大賞に西日本新聞と山梨日日新聞の2社 2022年度の平和・協同ジャーナリスト基金賞

 反核・平和、協同・連帯、人権擁護等を推進するための報道に寄与したジャーナリストらを顕彰する活動を続けている平和・協同ジャーナリスト基金(PCJF。代表委員=ジャーナリストの鎌田慧、田畑光永、明治大名誉教授の中川雄一郎の各氏ら)は12月1日 、2022年度の第28回平和・協同ジャーナリスト基金賞の受賞者・受賞作品を次のように発表した。

◆基金賞(大賞)=2点
 ★西日本新聞社社会部取材班の「『島とヤマトと』など、沖縄と本土の関係に焦点を当てた本土復帰50年報道」
 ★山梨日日新聞取材班の「Fujiと沖縄~本土復帰50年」 
◆奨励賞=7点
 ★NHK沖縄放送局・第2制作センター文化の「ETV特集・久米島の戦争~なぜ住民は殺されたのか~」
 ★中日新聞読者センター・加藤拓記者の「ニュースを問う『特攻のメカニズム』」
 ★Kimoon Film制作の「オレの記念日」(金聖雄監督)
 ★篠原光・信濃毎日新聞記者の「戦後77年 平和を紡ぐ旅 26歳記者がたどる」
 ★高橋信雄・元長崎新聞論説委員長の「鈴木天眼 反戦反骨の大アジア主義」<あけび書房>
 ★松澤常夫・日本労働者協同組合(ワーカーズコープ)連合会常勤相談役の長年にわたる「日本労協新聞」の編集
 ★フリーランス記者・元朝日新聞記者、宮崎園子さんの「『個』のひろしま 被爆者岡田恵美子の生涯」<西日本出版社>

 基金運営委員会によると、今年2月にロシアによるウクライナ侵攻が勃発したので、今年度は、ウクライナ戦争に関する作品が多く寄せられるのではと期待されていたが、審査では、そうした予想は外れ、その代わり、今年が沖縄の本土復帰50年に当たったため、「沖縄」をテーマとした作品が多数寄せられた。それも、大作、力作が目白押しで、審査委員もどれを入賞作に選んだらよいか迷ったほどだったという。他には、安保問題、核問題、憲法、戦争体験、難民問題などに関する作品が寄せられた。
基金賞贈呈式は12月10日(土)、東京・内幸町の日本記者クラブで行われる。新型コロナ・ウイルス感染の第8波が襲来しているので、贈呈式は密を避けるために一般公開はやめ、参列者は受賞者、基金役員、報道関係者のみとするという。

 基金賞=大賞に選ばれたのは、西日本新聞社社会部取材班の「『島とヤマトと』など、沖縄と本土の関係に焦点を当てた本土復帰50年報道」と、山梨日日新聞取材班の「Fujiと沖縄~本土復帰50年」。毎年、基金賞=大賞に選ぶのは1点だけだが、今年の選考委は「甲乙つけがたい」として2点を選んだ。両作品に共通していたのは、沖縄問題に対する取材の姿勢が、従来のメディアと異なっていたことだという。
 西日本新聞取材班は「議論を重ねてたどりついた答えは『沖縄について無関心だった』ということでした。沖縄問題は『沖縄だけの問題』ではなく、『本土を含めた全国民の問題』であるはず。私たちは当事者としての意識を持たずに沖縄を報じてきたのではと考えさせられた」と話し、山梨日日新聞取材班も「山梨県内にも沖縄県の基地問題へとつながる過去があり、まずは埋もれつつある地元の歴史に光を当てることが、基地問題を『自分事』として捉える一歩となると考えた」と言う。こうした両紙の取材姿勢が、選考委で高く評価された。こうした取材姿勢が、他の新聞やテレビに波及することが期待される。

 奨励賞には活字部門から5点、映像部門から2点、計7点が選ばれた。
 まず、活字部門では、中日新聞読者センター・加藤拓記者の「ニュースを問う『特攻のメカニズム』」が選ばれたが、戦時中の航空特別攻撃隊の実態を徹底的に取材してまとめた長期連載である。選考委では、連載を通じて、「個人の生死よりも国家を優先する戦時下の狂気と恐怖、さらにその非人間的な組織の論理が、大企業における品質不正問題や過労死など、現代の日本社会にも根深く流れている」と指摘している点が評価された。特攻隊の精神や論理が今なお日本社会に生きているというのだ。

 同じく奨励賞に選ばれた、篠原光・信濃毎日新聞記者の「戦後77年 平和を紡ぐ旅 26歳記者がたどる」も斬新な企画として、審査委員の注目を集めた。26歳という若い記者を、「戦争と平和」の問題が先鋭化している地域(沖縄の石垣島や辺野古など)に派遣して自由にルポを書かせるという企画で、その狙いを、同社報道部デスクは「ウクライナ危機で、いよいよ『戦後』と言えない時代になった今年ならではの反戦企画をやれないかと思った。もう一つの狙いは、若い記者に戦争とは何か、戦争をなくすにはどうすればいいのかを考えてもらうことだった」と話しているが、そうした狙いが見事に実った記事、と絶賛された。

 やはり奨励賞となった高橋信雄・元長崎新聞論説委員長の「鈴木天眼 反戦反骨の大アジア主義」は、明治から大正にかけて、長崎で「東洋日の出新聞」を発行し続けた鈴木天眼の生涯を描いた作品。本書によれば、天眼は中国の孫文と親交があり、日中が平等互恵の精神で結ばれるべきとする大アジア主義を唱える紙面を精力的に展開した。さらに、彼は軍国主義に反対し、日本の満州進出を非難し、韓国併合後の現地における日本人の傲慢を憤ったといわれる。選考委では「嫌中憎韓の書籍がはんらんする今日、天眼が唱えていた大アジア主義に耳を傾けることも必要なのでは」との発言があった。

 労働者協同組合法が今年10月から施行された。労働者自身が出資、経営参加し、働く事業体を協同組合として認めようという法律である。日本の歴史に初めて登場した新しい労働形態、新しい協同組合の形態で、日本社会にとって画期的な出来事だった。これには、日本労働者協同組合(ワーカーズコープ)連合会などによる40年余に及ぶ労協法制定運動があり、その中で大きな役割を果たしたのが、同連合会が発行する機関紙「日本労協新聞」だった。その編集長を30年にわたって務めたのが松澤常夫さんで、選考委は「労協法への関心を高め、理解を深める上で、松澤さんがおこなった紙面展開は大いに役に立った」として、奨励賞を贈ることになった。

 奨励賞を受けたフリーランス記者・元朝日新聞記者、宮崎園子さんの「『個』のひろしま 被爆者岡田恵美子の生涯」は昨年4月に亡くなった岡田さんの生き方を紹介したノンフィクションである。岡田さんは被爆者団体に属さず、1人の人間として、多様多彩な方法で核兵器廃絶を世界に訴え続けた。選考委では、「丹念な取材と執筆で、ひたむきに生きた被爆者の思いと活動が活写されている」とされた。岡田さんが、「被爆者も日本がかつての戦争で加害者だったことを語るべきだ」といった趣旨の発言をしていることが印象に残る。

 映像部門で奨励賞となった2点は、NHK沖縄放送局・第2制作センター文化「ETV特集・久米島の戦争~なぜ住民は殺されたのか~」と、Kimoon Film制作の「オレの記念日」(金聖雄監督作品)。
前者は、敗戦間際の沖縄・久米島で日本兵が住民20人を殺害した事件を取り上げたドキュメンタリーだが、選考委では「当時の戦況、集団心理、差別感情等を描くなど多角的な構成により、この番組を観た人びとに強烈なインパクトを与えた。戦争がいかに空しいものであるかを表現している優れた番組である」と評された。
後者は、20歳の時に冤罪で殺人犯にされて無期懲役の判決を受け、29年間刑務所暮らしをした後に仮放免され、再審で無罪判決を受けた男性の日常生活を追ったドキュメンタリー映画である。選考委は、「長い獄中生活に負けなかった強い意志力を持った人間像を巧みに表現した力作と言える。今日の日本の司法のあり方を考えさせる作品でもある」とした。

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