反核・平和、協同・連帯、人権擁護等を推進するための報道に寄与したジャーナリストらを顕彰する活動を続けている平和・協同ジャーナリスト基金(PCJF。代表委員=ジャーナリストの鎌田慧、田畑光永、明治大名誉教授の中川雄一郎の各氏ら)は12月5日、2023年度の第29回平和・協同ジャーナリスト基金賞の受賞者・受賞作品を次のように発表した。
◆基金賞=大賞(1点)
佐喜眞美術館(沖縄県宜野湾市)制作の「丸木位里 丸木俊 沖縄戦の図全14部」<河邑厚徳監督作品>
◆奨励賞(7点)
★天野弘幹・高知新聞学芸部長のシリーズ企画「美しき座標―平民社を巡る人々」
★株式会社ストームピクチャーズ(さいたま市)制作の「時代遅れの最先端 風の谷幼稚園の子どもたち」<五十嵐匠監督作品>
★高橋淳・朝日新聞宇都宮総局員の「ブラック支援 狙われるひきこもり」<角川新書>
★写真家・高橋美香さんの「パレスチナに生きるふたり ママとマハ」<かもがわ出版>
★林啓太・中日新聞記者の・「ウクライナ、パレスチナ非戦の俳句」
★豊秀一・朝日新聞編集委員の「長年にわたる憲法に関する一連の報道」
★渡辺秀樹・信濃毎日新聞編集委員の「連載・憲法事件を歩く」
基金運営委員会によると、第29回基金賞の候補作品は推薦・応募合わせて76点だった。内訳は活字部門31点、映像部門45点。ウクライナ戦争でロシアが核兵器の使用を示唆したり、今年5月にG7サミットが広島で開かれたので核問題に関する作品が多く寄せられるのではと予想されたが、そういうことはなかった。その代わり、沖縄問題や憲法問題に関する力作が目立った。ウクライナ戦争を機に岸田政権が大軍拡に踏み切ったことから、国民の間に「日本も戦争に巻き込まれるのでは」との懸念が醸成されつつあることの表れではないか、と選考委員会はみている。イスラエル・パレスチナ紛争に関しても力作が寄せられた。
基金賞贈呈式は12月16日(土)、東京・内幸町の日本プレスセンター内、日本記者クラブで行われる。
受賞作品の内容と講評は次の通り。
■基金賞=大賞に選ばれたのは、映像部門の、沖縄県宜野湾市にある佐喜眞美術館が制作した「丸木位里 丸木俊 沖縄戦の図全14部」同美術館に常設展示されている丸木夫妻の「沖縄戦の図全14部」とその製作過程をドキメンタリー映画化したものである。
丸木夫妻は「原爆の図」の作者として知られる。夫妻を駆り立てたのは「沖縄戦の映像は米軍が撮影したものだけで、日本側には何もないから、描かなければならない」との使命感だったという。選考委員会では「県民の4人に1人が亡くなった悲惨な沖縄戦の悲劇を描いた大作の創造ブロセスを明らかにすることで、沖縄で再び戦争を繰り返してはならないと訴える本作は本年の大賞にふさわしい」とされた。
■奨励賞には活字部門から6点、映像部門1点、計7点が選ばれた。
まず、活字部門だがが天野弘幹・高知新聞学芸部長の「美しき座標―平民社を巡る人々」が選ばた。なにしろ、2021年1月から2023年春まで高知新聞に掲載された長編で、その分量に選考委員も目を見張った。
明治期に日露戦争に非戦を唱えて「平民社」を創設した公幸徳秋水、堺利彦とそれに繋がる幾多の群像の生涯を活写した作品である。選考委では「中江兆民、田中正造、福田英子らも出てきて、とても面白い」「自由民権運動から大正の終わり頃までの日本の状況が生き生きと描かれていて、この時代を理解するのに役に立つ」とされた。
同じく奨励賞に選ばれた、高橋淳・朝日新聞宇都宮総局員の「ブラック支援 狙われるひきこもり」は、ひきこもりが激増するにつれ、当事者や家族が、“支援”を騙る悪質な業者により深刻な被害に遭っているという、これまでほとんど知られていなかった事実に迫ったノンフィクションである。選考委では「実に丹念な取材に感服」「ひきこもり問題の解決策にまで言及している点を買いたい」とされた。
やはり奨励賞となった写真家・高橋美香さんの「パレスチナに生きるふたり ママとマハ」は、パレスチナのヨルダン川西岸地区で暮らす平凡な一般市民の日常生活を写真と文で紹介したものである。ところが、10月27日にガザ地区へのイスラエル軍の侵攻が始まった。それだけに、ガザ地区の住民が受けた被害の悲惨さに胸をつかれる。「写真絵本という形にしたので、子どもにも分かりやすく、パレスチナの人々を身近に感じられる体裁となっている」「日本人にはあまり知られていないパレスチナの現状を知るのに役にたつ」。選考委員の感想である。
林啓太・中日新聞記者の「ウクライナ、パレスチナ非戦の俳句」にも奨励賞を贈ることになったが、多くの選考委員がこの記事に多大な関心を示した。なぜなら、俳句愛好者が世界的に広がりつつあることは知ってはいたものの、外国の人が、母国語で非戦への願いを俳句として詠むとは思ってもみなかったからである。そして、選考委員を驚かせたことの1つは、外国語の俳句がいずれも3行詩であったことだった。
ウクライナもパレスチナも戦場である。そこで詠まれた句は平和への思いが溢れていた。外国語の俳句を和訳したのは林記者。「どれも名訳」。選考委員の一致した評である。中日新聞社は2015年に「平和の俳句」で大賞を得た。今回はその国際版と言える。
豊秀一・朝日新聞編集委員は「長年にわたる憲法に関する一連の報道」で奨励賞となった。日本には、これまで、日本国憲法の規定を武器に平和のためや、人権を守るためや、あるいは健康で文化的な生活を求めて闘ってきた人々がいたし、今もいる。豊氏はこれらの人々の言い分に耳を傾け、憲法擁護の論陣を張ってきた。政界では、改憲への動きが強まっている。護憲のペンを振るう記者諸君がほうはいと登場してくることを期待したい。
日本国憲法が施行されて76年余。この間、いわゆる違憲訴訟があったし、今も続いている。ある事件、ある事象が起こる。果たして、それが合憲であるか、それとも違憲かが裁判で争われる。思いつくだけでも、いくつか浮かんでくる。砂川事件、恵庭事件、長沼ナイキ基地訴訟、津地鎮祭訴訟、イラク派遣訴訟、朝日訴訟……。これらの事件、事象の現地を訪ね、これらの訴訟が何を残したのかを改めて吟味してみる。そんな気が遠くなるような取材活動に挑んでいる記者がいる。「連載・憲法事件を歩く」で奨励賞を
受賞した信濃毎日新聞の渡辺秀樹編集委員である。週1回の連載ですでに64回を数えた。選考委では「9条問題だけで11回も書いている。とにかく、すごい」「地道な取材に敬服する」とされた。
■映像部門で奨励賞となった1点は、株式会社ストームピクチャーズ制作の「時代遅れの最先端 風の谷幼稚園の子どもたち」である。
東京の郊外、神奈川県川崎市の雑木林に囲まれた丘に「風の谷幼稚園」と呼ばれる幼稚園がある。本作は、そこの園長と子どもたちの成長を1年間追ったドキュメンタリー。「人間として誇りをもつ」「心を通い合わせる」「解決方法を考える力を養う」といった習慣を園児たちに身につけさせるのが園の理念という。選考委では「子どもたちが生き生きと生活している姿があますところなく描かれている」と評価された。
なお、 毎日新聞記者・上東麻子さんの「関東大震災における朝鮮人虐殺に関する報道」、 毎日新聞記者・後藤由耶、南茂芽育、栗原俊雄さんの「関東大震災時の虐殺 新聞は」、琉球大学客員研究員・非常勤講師の阿部靄さんの「沖縄と国際人権法」<高文研>が最終選考まで残った。
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