大賞に沖縄タイムス・長崎新聞・神奈川新聞合同企画「安保改定50年」 -今年度の平和・協同ジャーナリスト基金賞決まる- 

著者: 岩垂 弘 いわだれひろし : ジャーナリスト・元朝日新聞記者
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 反核・平和、協同・連帯、人権問題などに関して優れた作品を発表したジャーナリストを顕彰する活動を続けている平和・協同ジャーナリスト基金(代表委員=慶應大学名誉教授、白井厚、翻訳家・作家、池田香代子、ジャーナリスト、田畑光永の各氏ら)は11月25日、第16回平和・協同ジャーナリスト基金賞(2010年)を発表しました。入賞作品は8点ですが、基金賞(大賞)には、沖縄タイムス社・長崎新聞社・神奈川新聞社合同年間企画取材班の「安保改定50年~米 軍基地の現場から」が選ばれました。
 基金は、賞贈呈式を、受賞者・団体を招いて12月4日(土)午後1時から、東京都新宿区の日本青年館 301号室(JR中央・総武線千駄ヶ谷駅、地下鉄銀座線外苑前駅、都営地下鉄大江戸線国立競技場駅下車)で行います。どなたでも参加できますが、会費制(2500円)です。

 受賞者・受賞作品は次の通りです。
◆基金賞=大賞(1点)
 沖縄タイムス社・長崎新聞社・神奈川新聞社合同年間企画取材班の「安保改定50年~米 軍基地の現場から」

◆奨励賞(6点)
 ★朝日新聞長崎総局の「ナガサキノート 若手記者が聞く被爆者の物語」「祈り ナガサキノート2」(朝日新聞出版)
 ★記録映画「葦牙」制作委員会(岩手県)の「葦牙(あしかび)―こどもが拓く未来」
 ★下野新聞社足利事件取材班の「らせんの真実 冤罪・足利事件」
 ★著述業、野添憲治氏(秋田県)の「企業の戦争責任―中国人強制連行の現場から―」「遺骨は叫ぶ―朝鮮人強制労働の現場を歩く―」(社会評論社)
 ★フリーライター、室田元美さん(東京都)の「ルポ 悼みの列島」(社会評論社)
 ★与那嶺路代・琉球新報ワシントン特派員の「普天間問題を巡るワシントン発の一連の報道」
◆荒井なみ子賞(1点)
 フリーの映像ディレクター、太田直子さん(埼玉県)の「月あかりの下で」(製作著作・グループ現代)

 基金運営委員会の発表によると、基金賞選定にあたって推薦、応募等により運営委に寄せられた候補作品は55点(うち映像関係は16点)にのぼりました。選考には、鎌倉悦男(プロデューサー・ディレクター)、小林佐智子(映画プロデューサー)、高原孝生(明治学院大学教授)、坪井主税(札幌学院大学名誉教授)、森田邦彦(翻訳家)、山谷哲夫(ドキュメンタリー監督)の6氏があたり、8点を選びました。
 全体的にみて、推薦・応募作品のテーマが多様化してきたのが今年度の特徴でした。これまでは、核、被爆者、安保、憲法改定、人権問題といったテーマが中心でしたが、今年はこれに貧困、介護、小児医療、食品公害、いじめ、子どもへの虐待などをテーマとする著作が加わりました。webサイトの作品が加わったのも初めてでした。主として「平和」と「協同」にからむ著作を選考の対象としてきた当基金が、これらの作品も広く選考対象とすべきか選考委で議論が交わされました。

 ■大賞にあたる基金賞には、沖縄タイムス社・長崎新聞社・神奈川新聞社3社の合同企画「安保改定50年~米軍基地の現場から」が、まず、文句なく全員一致で選ばれました。1960年に日米安保条約が改定されてから今年で50年。こうした節目をとらえて、この1年、同条約をめぐる論議が交わされましたが、この3社の企画は抽象的な論議を展開するというよりは、改定から半世紀迎えた「安保の現場」、すなわち在日米軍基地をかかえる地域から「50年」を検証したものでした。その結果、日米安保が改定時よりも大きく、しかも危険な方向に変質したこと、それを支える現場が依然として深刻な基地被害に脅かされていることが明らかにされました。選考委では「米軍基地が集中している沖縄、長崎、神奈川の3県を舞台にした取材だっただけに、日米安保の実態がより総合的かつ鮮明に浮き彫りにされた」「安保50年を論じたものの中では出色のレポート」とされました。地方紙同士の連携による年間企画という行き方も新聞の新しい試みとして注目されました。

 ■活字部門では、5点が奨励賞に選ばれました。朝日新聞長崎総局は被爆者からの聞き書きを長崎県内版に08年8月10日から連日掲載しており、これをまとめたのが「ナガサキノート 若手記者が聞く被爆者の物語」と「祈り ナガサキノート2」の2冊です。選考委では「毎日掲載というのはすごい。その継続性に被爆問題への並々ならぬ熱意を感じる」「若い記者が自分の言葉で書いている点に好感がもてる」と絶賛されました。
 下野新聞社足利事件取材班の「らせんの真実 冤罪・足利事件」は、冤罪と決まった足利事件について、なぜこのような誤判が起きてしまったのかを解明し、再発防止策を提言したものです。とりわけ、地元紙としてどうして菅谷利和さんの訴えに気付かなかったかを徹底的に自己検証している点が評価されました。
 野添憲治氏の「企業の戦争責任―中国人強制連行の現場から―」「遺骨は叫ぶ―朝鮮人強制労働の現場を歩く―」は、中国人と朝鮮人に対し日本が戦時中に犯した強制連行と強制労働の実態を明らかにした労作です。野添氏は9年の歳月をかけて、強制連行の中国人が働かされていた135の事業所、やはり強制連行の朝鮮人が働かされていた37カ所の現場を訪れ、その実態をまとめました。選考委では「補償がなされないままこれらの事実が闇から闇に葬り去られようとしている今、野添氏の仕事は極めて貴重」「日本人に反省を迫る著書」とされました。
 室田元美さんの「ルポ 悼みの列島」も、自ら現場に足を運んでまとめたルポルタージュの労作で、北海道から九州まで23カ所の戦争がからむ遺跡を訪ね、現状を伝えています。選考委では「敗戦から65年。日本人の戦争体験が風化しつつある今、かつて日本人は何をしたのかを思い起こさせる貴重な報告」「一家に一冊あっていい」とされました。
 与那嶺路代さんは今年4月からワシントンに常駐する琉球新報のワシントン特派員ですが、普天間問題や日米関係についての報道がメディア関係者の関心を集めています。大手のマスメディアのワシントン特派員が書かない米国政府や米軍の動きを伝えているからです。「全国紙では得られない情報を発信してくれる」「米国内にも多様な意見があることを知らせてくれる」として、選考委は与那嶺さんの「ワシントン発の一連の報道」に奨励賞を贈ることを満場一致で決めました。
 
 ■映像部門では基金賞の該当作はありませんでしたが、記録映画「葦牙」制作委員会の「葦牙(あしかび)―こどもが拓く未来」が奨励賞に選ばれました。
 親による児童虐待が今や日本の大きな社会問題となっています。この作品は、そうした児童たちを保護し育む児童養護施設「みちのくみどり学園」(岩手県盛岡市)を取材したものです。児童、教師の日常生活と、その家庭をも記録して、その児童たちが希望の光を見いだして懸命に生きる姿を丹念に描いています。

 ■荒井なみ子賞は8年前に創設され、今回が5回目の授賞です。女性のジャーナリスト、あるいは女性がかかわる問題をテーマとした作品を対象としていますが、 今年は太田直子さん演出・撮影の「月あかりの下で」が選ばれました。 
 埼玉県内のある定時制高校に通う生徒たち。それは常識的な大人の生徒観からすれば、はみだし生徒・落ちこぼれ生徒ですが、彼ら彼女らも友情や愛を求めて精一杯生きている。彼ら彼女らを立ち直らせようとする教師たち。そうした生徒たち、教師たちの日常を6年の歳月をかけて追い、生徒たち、教師たちの内面を描き出した太田さんの演出力に絶賛の声が上がりました。

初出:「リベラル21」より許可を得て転載http://lib21.blog96.fc2.com/

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