と解説している。
この即時停戦命令は法的拘束力を持ち、ロシアは従わなければならないものなのだ。しかし、実力をもってその違反を咎める手段はない。拒否権を持つ常任安保理事国に対して、国連が実力行使することは想定されていないのだ。とは言え、履行の強制力には欠けるものの、ロシアの即時停戦違反は今後違法であり続ける。
ウクライナのICJ提訴は2月26日、ロシアの侵攻開始(同月24日)の直後である。ロシアは管轄の欠缺という立場だが、本案についてもある程度の主張はしたようだ。「親ロシア派が支配するウクライナ東部でジェノサイド(集団殺害)が起きていることを武力侵攻の理由にした」とのロシア主張はICJによって否定された。また、《ロシアに対する即時停戦を命じ》るとともに、《両国に対し、事態の解決をより困難にする行動をとらないようにも命じ》たという。
ICJの裁判官は定員15人だが、この表決は13名の賛成に対して2名の反対がある。反対の2名の内の一人はロシア出身判事だが、もう一人は中国出身である。もっとも、ロシアと中国出身の判事は、《ロシアに対する軍事作戦の停止命令》には反対した一方で、《両国に、紛争を悪化・拡大させるような行動を控えるべきだとの点》では賛成し、こちらは全員一致になっているという。
このICJ命令の全文訳は見当たらないが、「ウクライナで起きている広範な人道上の悲劇を深刻に受け止めており、人命が失われ人々が苦しみ続けている状況を深く憂慮している」「ロシアによる武力行使は国際法に照らして重大な問題を提起しており、深い懸念を抱く」などの言及が報じられている。
ウクライナのゼレンスキー大統領はツイッターで「完全な勝利だ」と歓迎した上で、「ICJの命令は拘束力がある」とし、「ロシアが命令を無視すれば、さらに孤立する」と述べている。ICJ命令の強制力の有無はともかく、ロシアの国際的孤立化に大きな役割を演じることは間違いない。
翌17日、クレムリンのスポークスマンは、ロシアがウクライナでの軍事作戦を直ちに停止することを要求する国際司法裁判所(ICJ)の命令を、承服しがたいものとして拒否すると述べた。
中国を侵略し満州国をデッチ上げて、国際連盟で孤立した旧日本の悪夢を思い起こさずにはおられない。もはや、ロシアには一片の正義もない。国際的な孤立は避けようもない。中国も、ロシアと一緒に孤立せぬよう心すべきだろう。
初出:「澤藤統一郎の憲法日記」2022.3.18より許可を得て転載
http://article9.jp/wordpress/?p=18742
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 https://chikyuza.net/
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