反核・平和、協同・連帯、人権擁護等を推進するための報道に寄与したジャーナリストらを顕彰する活動を続けている平和・協同ジャーナリスト基金(PCJF。代表委員、歴史学者・色川大吉、慶應義塾大学名誉教授・白井厚の両氏ら)は12月1日 、2017年度の第23回平和・協同ジャーナリスト基金賞の受賞者・受賞作品を発表した。
基金賞の選考は、鎌倉悦男(プロデューサー・ディレクター)、佐藤博昭(日本大学芸術学部映画学科講師)、高原孝生(明治学院大学教授)、鶴文乃(フリーライター)、前田哲男(軍事ジャーナリスト)、森田邦彦(翻訳家)の6氏を審査委員とする選考委員会によって行われ、候補作品74点(活字部門35点、映像部門39点)の中から次の8点を選んだ。
◆基金賞(大賞)1点
RKB毎日放送製作のドキュメンタリー映画「抗い 記録作家林えいだい」(西嶋真司監督)
◆奨励賞 6点
★沖縄タイムス社取材班の連載「銀髪の時代『老い』を生きる」
★シンガーソングライター、清水まなぶさんの「追いかけた77の記憶 信州全市町村戦争体験聞き取りの旅」(信濃毎日新聞社)
★西村奈緒美・朝日新聞記者の「南洋の雪」(朝日新聞高知版連載)
★株式会社パワー・アイ(大阪市)製作のドキュメンタリー映画「被ばく牛と生きる」(松原保監督)
★広島市立基町高等学校創造表現コース・美術部の「被爆者の体験を絵で再現する活動と10年間の作品集」
★望月衣塑子・東京新聞記者の「武器輸出及び大学における軍事研究に関する一連の報道」
◆審査委員賞 1点
書籍編集者・ジャーナリスト、梅田正己さんの「日本ナショナリズムの歴史」全4巻(高文研)
選考委員会によると、今年度の選考で目立ったのは、改憲、安保、核兵器、沖縄の基地、原発、「共謀罪」法などに関する問題が今年度も引き続き国民の注目を集めたにもかかわらず、これらの問題に肉迫した作品の応募や推薦が少なかった。そうした面があったものの、今年も、戦前の日本の対外政策、核による被害、ジャーナリズムのあり方に迫った力作が並んだという。
基金賞=大賞に選ばれたのは、RKB毎日放送製作のドキュメンタリー映画『抗い 記録作家林えいだい』だが、これは、今年の9月に亡くなった林えいだいさんの晩年の活動を追った作品。林さんは福岡県筑豊に腰を据え、朝鮮人強制連行、旧日本軍の特攻作戦などを取材し続けた。選考委員会では「その取材の原点は、反戦思想を貫いた父親の生き方にあった。だから、強制連行や戦争にこだわって取材し記録した。がんに侵されても続けた。弱者へのあたたかいまなざしを持ちながら不正な国家権力を弾劾し続けた林さんのすさまじい執念があますところなく描かれており、今年度の映画・テレビ番組の中で特筆すべき作品」とされた。
奨励賞には活字部門から5点、映像部門から1点、計6点が選ばれたが、まず、沖縄タイムス社取材班の『銀髪の時代「老い」を生きる』は、沖縄における高齢者の介護問題に取り組んだ連載である。連載によると、沖縄の高齢者の間で認知症、孤立、虐待などが深刻化しいるとのことで、「沖縄は住民同士の助け合いが盛んな長寿の島」と思ってきた審査委員を驚かせた。選考委では、連載が、その実情を詳細に伝えるばかりでなく、その背景にもきめ細かな深い取材で迫っている点を称賛する声が相次いだ。
やはり奨励賞に選ばれた『追いかけた77の記憶 信州全市町村戦争体験聞き取りの旅』は、長野市出身のシンガーソングライター・清水まなぶさんが、音楽・芸能活動のかたわら、戦後70年を機に、先の大戦をあらゆる角度から見つめてみたいと思い立ち、長野県の全市町村を訪ねて戦争体験者への聞き取りをおこない、それをまとめたものだ。選考委では「全市町村を訪ねて戦争体験を聞くというやり方が極めてユニークである」「戦争体験談は、戦争でいかにひどい目に遭ったかという被害者の立場からのものが多いが、ここには、731部隊にかかわった兵士や、入植にあたって中国人の農地を奪った満蒙開拓団員の話など、加害の立場からの証言も含まれていて、戦争体験記録としては出色」との賛辞が続いた。
やはり奨励賞の朝日新聞記者・西村奈緒美さんの『南洋の雪』は、1954年のビキニ被災事件にからむ新聞連載。太平洋における米国の水爆実験によって引き起こされたこの事件では、静岡県の第五福竜丸が被ばくしたが、同船以外にも当時、周辺海域に約1000隻の船がいて、乗組員が被ばくしたのでは、との指摘が年々強まっているところから、西村さんは高知県在住の当時の乗組員を訪ね、被災の模様と健康被害の実態をまとめた。乗組員は空から降ってきた実験による“死の灰”を「雪」と思ったとのことだ。「粘り強い丹念な取材に敬意を表したい」と授賞が決まった。
原発問題も引き続き重大な課題とあって、原発関係からもぜひと奨励賞に選ばれたのが、株式会社パワー・アイ製作の映画『被ばく牛と生きる』だ。東電福島第1原発事故の被災地で、政府の殺処分指示に従わず、被ばくした牛を育てている人たちを記録したもので、経済的価値がなくなった牛を飼う人たちは「愛情をこめて育てた牛を殺すなんてできない」「原発の安全神話を信じ過ぎた」と語る。選考委では「故郷も仕事も奪われた農家の人たちの故郷への熱い思いを伝え、生き物の命の尊厳を問うヒューマンな作品」とされた。
広島市立基町高等学校創造表現コース・美術部の『被爆者の体験を絵で再現する活動と10年間の作品集』も審査委員の絶賛を浴びた。この活動は、原爆被害を後世に伝えていくために広島平和記念資料館が始めた事業で、これに参加した生徒たちは被爆者から体験を聴きながら約1年かけて「原爆の絵」を描き上げ、資料館に寄贈する。同校ではこれとは別の「原爆の絵」制作活動にも取り組んでおり、10年間の作品をまとめたのが『平成19~28年度 原爆の絵』である。選考委では「被爆者の高齢化が進み、やがて被爆体験を語る人もいなくなる。それだけに、若い世代が被爆の実相を絵で伝えてゆくという活動は実に貴重だ」との発言があった。
東京新聞記者の望月衣塑子さんへの奨励賞授賞理由は『武器輸出及び大学における軍事研究に関する一連の報道』である。その根拠として、選考委では望月さんの著作「武器輸出と日本企業」(角川新書)と「日本のアカデミズムと軍事研究」(雑誌「世界」17年6月号)などが挙がった。とりわけ、「武器輸出と日本企業」に対しては、「武器輸出三原則が事実上撤廃されてゆく過程や、日本企業が武器の生産・輸出に傾斜してゆく経緯がとてもリアルに描写されており、それは現状への警告となっている」との評価だった。
梅田正己さんの「日本ナショナリズムの歴史」全4巻には特別賞として審査委員賞を贈ることが全員一致で決まった。
執筆に5年かけた大作で、審査委員の1人は「日本のナショナリズムについて本格的に書かれた本としては初めてのものではないか」と述べ、さらに「本書は、日本のナショナリズムの中軸にあるのは天皇制であること、しかも、そうした性格をもつ日本ナショナリズムが明治以降の日本を形成する上で決定的な役割を果たしたばかりでなく、そうした流れが戦後、そして今日の安倍政権下でも続いていることを明らかにしている」と高く評価した。
◇
基金賞贈呈式は12月9日(土)午後1時から、東京・内幸町の日本プレスセンター9階、日本記者クラブ大会議室で開かれる。参加費は3000円。
初出:「リベラル21」より許可を得て転載http://lib21.blog96.fc2.com/
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
〔opinion7157:171202〕