子安宣邦大阪大学名誉教授の御論考「丸山の『超国家主義』論は何を見逃したか」を興味深く拝読いたしました。 政治学上の論議は、丸山政治学を齧ったのみの私には、判定は不可能ですが、御論考最終末の教授の慚愧の御心情は、お考え過ぎではないのでしょうか。
教授は、「なぜ我々は世界に例を見ない戦前ファシズムの再生復活を許してしまったのか。私は慙愧の思いで戦後過程を振り返っている。われわれは日本ファシズムを見逃してきたのではないか。」と悔やまれますが、敗戦前後には、既に、連合軍を形成していた諸国は、冷戦初期にあった経過より、ナチス・ドイツ降伏後にソ連参戦を見た米国が、日本の降伏を早める必要性を認めて天皇の戦争責任を免罪する譲歩をしたのが一つあり、更に、二つ目には、朝鮮半島における東西対立より戦火を交える事態を迎えて、日本を西側に留め置き、戦争協力をさせる必要が生じたことが挙げられるでしょう。
より、明確に云えば、日本を米国の属国とする必要性から、日本の統治を任せるべき人材は、それまでに、明らかな統治の能力を見せた戦前日本の支配層に任せた、と云うのが真相でしょう。 歯に衣着せず言えば、ソ連を筆頭とした東側に敵対すれば、ファシストであろうと、無かろうと、どうでも良いことであったのでしょう。
それが証拠に、レッド・パージを始めとして、「解放軍」と規定した方々に報うには、酷な措置が連続しました。
例え、当時に於いて、ファシスト追放の国民運動が盛んになったところで、それは、反体制運動として米国に弾圧されたことでしょうし、事実、時の政権に反旗を翻せば、そうなったではありませんか。
そう考えれば、この国に於いては、敗戦にも拘わらず、統治に関わっては、ファシストがイニシアティブをとっている、と言えるのではないのでしょうか。
「統治」と云うのは、正確ではありません。 「統治」の「委託」と呼ぶべきかも知れません。 米国の傀儡が統治している植民地と観た方が事実に適合しているのではないのでしょうか。
さて、このように概観しますと、いくら日本会議が全盛となり、安倍支持層が如何に過激化しようとも、超えられない一線が存在する訳です。 それは、米国の利益に反することは許されない,と云う単純極まるものです。
新安保体制が、米国よりの要請に基づくもの、と云うのは、諸般の事情より窺える事実ですし、最近の例で言えば、慰安婦問題での韓国との交渉と合意がそれです。 同盟国同士での紛糾は、許さず、米国議会報告にあるとおりに両国が合意しなければ米国の国益に反する事態となる、と云うのが理由で、両国合意が促されたのは自明のことです。 安倍首相等の言われることが通用はしないのは当然です。 右を向く強がりが許されるのは、国内で、米国にとってはどうでも良いことに限られるのです。
そして、アンクル・サム(Uncle Sam)は、何時も、観て、聴いて、監視しているのです。 規約に反すれば、直ちに統制処分されるのは、言うまでもありません。
Target Tokyo WikiLeaks
https://wikileaks.org/nsa-japan/
安倍首相以下、私たち一般の国民までも、注意すべきなのは、日本は、米国(のみではありませんが)にとっては、旧敵国である、と云う事実です。 如何に、現在の世界情勢からは日本の旧支配層を利用して、この国を任して来た、と言え、米国の国民感情よりすれば、戦時中にされた非道な行為の記憶が消えることはない、と思われます。
下に挙げる映画は、未だに日本国内では一般公開はされていませんが、旧日本兵の非道振りを描いています(それが主目的の映画ではありませんが)。 これ等を見て思うのは、安倍政権に代表される過去への復帰路線が許されるのも限界がある、と云う事実です。日本国民が忘れた非道も、彼等は忘れてはいないからです。
The Great Raid (2005) Official Trailer #1 – Benjamin Bratt
https://www.youtube.com/watch?v=o-aL3fWHcOo
(米軍史上名高い、比島での捕虜救出作戦実話。)
Unbroken Official Trailer #1 (2014) – Angelina Jolie Directed Movie HD
https://www.youtube.com/watch?v=XrjJbl7kRrI
(オリンピック選手であった者が、日本軍捕虜となり虐待されるが耐え抜く不撓不屈の実話)
ただ、それでは、今の政治状況を制御するのは、米国のみ、となる訳ですが、これには、忸怩たる思いをせざるを得ません。 憲法に依り信託された国民の戦いは如何になるのでしょうか。
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
〔opinion5886:160204〕