大使館の前で

韓国通信NO687

 元従軍慰安婦たちの水曜デモが1月5日、30周年を迎えた。世界に類のない要求を掲げた運動が市民に支えられて1525回目。 

 写真は当日の参加者たちの記念撮影(大プラカードには「水曜デモ30」/ハンギョレ新聞デジタル版より)。
 元従軍慰安婦のハルモニ(おばあさん)たちのデモを見学しにでかけたのは20年以上も前になる。
 地図を頼りに探し当てた日本大使館は景福宮近く、韓国日報本社の横道を入ったところにあった。古色蒼然としたわが日本大使館は集会を避けるように警察車両と警察官に守られ固く門を閉ざしていた。建物の窓のブラインドはすべて降ろされ、日本側の「無視」の意思表示が伝わってきた。

 参加者は50人くらいらだったと記憶する。韓国の友人が、「みっともない所を見せて申し訳ない」と余計な心配をした。
 以来、ソウルに出かけ、水曜日にぶつかると大使館前でスピーチに耳を傾けた。観光目的の友人たちを案内したこともある。最後に訪れた5年前、辺りは若者たちで溢れ、平和の少女像が埋め尽くされるほどの賑わいだった(写真/2016/12/21大使館前/筆者撮影)。
 ハルモニたちの「若い人たちに伝えたい」という思いが実を結び、若者たちの参加が増えていた。

 運動のリーダーとして活躍した尹美香さんの金銭トラブルが取りざたされ、新たに発足した正義記憶連帯(略称「正義連」)との確執が刑事事件に発展したことは日本でも大きく報じられた。
 私に事件を語る資格はないが、事件をきっかけに運動と水曜デモが一時困難に陥ったことに心を痛めてきた。

<市民が支えた水曜デモ>
 1991年に元慰安婦として名乗り出た金学順さんに続き、名乗りをあげた元従軍慰安婦たちによって翌年から始まった水曜デモ。ハルモニたちの存在は私個人にとって、過去の歴史と現在を結ぶ現実であり続けた。
 1000回目の集会とシンポジウムに参加、天安にある金学順さんの墓地を訪れたこともある。外務省を「人間の鎖」で包囲したことが昨日のように思い出される。日本を始め世界に共感の輪が広がっていった。こんなに歳月がかかるとは誰も予想しなかった。ハルモニたちの訃報が相次いだ。
 1993年に河野談話があり、村山内閣時代の1995年にはアジア女性基金が設立された。紆余曲折をへて2015年の安倍内閣の10億円「日韓合意」に至るが、誠意のない金銭による解決は当事者たちと韓国社会から受け入れられなかった。特に安倍首相の歪んだ歴史認識と傲慢な態度が明らかになると、徴用工問題をめぐる日韓関係の悪化とも重なり、解決の糸口さえ見えないまま今日に至る。
 局面打開に韓国の新大統領に期待する向きがあるが、河野談話を取り消そうとする日本の動きがある中では誰が大統領になっても解決は到底ありえない。
 「勇気を出して日本軍慰安婦問題を世に知らせ、また第1525回水曜集会に至るまで、長い間行動を共にしてくださった皆様は本当にご苦労された」。当日発表された文在寅大統領のねぎらいのメッセージである。
 国連で「ダーバン宣言」が採択されてから21年。世界は列強による植民地支配に対する反省と賠償を求めている。地球規模の貧困格差と人種差別の是正を求める国際世論である。
 日本だけが悪いのではないという言い訳は通じない。

<異変 占拠された抗議集会場>
 これまで開かれてきた大使館前での集会ができない異常事態が続いている。尹美香事件が報じられると、「自由連帯」「オンマ(母親)部隊」らの右翼団体が、「水曜デモはさせない」と公然と会場を占拠するようになった。「慰安婦たちはウソつき、騙されるな」「日韓条約を守れ」「日本は何回も謝った」というのが彼らの主張。極右団体は親日派、反北朝鮮派、朴槿恵前大統領を支持する反文在寅大統領派である。
 日本政府とまったく同じ主張を掲げ、日本政府が求める少女像の撤去まで求めている。ついに日の丸を掲げて集会になぐり込みをかける人間まで現れた。『反日種族主義』の著書のひとり李宇衍氏(イ・ウヨン)氏<写真「ハンギョレ」デジタル版>である。日本の極右勢力がニンマリする光景かも知れないが、普通の日本人にはこの「親日」は薄気味悪い。

<日本の平和を求める水曜デモ>
 日本では水曜デモについては謝罪と賠償に焦点をあてた反日ステレオタイプな報道が氾濫している。徴用工問題にせよ慰安婦問題にせよ主要メディアは政府見解を丸のみするばかりで、政府見解に対する検証もない。
 ハルモニたちが戦争志向の日本に危機感を募らせ、平和を強く求めていることはあまり知られていない。原爆の被爆者たちが核兵器廃絶を強く訴えるように、彼女たちは日本の平和を求める資格のある貴重な生存者ということを忘れてはならない。軍の性奴隷にさせられたハルモニたちの世界平和への訴えは全世界に感動を与えているが、日本には届かない。「すべて解決済み」とする
 本国政府に歩調を合わせて大使館の中に閉じこもり、30年間何も学ばなかった大使と館員たちの怠慢も見逃せない。

初出:「リベラル21」より許可を得て転載http://lib21.blog96.fc2.com/

〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
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