私はこの問題は、我々世代だけでなく将来世代に至るまでの「命の安全」にかかわる問題だと思っています。この度の仙台地裁の判決には納得できません。
1. 仙台地裁の裁判官は、「原発事故の不安」を抱える市民の立場に立っていないように思います。裁判官は、自分が女川町の住民だったとしたら避難計画不備を理由にした原発再稼動中止の訴えを却下できただろうか。原告は、万一放射能事故が発生した場合、現在提出されている避難計画は機能するのか、と心配しています。道路が混雑してスムースに逃げられないのではないか、年寄り、病人はどう逃げるのか、現在の避難計画は、絵に描いた餅のようなものではないか。住民は長時間放射能を浴びて命が危険に晒されるのではないか。現在の避難計画では命が危険に晒される。原発再稼動は中止すべきだ、と訴えています。常識的に考えて原告の訴えは正当性があると思います。裁判官も人の子です。市民の苦しい立場を理解した倫理的思考が必要と思います。
2. 「原子力基本法」第2条で原子力の利用開発にあたっては、「安全を旨とする」と明示しています。そして安全確保のための機関として、「原子力規制委委員会」と「原子力防災会議」を設けています。事故を起こさないように対策を考える対策部門(規制委員会の役割)と、起こった場合の対策の指令系統確立部門(防災会議の役割)を定めています。即ち、事故は起こりうると想定しているのです。
3. 原子力規制委員会は、「原子力災害対策特別措置法」に基づき、「原子力災害対策指針」を作っています。その中で、原子力災害事前対策について、原子力災害予防対策を講じているにもかかわらず原子力災害が発生した場合は、原子力事業者、国、地方公共団体等が、住民の健康、生活基盤、及び環境への影響を事態の段階に応じた最適な方法で緩和し、影響を受けた地域が可能な限り早く通常の社会的、経済的な活動に復帰できるよう、様々な行動を取らなければならない、と定めています。
4.「原子力災害対策指針」では、「緊急事態への対処として準備段階、初期対応段階、中期対応段階、復旧段階に区分し、準備段階では、原子力事業者、地方公共団体等が行動を計画し、維持し、改善するよう検討等を行なう必要がある。具体的には災害対策重点区域内においては、住民等への対策の周知、連絡手段の確保、緊急時モニタリング、の体制整備、原子力防災に特有な資機材等の整備、屋内退避・避難の方法や、医療機関の場所等の周知、避難経路及び場所の明示等が必要である」、と定めています。
このように「指針」では、住民等の安全を確保する為に、原発の施設、システム運用面で定められた安全基準遵守を事業者に求めると共に、万一に備えて事故発生前に県、市町村に避難計画作成義務を負荷しているのです。
5. 政府の福島原発事故調査・検証委員会(畑村洋太郎委員長)は、次のように述べています。「危険の存在を認め、危険に正対して議論できる文化を創る。危険を完全に排除すべきと考えることは、可能性の低い危険の存在をないことにする「安全神話」に繋がる危険がある」と指摘しています。今回の判決では、裁判官は原発のリスクの存在を否定していないので、善意に解釈すれば裁判官は女川原発における具体的リスクの存在についての論議をすべきだあったと裏から主張しているようにも見えます。
6. この度の女川原発訴訟では、女川原発再稼動リスクについての具体的議論(リスク存在の立証)がなかったことを理由に避難計画の実効性の判断を避けて訴訟を却下しています。法律理論上は一貫性を保持しているに見えますが、他方で「原子力災害対策指針」では、原発稼動にあたっては、安全確保の為、事故発生前に住民に信頼される、実効性のある避難計画を作成することを求めている。この点を裁判官はどのように考えたのか。実効性のある避難計画が存在しない、従って原発再稼動は中止すべきである、との原告の主張には一貫した論理がはたらいていると考えられます。
7. 私は、「原子力の開発利用」については、「福島原発、国会事故調査委員会」が報告したような、行政と事業者との癒着(規制機関が事業者の虜になる)を避ける為に、原子力委員会発足当時のように、原子力委員会に企画立案を委ね、内閣総理大臣はそれを尊重することを基本にすべきである、との法改正が必要と考えます。又、「原発事業」の事業主体を利益追求の株式会社とするのではなく、原発事業を「社会的共通資本」(国民の共有財)として捉え、公の事業とすべきではないかと考えます。そうした枠組みの中で、日本を代表する専門家の意見と世論に基づき、福島原発事故後にその反省を踏まえ、国民の立場に立って定められた、「脱原発路線」を進めることが求められていると考えます。
既に皆さんがご存知のとおり、福島原発事故はまだ続いています。原子炉内には未処理の核燃料物質が放射能を出し続けています。その原子炉を支えているコンクリートの土台が痛んできています。原子炉の崩壊リスクもあります。原子炉内に溶解したまま残っている核燃料物質を冷やす為、毎日大量の汚染水が発生し続けています。この汚染水は薄めて遠くの海に流す予定となっています。私達は、こした現状を踏まえて、長期的視野に立って自然エネルギーの開発問題や原発運転期間延長、再稼働、新設問題を考える必要があると思います。
以上、私の感想を書いてきましたが、この感想に事実誤認,或いは納得できない部分がありましたら教えてください。
2023年6月8日