大賞に中日新聞グループの「平和の俳句」 - 2015年度の平和・協同ジャーナリスト基金賞 -

 反核・平和、協同・連帯、人権擁護等を推進するための報道に寄与したジャーナリストを顕彰する活動を続けている平和・協同ジャーナリスト基金(PCJF。代表委員、歴史学者・色川大吉、慶應義塾大学名誉教授・白井厚の各氏ら)は12月3日 、今年度の第21回平和・協同ジャーナリスト基金賞の受賞者・受賞作品を発表した。
 基金運営委員会によると、基金賞の選考は、鎌倉悦男(プロデューサー・ディレクター)、佐藤博昭(日本大学芸術学部映画学科講師)、清水浩之(映画祭コーディネーター)、高原孝生(明治学院大学教授)、鶴文乃(フリーライター)、前田哲男(軍事ジャーナリスト)、森田邦彦(翻訳家)の7氏によって行われ、候補作品84点(活字部門39点、映像部門43点、インターネット関係2点)の中から次の8点を授賞作に選んだ。

◆基金賞=大賞(1点)

 中日新聞社の「『平和の俳句』など戦後70年の平和主義を見つめ直す一連の報道」

◆奨励賞(6点)

 ★神奈川新聞取材班の「時代の正体――権力はかくも暴走する」(現代思潮新社)
 ★SEALDs編著の「SEALDs 民主主義ってこれだ!」(大月書店)
 ★下野新聞社取材班の「とちぎ戦後70年――終戦記念日特別紙面と一連のキャンペーン報道」
 ★西日本新聞安保取材班の「戦後70年 安全保障を考える」
 ★日本テレビ制作の「南京事件 兵士たちの遺言」
 ★本田雅和・朝日新聞南相馬支局長の「朝日新聞連載ルポ『プロメテウスの罠』シリーズ・希望の牧場」

◆荒井なみ子賞(1点)

 漫画家・西岡由香さん(長崎市)の「被爆マリアの祈り――漫画で読む三人の被爆証言」(長崎文献社)

 基金運営委員会によると、候補作品は、活字部門、映像部門とも、昨年から今年にかけての政治・社会情勢を反映して、集団的自衛権、憲法改定、安保関連法、原発といった問題を論じたものが多く、さらに、今年が「戦後70年」という節目の年に当たったため、「15年戦争」を回顧して、日本人の戦争体験を検証した力作が地方紙、ローカルテレビ局で目立った。

 ■基金賞=大賞には、中日新聞社の『「平和の俳句」など戦後70年の平和主義を見つめ直す一連の報道』が選ばれた。「平和の俳句」は中日新聞、東京新聞、北陸中日新聞など中日新聞グループの朝刊に連載されたもので、1日1句。「平和への思いを俳句の形でつぶやいてほしい」と読者に呼びかけて募り、選者は俳人の金子兜太、作家いとうせいこうの両氏。これまでに5万通の投稿があった。
 選考委では「安保関連法などで日本の平和主義が大きく揺らいだ年の新聞の企画として出色」「5歳から100歳までの人が参加しているのは素晴らしい]との発言があった。さらに「中日新聞グループが憲法、安保関連法案などの問題で積極的な報道を展開した点も評価したい」という声もあって大賞を贈ることになったという。

 ■奨励賞には活字部門から5点、映像部門から1点、計6点が選ばれた。
 まず、神奈川新聞取材班の『時代の正体――権力はかくも暴走する』については、審査員によって「ジャーナリズムでは一般的に客観報道が原則とされるが、ここでは、時として記者たちが客観主義の枠をはみ出て、取材対象、例えば安保問題、米軍基地、ヘイトスピーチなどに肉迫している。それが、読者の心をつかむ迫力ある記事となっている」と絶賛された。

 SEALDs編著の『SEALDs 民主主義ってこれだ!』は、安保関連法案反対運動に登場して一躍世間の注目を集めたSEALDs(自由と民主主義のための学生緊急行動)に参加している学生たちの主張や、メンバーの奥田愛基氏が参院特別委で意見陳述した全文などが収録されている。「SEALDsの行動を理解するには最適の文献」と、全会一致で授賞が決まった。
 
 下野新聞社取材班の『とちぎ戦後70年――終戦記念日特別紙面と一連のキャンペーン報道』は、戦後70年を機に栃木県民の戦争体験を検証したもの。「同様の企画がいくつかの地方紙によって取り組まれたが、下野新聞のそれは質・量ともに群を抜いている」「まさに新聞社の総力を挙げて取り組んだことがうかがえる大作」と評価された。
 
 西日本新聞安保取材班の「戦後70年 安全保障を考える」は、日本にとっての安保問題をさまざまな観点から総合的に論じた連載企画。選考委では「安保問題を深く理解するのに役立つ力作」「専守防衛を見直したドイツ、報復テロの後遺症に悩むスペイン、帰還兵の自殺が社会問題化している米国の現状を伝えるルポは読ませる」とされた。
 
 原発関係で1点入れたいということで選ばれたのが、本田雅和氏の『朝日新聞連載ルポ「プロメテウスの罠」シリーズ・希望の牧場』。これは、福島第1原発から14キロしか離れていない旧警戒区域で被曝した牛300頭を今なお飼い続けている酪農家の吉沢正巳氏を取り上げた連載で、「原発事故から4年たった被災地の現状と、この間、国や電力会社が何をやってきたかをリアルに伝える優れたレポート」とされた。

 映像部門で奨励賞に選ばれたのは『南京事件 兵士たちの遺言』。2015年10月4日深夜、日本テレビ系列でNNNドキュメント’15として放映された。審査員の評価は「日本の政治家や評論家等の一部には、南京事件はなかった否定する人々がいるが、そうした情況の中で、この事件を、兵士の陣中日記等から、本格的にきちんと伝えようとした製作姿勢には評価すべものがある」というものだった。

 ■荒井なみ子賞には西岡由香さんの『被爆マリアの祈り――漫画で読む三人の被爆証言』が選ばれた。この賞は、生協運動などで活躍された故荒井なみ子さんからの寄付金を基に創設された賞で、女性ライターが対象。西岡さんの受賞は7人目。西岡さんの作品は、長崎で被爆した3人の体験を通して原爆被害のすさまじさと被害を乗り越えて生きてゆく人間のたくましさを漫画で表現したもので、選考委では「読みやすい」「若い人たちにも原爆被害を知ってもらうには、漫画が効果的。その試みに挑戦しつつあることにエールを送りたい」とされた。

 基金賞贈呈式は12月12日(土)午後1時から、東京・内幸町の日本プレスセンター9階、日本記者クラブ大会議室で開かれる。参加費は3000円。 

初出:「リベラル21」より許可を得て転載http://lib21.blog96.fc2.com/
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
〔opinion5788:151204〕