反核・平和、協同・連帯、人権擁護等を推進するための報道に寄与したジャーナリストらを顕彰する活動を続けている平和・協同ジャーナリスト基金(PCJF)は12月2日 、今年度の第17回平和・協同ジャーナリスト基金賞の授賞者を発表した。基金が委嘱した選考委員による審査の結果、候補作品52点(うち映像関係14点)の中から8点が授賞作に決まった。
◆基金賞=大賞 (1点)
報道写真家・樋口健二氏の写真集「原発崩壊」(合同出版)
◆奨励賞 (5点)
★石山永一郎・共同通信編集委員の「ケビン・メア米国務省前日本部長の沖縄に関する 発言報道」
★長崎放送製作の「封印された核~元兵士が語る在日米軍の真実~」
★ジャーナリスト・向井嘉之、翻訳家・森岡斗志尚両氏(富山市)の「イタイイタイ病 報道史 公害ジャーナリズムの原点」(桂書房)
★琉球新報取材班の連載「ひずみの構造――基地と沖縄経済」
★大石光伸・常総生活協同組合副理事長(茨城県)の活動
◆審査員特別賞 (2点)
★石田優子監督作品「はだしのゲンが見たヒロシマ」(製作シグロ、トモコーポレーシ ョン)
★テレビ朝日、東京サウンドプロダクション製作の「誰も知らない『玉音放送』~“日 本のいちばん長い日”の真実~」
選考には、鎌倉悦男(プロデューサー・ディレクター)、高原孝生(明治学院大学教授)、、前田哲男(ジャーナリスト)、森田邦彦(翻訳家)、山谷哲夫(ドキュメンタリー監督)、由井晶子(元沖縄タイムス編集局長)の6氏があたった。
■大賞にあたる基金賞には、樋口健二氏の写真集「原発崩壊」が全員一致で選ばれた。
今年は、東日本大震災とそれによって引き起こされた東電福島第1原発の事故によって日本史上ではもちろん、世界史上でも画期的な年となった。このため、大震災と原発事故に関する作品が多く寄せられたが、読者に与えるインパクトという点では樋口氏の写真集が群を抜いていた。この写真集は原発で働く労働者を約40年にわたってカメラで追跡してきた取材活動の集大成ともいえるもので、原発が人間と環境にもたらす恐るべき危険性を黙々と、だが鋭く訴える。選考委では「原発問題の核心に迫る渾身の記録」「とかく無視されがちな原発下請け労働者の被曝に目を注ぎ続けてきたことを評価したい」「とりわけ、原発内部の労働を撮った写真は例がない」といった絶賛の声が相次いだ。
本書は32年前に刊行されたが、東電福島第1原発の事故を受けて最新の写真も加えて再刊された。
■活字部門では、4点が奨励賞に選ばれた。まず、共同通信の石山永一郎編集委員によるケビン・メア米国務省前日本部長の発言報道が評価された。前日本部長の発言とは、沖縄について「(日本政府に対する)ごまかしとゆすりの名人」「怠惰でゴーヤーも栽培できない」などと米学生に語ったとされるもので、内外に大きな反響を巻き起こした。選考委では「見事なスクープ」「沖縄問題を多くの人に考えさせるきっかけとなった」との声が上がった。
向井嘉之、森岡斗志尚両氏の「イタイイタイ病報道史 公害ジャーナリズムの原点」は富山県の神通川流域に発生した鉱毒被害、イタイイタイ病に関する100年以上に及ぶ報道史を検証したもの。選考委では「公害とは何かと問うと同時に、メディアとは何かという根本的な課題にも鋭く迫る労作」「県内外の図書館に保存されている7000件ものイタイイタイ病に関する記事を集め、検証した努力に敬服する」とされた。
琉球新報取材班の連載「ひずみの構造――基地と沖縄経済」については「沖縄経済の実態を解明した力作」「米軍基地の存在はいまや経済発展の阻害要因となっていることを明らかにした点を評価したい」「沖縄問題と原発立地の構図は国への依存構造をつくる点で似ているという指摘に注目したい」との賛辞が寄せらた。
基金は、優れた作品ばかりでなく優れた活動も顕彰の対象としてきた。今回は、大石光伸・常総生活協同組合副理事長の活動が評価され、奨励賞を贈ることになった。
生協はいまやスーパーと同様の小売業と化したとの指摘がなされている。その中にあって、常総生協は組合員7000人という茨城県の小さな生協ですが、独特の活動で注目を浴びている。組合員主体の運動と共同購入中心との事業を展開するなど、他の生協にはみられない活動を進めている。福島第1原発の事故後は、放射能汚染を測定したり、東海第2原発廃炉の住民訴訟を起こすなど、脱原発の運動を始めた。そこでリーダーシップを発揮しているのが大石氏だ。
■映像部門では基金賞の該当作はなかったが、奨励賞に1点、審査員特別賞に2点が選ばれた。
奨励賞に選ばれた長崎放送製作の「封印された核~元兵士が語る在日米軍の真実~」については「沖縄返還時、日米間では核密約はなかったと言明し続ける日本政府だが、このドキュメンタリーは、在日米軍基地で核兵器使用訓練を受けた当時の兵士や米軍資料を3年がかりで捜し出し、その疑惑を解明した。その執拗な取材姿勢は、今日の映画・テレビ界の中では特筆されるべきだ」とされた。
審査員特別賞となった「はだしのゲンが見たヒロシマ」(シグロ、トモコーポレーション製作)については「広島原爆で多くの家族を失った漫画家中沢啓治が、戦争を行ってきた者、これからら行おうとしている者たちに激烈な怒りの感情をもっているにもかかわらず、子どもから大人たちに語りかけるように、静かに核廃絶を訴える普遍性をもった作品」とされた。
同じく審査員特別賞に選ばれた「誰も知らない『玉音放送』~“日本の~いちばん長い日”の真実」については「日本が亡国となるか、生き残れるかというきわどい敗戦間際に、軍部、政府とは別に民間人の立場で戦争を終わらせようと必死の努力をした人々を、映像歴史学の立場から取り上げ、日本敗戦の悲劇を風化させまいとの意図でつくられた意欲的な番組」とされた。
■女性ライターに贈られる荒井なみ子賞は該当作がなく、本年は見送りとなった。
賞贈呈式は12月10日(土)午後1時から、東京都新宿区の日本青年館301号室(JR中央・総武線千駄ヶ谷駅、地下鉄銀座線外苑前駅、都営地下鉄国立競技場駅下車)で行われる。基金運営委は「だれでも参加できます」と話している。
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