大統領選で国民戦線のマリーヌ・ルペンに投票したタイ出身のマダム 

 フランスでは国民戦線のマリーヌ・ルペン党首と言えば反移民ということで知らない人はいません。ところが今年、僕がフランス大統領選挙に関してパリで聞き込みをする中で、マリーヌ・ルペンに大統領選で投票したと語ってくれた人はたった一人、意外にもそれはタイ出身のアジア料理店のマダムでした。パリと言えばフランスの中でもちょっと特殊で、国民戦線への支持率が圧倒的に低い場所です。その理由は教育水準の高さとか移民の割合が高い国際都市だから、とか様々な見方ができるでしょう。そんな中で自ら移民であるタイ出身のマダムが反移民の政党に投票したのだからちょっと驚いてしまったわけです。

 このマダムは非常に穏健な方で、いわゆる極右的な、攻撃的な印象はありません。むしろ優しくて暖かい印象でした。なぜ国民戦線に投票したのかと聞いてみると、治安をよくしてくれると思ったからだそうです。この店はパリ北駅からそう遠くない場所にあります。2015年の2回のテロ事件などもあって、最近は町中を軍人たちが銃を手に徘徊しています。一種の戦闘モードが町中に24時間、くすぶっているのです。

 タイ人のマダムが国民戦線に投票したことについて、「それは全然不思議じゃない」と言った人がいます。その人はフランス人の漫画家、アレクサンドル・アキラクマさんでした。

アレクサンドル・アキラクマ氏
 「それは全然不思議じゃないんですよ。商売人の店主たちは結構な割合でマリーヌ・ルペンに投票しているんです。というのはパリなどに住んでいるアジア人はフランス社会によく『溶け込めている』からです。逆に彼らから見ると、フランス社会に『溶け込めていない』人々や『秩序に反する』移民たちは好ましくないということなんです。僕のベトナム系の友人もマリーヌ・ルペンに投票するつもりだと教えてくれました。『ラシスト(人種差別主義者)か、反ラシストか』という枠組みでしか社会を見ることができなければ、フランスの本質を見ることはできないと思います」

 アキラクマ氏の指摘は興味深いものでした。つまり、社会というものは中心部に保守的な、最初からそこに住んでいた人々か、あるいは支配を確立した人々がいて、その次に流入してきた人がその外郭を取り囲み、さらにその後からやってきた人々がその周りを取り囲む・・・。実際には宗教とか、生活習慣の遠さとか近さが関係するので、こんな単純なモデルではないのでしょうけれども、「移民」と一言で言っても、社会に統合できる民族と、統合されにくい民族があるという指摘にはうなづけます。そして統合されやすい民族は統合されにくい民族に対しては排外主義的に振る舞う傾向がある、ということです。もちろん、1つの民族の中にも様々な考え方の人々がいますし、教育水準も様々ですからひとくくりにはできませんが。

〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
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