2012年度の平和・協同ジャーナリスト基金賞
反核・平和、協同・連帯、人権擁護等を推進するための報道に寄与したジャーナリストを顕彰する活動を続けている平和・協同ジャーナリスト基金(PCJF)は12月6日 、今年度の第18回平和・協同ジャーナリスト基金賞の受賞者を発表した。
基金運営委員会によると、鎌倉悦男(プロデューサー・ディレクター)、佐藤博昭(日本大学芸術学部映画学科講師)、清水浩之(ゆふいん文化・記録映祭コーディネーター)、高原孝生(明治学院大学教授)、前田哲男(軍事ジャーナリスト)、森田邦彦(翻訳家)、由井晶子(元沖縄タイムス編集局長)の各氏ら、運営委が委嘱した7人の審査委員による選考の結果、候補作品69点(うち映像関係21点)の中から8点が授賞作に決まった。
◆基金賞=大賞(1点)
ジャーナリスト・布施祐仁氏の「ルポ イチエフ~福島第一原発レベル7の現場」(岩波書店)
◆奨励賞(7点)
★阿武野勝彦・片本武志共同監督の「長良川ド根性」(東海テレビ)
★河勝重美・ヒロシマ「原爆地獄」を世界に弘める会代表編の「ヒロシマ原爆地獄 日英二カ国語版」
★上丸洋一・朝日新聞編集委員の「原発とメディア」(朝日新聞出版)
★ジャーナリスト・生協研究家、西村一郎氏の「協同っていいかも?」(合同出版)
★ハイロアクション福島原発40年実行委員・武藤類子さんとフォトジャーナリスト・森住卓氏の「福島から あなたへ」(大月書店)
★琉球朝日放送制作の「標的の村~国に訴えられた沖縄・高江の住民たち~」
★琉球新報社の「米海兵隊のオスプレイ配備に抗う一連の報道」
基金賞選考にあたって寄せられた候補作品は69点だったが、基金運営委によると、これは前年度より17点も多かった。しかも、今年度は活字、映像部門とも優れた作品や大作が多く、入賞作をしぼってゆくのに時間がかかったという。
■大賞にあたる基金賞には、布施祐仁氏の「ルポ イチエフ~福島第一原発レベル7の現場」が全員一致で選ばれた。
2011年3月の東電福島第1原発の事故は世界史上でも稀にみる画期的な事故となった。今年もこの事故に関する作品が数多く寄せられたが、「ルポ イチエフ~福島第一原発レベル7の現場」は、イチエフ(福島第1原発のこと)で働く原発作業員の労働環境や作業実態に迫ったルポルタージュ。著者が取材した作業員は約50人にのぼり、彼らの証言から、東電がいかにコスト重視に走り、安全管理を怠ってきたかが浮き彫りにされている。また、何重にも積み上がった請負会社によって作業員の賃金が幾重にもピンハネされてゆく構造が明らかにされている。選考委員会では「原発関係の作品では、内容が一番充実しており、完成度も高い」とされた。
■奨励賞には7点が選ばれた。活字部門で5点、映像部門で2点。
まず、活字部門だが、河勝重美・ヒロシマ「原爆地獄」を世界に弘める会代表編の「ヒロシマ原爆地獄 日英二カ国語版」は、被爆者が描いた原爆の絵を収録したもの。ドイツパナソニック社長を務めていた河勝氏が、被爆した旧制中学同級生の手記を独訳したのがきっかけで、原爆の絵と資料を収録した本をドイツで出版、その後、英語版、日本語版をつくり、今回、日英二カ国語版を自費出版で刊行した。出版にかかった費用は旧制中学で同級生だった3人で負担したという。選考委では「身銭を切って原爆の惨禍を世界に伝えようという努力に敬服する」「被爆の実相を世界に伝える上で大変役に立つ」との発言があった。
上丸洋一・朝日新聞編集委員の「原発とメディア」は、朝日新聞の連載『原発とメディア』のうち、上丸氏が執筆した部分に大幅に加筆して単行本としたもの。この連載は、原発の「安全神話」の形成に新聞がいかに加担してきたかを新聞自らが明らかにしたものとして反響を呼んだが、選考委では「原発報道を自己検証したものとして注目に値する」「単行本になったことで、上丸氏の取材力と筆力が改めて印象づけられた」との発言があった。
西村一郎さんの「協同っていいかも?」は、名古屋市の南医療生協の50年に及ぶ活動を紹介したもの。全国各地に医療生協があるが、その活動がどんなものかあまり知られていない。西村氏は丹念な取材を通じて、地域に深く根ざしながら目覚ましい発展を続ける南医療生協の姿を生き生きと描き出していると、とされた。今年は国連制定の国際協同組合年であることと、西村氏が今年、生協に関する著作を次々と出版されたことも勘案した授賞となった。
「福島から あなたへ」の筆者、武藤類子さんは、福島県三春町の山の中で喫茶店を経営していたが、福島第1原発の事故により、その店を閉めざるをえなかった。以来、脱原発の活動を始め、昨年、東京で開かれた「9・19さようなら原発5万人集会で」で「私たちはヒバクシャとなりました」と福島県の惨状を訴えた。このスピーチは内外に大きな反響を呼び起こし、英語、中国語、ドイツ語、フランス語などに翻訳されて世界中に広がった。そのスピーチなどを収めたのが本書で、選考委では「脱原発運動に大きな影響を与えた」とされた。武藤さんの文には森住卓氏の写真が添えられている。森住氏は1999年にもこの基金賞の奨励賞を受けており、2回目の受賞。
琉球新報社の「米海兵隊のオスプレイ配備に抗う一連の報道」には審査委員から「オスプレイに関する報道の質と量に圧倒された」「オスプレイ配備がもたらす危険と、それに反発する沖縄県民の憤りが余すところなく紙面化されている」「内容も立派。すごい、の一語に尽きる」といった賛辞が寄せられた。
そのほか、下嶋哲朗さんの「非業の生者たち」(岩波書店)、米田綱路さんの「脱ニッポン記」(上・下)(凱風社)、比嘉康文さんの「我が身は炎となりて」(新星出版)が最終選考まで残った。
■映像部門では基金賞の該当作がなく、奨励賞に2点が選ばれた。
阿武野勝彦・片本武志共同監督の「長良川ド根性」(東海テレビ)は、国策の名のもとに16年前、1500億円を投入し清流・長良川を堰き止めて建設された「長良川河口堰」のその後を追った作品。2011年、建設を推進した愛知県が、環境意識の高まりと水余りを背景に河口堰不要論を唱え始めた。「今さら何を言うのか」と、建設に最後まで反対した赤須賀漁港の漁師たちは怒る。国策に抵抗して漁師たちが身をもって守ろうとしたものは何か。「国策という大義名分がいかにおろかで空しいものかを、漁師の生活を描くことで表現している」と評価された。
琉球朝日放送制作の「標的の村~国に訴えられた沖縄・高江の住民たち~」は、沖縄住民がおかれている現状を鋭く追及したドキュメンタリーとして高く評価された。
沖縄は、これまで米軍機による数多くの事故によって多大な被害を受けてきた。なのに、米軍機オスプレイ配備により沖縄県東村高江にヘリパットが建設されることになり、予想される被害におびえる住民は、座り込みによって国への抗議活動を起こした。これに対し、国は住民を相手取り道交法違反で裁判に持ち込んだ。米国に言われるままの日本政府。政府に言われるままの防衛施設局。こうした状況がリアルに描き出されている、とされた。
他に、伊東英朗・監督作品「放射線を浴びたX年後」(南海放送)が、「ビキニ被災事件で第五福竜丸以外にも被災船があったことを明らかにした力作」と高い評価を受けました。
■女性ライターに贈られる荒井なみ子賞は該当作がなく、本年も見送りとなった。
賞贈呈式は12月15日(土)午後1時から、東京都新宿区の日本青年館301号室(JR中央・総武線千駄ヶ谷駅、地下鉄銀座線外苑前駅、都営地下鉄国立競技場駅下車)で行われる。基金運営委は「だれでも参加できます」と話している。
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