大賞に毎日新聞夕刊編集部の「夕刊・特集ワイド」  - 2016年度の平和・協同ジャーナリスト基金賞 -

 反核・平和、協同・連帯、人権擁護等を推進するための報道に寄与したジャーナリストらを顕彰する活動を続けている平和・協同ジャーナリスト基金(PCJF。代表委員、歴史学者・色川大吉、慶應義塾大学名誉教授・白井厚の両氏ら)は12月1日 、2016年度の第22回平和・協同ジャーナリスト基金賞の受賞者・受賞作品を発表した。
 基金賞の選考は、鎌倉悦男(プロデューサー・ディレクター)、佐藤博昭(日本大学芸術学部映画学科講師)、清水浩之(映画祭コーディネーター)、高原孝生(明治学院大学教授)、鶴文乃(フリーライター)、前田哲男(軍事ジャーナリスト)、森田邦彦(翻訳家)の7氏を審査員とする選考委員会によって行われ、候補作品69点(活字部門25点、映像部門41点、インターネット関係3点)の中から次の8点を選んだ。

◆基金賞(大賞)(1点)
 毎日新聞夕刊編集部の「夕刊『特集ワイド』における平和に関する一連の記事」
◆奨励賞(7点)
 ★ノンフィクション作家、大塚茂樹さんの「原爆にも部落差別にも負けなかった人びと」(かもがわ出版)
 ★原爆の図丸木美術館学芸員、岡村幸宣さんの「≪原爆の図≫全国巡回――占領下、100万人が観た!」(新宿書房)
 ★よしもと所属の夫婦漫才コンビ・DAYSJAPAN編集委員、おしどりマコ・ケンさんの原発問題での情報発信
 ★金澤敏子、向井嘉之、阿部不二子、瀬谷實さんの「米騒動とジャーナリズム」(梧桐書院)
 ★上丸洋一・朝日新聞記者の「新聞と憲法9条」(朝日新聞出版)
 ★瀬戸内海放送制作の「クワイ河に虹をかけた男」
 ★森永玲・長崎新聞編集局長の「反戦主義者なる事通告申上げます――消えた結核医 末永敏事――」(長崎新聞連載)

 選考委員会によると、今年度は、新聞社からの応募や推薦が少なかった。これについて、審査員の1人は「昨年は、戦後70年を機に戦後70年を総括する企画や、集団的自衛権問題、安保問題、憲法問題に取り組んだ新聞が多く、力作が目白押しだった。今年はその翌年とあって、全般的に低調。いわば“戦後70年疲れ”と いったところか」と述べた。そうした面があったものの、今年も、原爆、憲法、沖縄の基地問題、原発問題などを粘り強く追った力作が審査員の目を引いたという。 

 ■基金賞=大賞(1点)には、毎日新聞夕刊編集部の『夕刊「特集ワイド」における平和に関する一連の記事』が選ばれた。同紙の「夕刊 特集ワイド」は、夕刊二面の全面を使った大型紙面で、毎夕、さまざまな問題を取り上げている。2015年から16年にかけての紙面では、国民の関心が高い集団的自衛権、安保関連法、憲法、沖縄の基地問題、原発問題などを積極的に取り上げ、選考委では「ユニークな企画性が感じられ、現在のマスメディアの中では異彩を放つ意欲的な紙面」とされた。沖縄・高江の米軍ヘリパッド建設現場で機動隊員による「土人発言」問題が起きた時、これを直ちに紙面化した点も評価された。

 ■奨励賞には活字部門から6点、映像部門から1点、計7点が選ばれた。
 大塚茂樹さんの『原爆にも部落差別にも負けなかった人びと』は、広島市福島町を中心とした地域の戦後史を描いたノンフィクション。この地域はかつて被差別部落だったが、原爆で甚大な被害を受けた。いわば、この地域の人たちは二重の苦しみに見舞われたわけだが、本書はその苦しみがどんなに深いものであったかを克明に明らかにしており、選考委では「著者はこれをまとめるのに3年を費やし、インタビューした人は60人を超える。そうした取り組みに敬意を表したい」とされた。

 岡村幸宣さんの『≪原爆の図≫全国巡回――占領下、100万人が観た!』も原爆にからむノンフィクションである。丸木位里・俊夫妻が「原爆の図」を発表したのは米軍占領下の1950年。米軍が原爆に関する報道を禁止していたから、日本国民が原爆被害の実態を知るのは困難な時代だった。ところが、本書によれば、なんと「原爆の図」巡回展が全国各地で催され、大勢の入場者があったという。「日本国民の間で今なお反核意識が強いのは、こうしたことがあったからかも。これまで知られていなかった事実を丹念に掘り起こした努力は称賛に値する」と、全会一致で授賞が決まった。

 原発問題も引き続き重大な課題とあって、原発関係からもぜひと選ばれたのが、おしどりマコ・ケンさんの『原発問題での情報発信』だった。お二人は漫才コンビだが、市民の立場から、原発事故に関し本当に必要な情報が出てこない状況に疑問を抱き、東電や政府の記者会見に出席したり、福島にも通って原発事故に関する情報を執筆、動画、講演などで発し続けている。こうした活動が「市民運動の支えなっている」と評価された。

 金澤敏子、向井嘉之、阿部不二子、瀬谷實さん(いずれも細川嘉六ふるさと研究会のメンバー)の『米騒動とジャーナリズム』は、大正時代に富山県から全国に広がった米騒動の全容を新聞報道から検証した、4年がかりの労作。そこでは、初めは米騒動に無関心だった新聞が、政府から取材規制を受けながら次第に民衆の側に立ってゆく報道姿勢の変化が立証されている。選考委では「今のジャーナリズムも、今こそこうしたジャーナリズムの歴史に目を向けて原点に戻り、庶民の側に立った報道をしてほしいという著者たちの願いが伝わってくる」とされた。

 上丸洋一・朝日新聞記者の『新聞と憲法9条』は、憲法関係からもぜひ選ばねばという審査員の配慮から授賞作となった。審査員の1人は「憲法改定が現実味をおびてきた今、憲法の眼目ともいうべき9条の意義を歴史的に、しかも、分かりやすく解明した本書の今日的意義は大きい」と語った。

 「かつてこんな医者がいたとは」と審査員全員が驚きの声を上げたのが、森永玲・長崎新聞編集局長の『反戦主義者なる事通告申上げます――消えた結核医 末永敏事――』だった。戦前、米国に留学までしながら日中戦争下に軍部への協力を拒否したため投獄され、悲劇的な生涯を閉じた医師の空白部分に迫った連載記事(長崎新聞2016年6月~10月)である。選考委では、「単に1人の医師の悲劇を明らかにしただけでなく、医師の受難とからめて現行の特定秘密保護法や、政府が目論む共謀罪に警鐘を鳴らしていることを髙く評価したい」とされた。
 
 ■映像部門では、瀬戸内海放送の『クワイ河に虹をかけた男』(満田康弘監督)が奨励賞に選ばれた。
 太平洋戦争中、タイとビルマ(ミャンマー)を結ぶ「泰緬鉄道」の建設に陸軍通訳として関わった永瀬隆さんの、半世紀にわたる贖罪の足跡を追ったドキュメンタリーである。選考委は「妻の佳子さんと二人三脚でタイへの巡礼を続け、犠牲者の慰霊、連合国軍元捕虜たちとの和解、タイ人留学生の日本への受け入れなど、国がやろうとしない『戦後処理』を独力で行ってきた永瀬さんの執念に圧倒される。彼が謝罪した元捕虜たちの心の変化も捉えて、人は『戦争』にどう決着をつけるかを考えさせてくれる、深みのある作品になった」とした。
 
 ■そのほか、活字部門では、高知新聞取材班の『秋のしずく 敗戦70年のいま』、映像部門では、是枝裕和監督の『いしぶみ』(広島テレビ)、毎日放送の『テレビの中の橋下政治~“ことば”舞い散る8年~』、テレビ熊本『還らざる魂魄~シベリア・死者たちの声が聞こえる』、熊本県民テレビ『生きる伝える“水俣の子”の60年』、佐藤太監督の『太陽の蓋』、藤本幸久・影山あさ子監督の『圧殺の海第2章 辺野古』『高江 森が泣いている』が最終選考まで残った。
 荒井なみ子賞は該当作がなかった。

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 基金賞贈呈式は12月10日(土)午後1時から、東京・内幸町の日本プレスセンター9階、日本記者クラブ大会議室で開かれる。参加費は3000円。

初出:「リベラル21」より許可を得て転載http://lib21.blog96.fc2.com/
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