堪へ難きを堪へ忍び難きを忍び 東京オリンピックを返上せむ

(2021年4月29日)
「昭和の日」。天皇制がもたらした戦争の惨禍を反芻し、天皇(裕仁)の戦争責任を熟慮すべき日。そのことを通じての平和希求の日である。

もっとも、天皇(裕仁)の戦争責任についての考え方は一様ではない。おそらくは、コロナ対策に四苦八苦の菅義偉の目から見ると、昭和天皇(裕仁)の戦争責任の取り方こそは、政治リーダーにおける理想形と映ることであろう。何しろ、戦争を開始した責任も、戦争終結を遅らせて内外に多くの犠牲者を出した責任も全てを他人に押し付けて、最後の終戦の「聖断」だけを自分の手柄にしたのだから。あれで、戦後は「国民の命を救った」「平和をもたらした」英邁な君主だとされたのだから、羨ましくてならないだろう。

あれを見習って、いま菅義偉がなすべきは、東京五輪返上の宣言である。今や、衆目の一致するところ、オリンピックこそがコロナ対策の最大の妨害物である。政権の東京五輪強行の姿勢が民衆の批判に晒され始めている。

今ここで、東京五輪返上宣言をすれば、コロナ禍を招き寄せた責任も、これに対処できなかった医療脆弱の責任も、東京五輪にこだわってコロナ対応を遅らせた責任も、政治の無為・無策・無能の責任も、なんとなくうやむやに回避することができそうではないか。昭和天皇(裕仁)と同様に。

その昭和天皇(裕仁)に倣って、以下のような五輪返上宣言を出してみてはどうだろうか。昭和天皇(裕仁)ほどには、エラそうにすることなく。

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予、深く世界の大勢と我国の現状とに鑑み、非常の措置を以て政局を挽回せむと欲し、ここに温順なる汝ら選挙民に告ぐ。
予は、東京都知事ならびに東京五輪組織委員会の同意を得て、予の政府担当大臣をして、国際オリンピック委員会に対し、東京五輪開催を返上する旨通告せしめたり。
そもそも我国と我国民の安寧を図り、万邦万民と共栄共存せんとするは、内閣総理大臣たる予の神聖なる責務とするところ。予の前任者安倍晋三が「フクシマをアンダーコントロール」と大嘘を吐いてまで東京五輪を招致したる所以もまた、必ずしも利権への均霑を目的とするのみにあらず。
政治の要諦は、人民にパンのみならずサーカスをも提供すべきにあるところ、オリンピックこそは、現代最大のサーカスにして、最高の経済効果をもつイベントであり、それ故にその成功は最強の政権支持浮揚策となる。
かかる見地から、保守政治体制と財界の総力を挙げての東京五輪準備に邁進してきたところ、予期せぬ新型コロナ蔓延の事態に遭遇。これまで、既に1年有余のコロナとの交戦を経て、医療従事者の勇戦、官僚の精励、更に一億庶民各々最善を尽せる協力あるも、戦況の劣勢必すしも好転せず。
世界の大勢もまた我に利あらず。しかのみならず、新に幾種類もに変異する新型コロナウィルスは跳梁やむことなく、感染者の増大と重篤化は防止困難な深刻な事態に至る。
これに対応すべき医療の体制は脆弱にして、もし東京五輪の実施にこだわるとせば、さらに無辜の罹患者・重症者・病死者を輩出し惨害の及ぶ所、真に測るべからさるに至らん。今や、東京五輪がコロナ対策妨害者として認識されつつあり、ついには、オリンピックに対する怨嗟の声が、国民全体の政権批判の声に転化することは火を見るより明らかとなりぬ。
とすれば、座して政権批判世論の勃興を見るよりは、ここに敢えて予自ら東京五輪中止を宣言して、政権の総力をコロナ対策に集中すること以外に、危殆に瀕している政権浮揚の策はない。
予は、これまで東京五輪準備に邁進された諸氏に感謝の意を表する。また、オリンピック出場を目指していた選手諸君に想いを致せば、五臓が千切れる思いでもある。惟うに今後我国の受くべき苦難は固より尋常にあらず。汝ら人民の無念も、予よくこれを知る。然れども、政権の安泰と、保守政治の安定継続のためには、堪へ難きを堪へ忍び難きを忍び、東京オリンピックを返上すること以外にはなく、これをもって万世の為に自民党政治の展望を見出さんとするものである。
汝ら人民、宜しく予の意を体して、東京五輪はコロリと忘れてコロナ対策に専念せよ。
ギョメイ ギョジ

初出:「澤藤統一郎の憲法日記」2021.4.29より許可を得て転載
http://article9.jp/wordpress/?p=16752

〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 https://chikyuza.net/

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