反核・平和、協同・連帯、人権擁護等を推進するための報道に寄与したジャーナリストらを顕彰する活動を続けている平和・協同ジャーナリスト基金(PCJF。代表委員、歴史学者・色川大吉、慶應義塾大学名誉教授・白井厚の両氏ら)は11月29日 、2018年度の第24回平和・協同ジャーナリスト基金賞の受賞者・受賞作品を発表した。
基金賞の選考は、鎌倉悦男(プロデューサー・ディレクター)、佐藤博昭(日本大学芸術学部映画学科講師)、島田恵(ドキュメンタリー監督家)、高原孝生(明治学院大学教授)、鶴文乃(フリーライター)、前田哲男(軍事ジャーナリスト)、森田邦彦(翻訳家)の7氏を審査委員とする選考委員会によって行われ、候補作品92点(活字部門32点、映像部門90点)から次の8点を選んだ。
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◆基金賞=大賞(1点)
琉球新報編集局政治部の「沖縄県知事選に関する報道のファクトチェック報道」
◆奨励賞(5点)
★朝日新聞記者・青木美希さんの「地図から消される街」(講談社現代新書)
★アジア記者クラブの一連の活動
★「沖縄スパイ戦史」製作委員会製作のドキュメンタリー映画「沖縄スパイ戦史」(三上
智恵・大矢英代監督作品)
★毎日新聞記者・栗原俊雄氏の戦争責任・戦後補償に関する一連の著作
★中村由一著、渡辺考・聞き書き、宮尾和孝・絵「ゲンバクとよばれた少年」(講談社)
◆荒井なみ子賞(1点)
水野スウさん(石川県津幡町)の「わたしとあなたの・けんぽ うBOOK」「たいわ・けんぽ
うBOOK+」(いずれも自費出版)
◆特別賞・審査委員賞(1点)
疾走ブロダクション製作のドキュメンタリー映画「ニッポン国VS泉南石綿村」(原一男
監督作品)
選考委によると、今年度も改憲、安保、沖縄の基地、核兵器、ヒロシマ・ナガサキ、原発などをめぐる問題を追及した作品が基金賞候補にノミネートされたが、内容の点では例年に比べ全般的に低調だった。が、そうした面があったものの、今年もメデイアのあり方、福島の原発事故、戦後補償問題、公害問題などに迫った力作があったという。
基金賞=大賞に選ばれた琉球新報編集局政治部の『沖縄県知事選に関する報道のファクトチェック報道』は、新聞の選挙報道に新しい道を開いたものと評価された。
2013年の参院選で「ネット選挙」が解禁されて以来、ネット上にウソの情報を流し、ライバル候補を攻撃する現象がみられるようになった。とくに沖縄で行われる選挙戦はフェイクニュースの標的となることが多く、今年9月の沖縄県知事選では、多くのデマが飛び交った。これに対し、琉球新報政治部は、ネット情報の真偽を確認し発信するというファクトチェックに取り組んだ。
選考委では「日本の新聞の選挙報道としては本格的なファクトチェック報道であり、大いに評価したい」「これから先、メデイアではますますフェイクニュースが多くなると予想されるところから、今回の琉球新報政治部のファクトチェック報道への取り組みは大変意義深い試み」とされた。
奨励賞には活字部門から4点、映像部門から1点、計5点が選ばれた。
活字部門でまず選ばれた、朝日新聞記者・青木美希さんの『地図から消される街』は、東京電力福島第1原発の事故から7年後の被災地の現状を紹介したルポルタージュある。インフラ面では再建が進んでいるものの、政府の政策が被災地の歴史、生活、コミュニティを崩壊、分断させ、困難に陥らせている実態が、リアルに、かつ克明に描かれていて、選考委は「原発事故被災地に関する報道が減り、原発災害は忘れ去られつつある。そうしたメデイア状況の中では、貴重な現地報告である」と高く評価した。
次いで、アジア記者クラブの一連の活動に奨励賞が贈られた。同クラブは、記者クラブ制度の閉鎖性に異議を唱え、開かれた市民のためのジャーナリズムを創出しようという狙いで1992年に設立されたフリーランサーや市民の集まりで、これまで、定例会を開いたり、「アジア記者クラブ通信」といった会報を発行するなどの活動を続けてきた。選考委では、定例会の講師に一般のメデイアにはなかなか登場させてもらえない人を招いたり、「通信」に既存のマスメデイアが報道しない内外のニュースや、発展途上国に関するニュースを積極的に掲載している点が評価された。
毎日新聞記者・栗原俊雄氏の『戦争責任・戦後補償に関する一連の著作』も審査委員の関心を集めた。日本政府が始めた太平洋戦争ではおびただしい日本人が被害を受けたが、戦後、元軍人・軍属は手厚い補償を受けたものの、東京・大阪・名古屋大空襲などで被害を被った民間人への補償は今なお省みられない。シベリア抑留者への補償も十分でなかった。栗原氏はこれを「不平等な戦後補償」として、数十年にわたり、新聞紙面や著作で政府を追及してきた。選考委では「徹底的な現地取材を踏まえた長年にわたるねばり強い取り組みに敬服する」との賛辞が寄せられた。
中村由一著、渡辺考・聞き書き、宮尾和孝・絵の『ゲンバクとよばれた少年』は、長崎で被爆した中村氏の語りをNHKディレクターの渡辺氏が、子ども向けに書籍化したものである。中村氏は被差別部落に生まれたが、2歳の時に被爆、両足に大やけどを負う。兄、弟は死亡。家が焼失したので母とともに祖母の家に身を寄せるが、小学校では、教師、級友から「ハゲ」「ゲンバク」などと呼ばれ、いじめられ、差別される。本書はそうした体験を語ったもの。選考委では「被差別部落民ゆえの差別と被爆による差別。二重の差別に心が痛む」「被爆者の高齢化により、被爆体験をどうやって若い世代に伝えてゆくかが焦眉の課題となっている折から、子ども向けの本で被爆体験を取り上げたのは注目すべきタイムリーな試み」との感想が述べられた。
映像部門から奨励賞に選ばれた、「沖縄スパイ戦史」製作委員会製作の『沖縄スパイ戦史』(三上智恵・大矢英代監督作品)は、戦後70年以上にわたって覆い隠されてきた、日本の特務機関「陸軍中野学校」出身者たちが、軍の命令で沖縄戦でおこなった事実を明らかにしたドキュメンタリー映画。彼らは、少年たちを米軍向けのゲリラ部隊に編成したり、波照間島島民を西表島へ強制移住させ、移住島民の多くをマラリアで病死させた。映像関係の審査委員は「特定秘密保護法が制定されたり、南西諸島に自衛隊が増強されたり、ミサイルが配備されつつある今、この映画の持つ“今日性”は高く評価されていい」と評した。
荒井なみ子賞は、元生協運動家・荒井なみ子さん(故人)からの寄金で創設された特別賞で、主に女性ライターに贈られる。今年は3年ぶり、8回目の授賞。
今回は石川県津幡町在住の水野スウさんの『わたしとあなたの・けんぽうBOOK』『たいわ・けんぽうBOOK+』(いずれも自費出版)に贈られる。どちらも、日本国憲法を守り、生かすために書かれた手作りの冊子で、憲法を優しい言葉で解説している。そればかりでない。「紅茶の時間」と題する、憲法について話し合う場を自宅に設けているほか、頼まれればどこへでも出かけて行って自ら憲法について講演する「出前紅茶」を続ける。選考委では「安倍政権は改憲にしゃかりき。それに引き換え、国民の側の憲法論議はそう熱心ではない。だとしたら、今こそ、水野さんのような活動が効果的ではないか」とされた。
審査委員賞を贈るこになった、疾走ブロダクション製作のドキュメンタリー映画『ニッポン国VS泉南石綿村』(原一男監督作品)は、2部構成・約4時間の大作。
大阪泉南地域は明治末から百年もの間、石綿紡織工場が密集してきた地域で「石綿村」と呼ばれた。石綿の粉じんを吸引すると肺がんを発症するとされ、そうした健康被害を被った労働者とその家族が、国を相手に国家賠償請求訴訟を起こす。その8年間にわたる闘いの日々をカメラで追った。審査委員の1人は「訴訟活動が生き生きと描かれ、本年度、洋画を含めたドキュメンタリー映画のナンバーワンに推される作品である」と高く評価した。
そのほか、活字部門では、熊本新聞社の『熊本地震 あの時何が』が最終選考まで残った。
基金賞贈呈式は12月8日(土)午後1時から、東京・内幸町の日本プレスセンター9階、日本記者クラブ大会議室で開かれる。参加費3000円。
初出:「リベラル21」より許可を得て転載http://lib21.blog96.fc2.com/
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