反核・平和、協同・連帯、人権擁護等を推進するための報道に寄与したジャーナリストらを顕彰する活動を続けている平和・協同ジャーナリスト基金(PCJF。代表委員、ジャーナリストの田畑光永・鎌田慧の両氏ら)は11月30日 、2020年度の第26回平和・協同ジャーナリスト基金賞の受賞者・受賞作品を発表した。
◆基金賞(大賞)=1点
信濃毎日新聞社編集局「連載企画・記憶を拓く 信州 半島 世界」
◆奨励賞=7点
★伊藤絵理子・毎日新聞記者の連載「記者・清六の戦争」
★九州朝日放送「良心の実弾~医師・中村哲が遺したもの~」<20・5・29放映>
★Kプロジェクト「ドキュメンタリー映画『日本人の忘れもの フィリピンと中国の残留邦人』」
★静岡新聞取材班「長期調査報道・サクラエビ異変」
★元教員・竹内良男さん(東京都)の「ヒロシマ連続講座」と通信「ヒロシマへ ヒロシマから」の発行
★西日本新聞社取材班「戦後75年企画『言葉を刻む』『あの日、何を報じたか』」
★柏井宏之・樋口兼次・平山昇共同編集「西暦二〇三〇年における協同組合」<社会評論社>
今年度は戦後75年、被爆75年という節目の年にあたる。このため、選考委としては、戦後75年やヒロシマ・ナガサキ75年を意識した力作や意欲作が数多く寄せられるのではと期待していたが、全般的に低調だったという。これはおそらく、新型コロナウイルスが世界と日本を席巻したため、メディアも十分な報道活動が出来なかったからではないか、というのが選考委の見方だ。
でも、そうした厳しい状況にあっても積極的な姿勢で取材や執筆挑んだ力作、労作があったという。
■基金賞=大賞に選ばれたのは、信濃毎日新聞社編集局の『連載企画・記憶を拓く 信州 半島 世界』である。
日本と韓国は、2年前にあった、元徴用工の賠償問題を巡る韓国大法院の判決をきっかけに最悪の関係にある。書店には嫌韓本が山積する有様だ。こうした状況に真正面から向き合い、日韓関係改善への道を探った連載が、審査委員の注目を集めた。
選考委では「日韓関係の現況を報道機関としてほっておけないという編集局挙げての気迫を感じさせる」「日韓双方の現状を丁寧に取材していることに好感がもてる」「松代大本営地下壕工事に動員された朝鮮人の生存家族を韓国で探し当て当時のことを語らせたのは、特筆に値する」「日韓関係の歴史を、84年前のベルリン・五輪のマラソンで優勝した孫基禎選手の生涯から解き起こしているのは秀逸」といった賛辞が相次いだ。
■奨励賞には活字部門から5点、映像部門から2点、計7点が選ばれた。
すでに述べたように、本年は戦後75年・被爆75年に当たったので、選考委は、メディアがこれをどう報道したかを論議したという。新聞について言えば、特攻隊の生き残りとか、空襲被害者、満蒙開拓団引揚者など、戦争体験者を紙面に登場させて体験を語らせるといった企画が大半だったが、毎日新聞社が多角的な視点から戦後75年・被爆75年を検証していたのがひときわ光ったという。その中でとくに審査委員の目をとらえたのが伊藤絵理子記者の連載『記者・清六の戦争』だった。
伊藤記者の曾祖父の弟にあたる伊藤清六は毎日新聞記者だったが、太平洋戦争末期、フィリピンで日本軍と行動を共に敗走中、山中で餓死する。連載はその足跡を丹念にたどったもので、「日本軍による加害の事実、新聞の戦争責任にも言及している点を評価したい」として奨励賞に選ばれた。
同じく奨励賞を受賞した静岡新聞取材班の『長期調査報道・サクラエビ異 変』は、2年間ですでに500回、まだ連載中というから、まるで大河小説を読むような大作である。
全国的に有名な駿河湾産のサクラエビの不漁に注目した取材班は、その原因が駿河湾に注ぐ富士川の水の汚れにあるのでは、と推測する。そこで富士川沿岸の歴史を調べてゆくうちに、沿岸の環境破壊が明らかになり、ついに汚水の原因を突き止める。その粘り強い取材に審査委員から驚嘆の声が上がった。
すでに述べたように、今年は被爆75年。そこで、ヒロシマ・ナガサキ関係から1点を選びたいという審査委員の思いから奨励賞に選ばれたのが、竹内良男さんの『「ヒロシマ連続講座」と通信「ヒロシマへ ヒロシマから」の発行』だった。
高校教員をしていた竹内さんは生徒を連れた修学旅行で広島を訪れ、被爆の実相を知ってショックを受ける。その事実を、広島から遠く離れた首都圏の人たちに伝えたいと、2016年から都内で始めたのが「ヒロシマ連続講座」で、講師は被爆者や戦争体験者ら。コロナ禍が始まると、講座受講者が減った。そこでウエブで発信し始めたのが、被爆や戦争に関する情報を載せた「ヒロシマへ ヒロシマから」だった。選考委では「たった1人で講座を続ける持続的な努力に敬服する」との声がもれたという。
今夏も、新聞各紙は「戦争体験をどう次の世代に継承するか」といった問題意識から企画記事を掲載した。大半は、戦争体験者にインタビューしたものだったが、その中でひときわ異彩を放っていたのが奨励賞に選ばれた西日本新聞社取材班の『戦後75年企画「言葉を刻む」「あの日、何を報じたか」』だった。
「言葉を刻む」は、戦争にまつわる過去の記事、体験をつづった読者の手紙、取材ノートに残っていた言葉をコンパクトに再現したもの、主としてウェブサイトで展開した「あの日、何を報じたか」は、75年前の紙面から市民生活に関する記事を選び、当時と同じ日付の画面に掲載したものだった。こうした手法は、審査委員をして「新聞が戦争体験を次世代に伝えるのにこんな手法もあったとは」と驚かせた。
同基金は、人と人との「協同・連帯」を重視する作品も顕彰の対象にしているが、今年は柏井宏之・樋口兼次・平山昇3氏共同編集の『西暦二〇三〇年における協同組合』を奨励賞に選んだ。
世界では、今、資本主義の危機が叫ばれ、資本主義に代わる経済システムが模索されている。本書は、営利を目的としない協同組合こそがそれに値するのではないか、という視点から学者、生協活動家ら23人が、協同組合の可能性を論じたものだ。選考委では「今後の協同組合を考える上で多様な見識を得られる点を評価したい」と称賛されたという。
■映像部門から奨励賞に選ばれた2点は、九州朝日放送の『良心の実弾~医師・中村哲が遺したもの~』と、Kプロジェクトのドキュメンタリー映画『日本人の忘れもの フィリピンと中国の残留邦人』。
九州朝日放送の作品は、最初はアフガンなど紛争地帯の医療活動に携わっていた中村医師が、貧しい人々を助けるには戦争で荒野となってしまった土地に水を与えることこそが第1命題と考え、現地の人々と共に灌漑事業に献身する姿を追ったドキュメンタリーである。選考委では「中村医師の崇高な活動と人柄をあますところなく描き出した感動的な作品として高く評価したい」とされた。
『日本人の忘れもの フィリピンと中国の残留邦人』は、戦争という名の国策によって生まれた2つの国の残留者たちを追ったドキュメンタリーです。中国残留孤児・婦人のことは、報道によって知られていますが、敗戦後のフィリピンで日本人の父と生き別れたことから差別と貧困の中に生きることになったフィリピン残留日本人2世のことは殆ど知られていません。
選考委では「彼ら彼女らを棄民した日本政府に鋭いアピールを突きつけた作品として評価する」とされました。
そのほか、活字部門では、信濃毎日新聞記者・渡辺和弘「思想監視 公文書・記録が語る」▽藤原健「終わりなき<いくさ>~沖縄戦を心に刻む」<琉球新報社>▽朝日新聞記者・南彰「政治部不信―権力とメディアの関係を問い直す」<朝日選書>▽沖縄タイムス社「連載企画『独り』をつないで―ひきこもりの像―」が最終選考まで残った。
例年、12月初旬には、平和・協同ジャーナリスト基金が受賞者を東京・内幸町の日本記者クラブ東京に招いて基金賞贈呈式を催していたが、今年は新型コロナウイルスが猛威を振るっているため、三密を避ける狙いから贈呈式は取りやめとなった。
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