2015年に安倍政権が安保法制を強行採決で可決させた当時、学生をはじめ多くの市民が反対のデモに参加したり、憲法学者を始め多くの人が憲法違反だとして反対を繰り広げたことは記憶に新しいことです。今、自民党総裁選の話題の中で、憲法改正ということが大きなテーマになっていますが、すでに3年前の安保法制の可決によって、憲法の平和主義と同時に、表現や思想の自由が少なからず失われることになりました。もちろん国民の知る権利も同様です。その法律が以下です。ここで「存立危機事態」の場合は放送局も政府の統制下に入り、放送内容が検閲を受ける可能性が十分にあることが示されています。
「武力攻撃事態等及び存立危機事態における我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全の確保に関する法律」
(施行日:平成二十八年三月二十九日)
この法律に多くの市民が反対した1つの理由が日本の領土が直接武力攻撃を受けていなくても、他の国が攻撃を受けた結果、我が国が「存立危機事態」なる状況に陥ったと政府が判断した場合に、国家総動員体制に移行できることです。地方自治体も協力を要請されますが、「指定公共機関」に政令で定められたNHKその他の放送局などのマスメディアも協力を求められます。以下は「武力攻撃事態等及び存立危機事態における我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全の確保に関する法律」の中でそれについて触れている第一章第三条です。
■第一章の第三条
武力攻撃事態等及び存立危機事態への対処に関する基本理念
第三条の1
武力攻撃事態等及び存立危機事態への対処においては、国、地方公共団体及び指定公共機関が、国民の協力を得つつ、相互に連携協力し、万全の措置が講じられなければならない。
第三条の5
武力攻撃事態等及び存立危機事態への対処においては、日本国憲法の保障する国民の自由と権利が尊重されなければならず、これに制限が加えられる場合にあっても、その制限は当該武力攻撃事態等及び存立危機事態に対処するため必要最小限のものに限られ、かつ、公正かつ適正な手続の下に行われなければならない。この場合において、日本国憲法第十四条、第十八条、第十九条、第二十一条その他の基本的人権に関する規定は、最大限に尊重されなければならない。
指定公共機関は政令で定められますが、NHKなどのマスメディアがその1つであることは「武力攻撃事態等及び存立危機事態における我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全の確保に関する法律施行令」に書き記されています。以下の下りです。
「指定公共機関
独立行政法人(独立行政法人通則法(平成十一年法律第百三号)第二条第一項に規定する独立行政法人をいう。)、日本銀行、日本赤十字社、日本放送協会その他の公共的機関及び電気、ガス、輸送、通信その他の公益的事業を営む法人で、政令で定めるものをいう。」
(武力攻撃事態等及び存立危機事態における我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全の確保に関する法律施行令)
もし南沙諸島沖でベトナムやフィリピンの海軍と中国海軍が衝突を起こして戦闘事態に入った場合は、「存立危機事態」の判断は首相にゆだねられることになります。そして、その解除がいつになるか国民は知ることができません。小規模戦闘が起きて、のちに事態が静まったとしても、「存立危機事態」が解除されるとは限らないのです。その場合は地方自治体もメディアも政府の統制下に入ったままになります。タイで軍事クーデターが起きた場合、銃剣をつけた軍人が放送局に入り、放送ブースの後ろ立って監視していましたが、銃剣があろうとなかろうと、同様の事態に現行憲法でも入ることができることになっています。
この場合に「報道の自由」が損なわれることは言うまでもありません。政府は隠したい事実は報道させないでしょうし、もし報道した放送局は電波停止などの措置を受けるかもしれません。国民には知る権利があると言っても、すでに「武力攻撃事態等及び存立危機事態における我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全の確保に関する法律」には一定の権利の制限が起きうることも記されています。日本国憲法が保障する自由と権利の制限に関して記された条文には「武力攻撃事態等及び存立危機事態に対処するため必要最小限のものに限られ、かつ、公正かつ適正な手続の下」とありますが、それを具体的に誰が判断するか、と言えば行政府であり、あるいは裁判所ということになるでしょう。つまり、ひとたび存立危機事態に入ると、半永久的に報道の自由がなくなってしまう最悪の可能性もあります。それが最悪になるか、ならないかは政府の判断という風に国民の手から離れてしまっていることが憂慮されることです。朝鮮戦争の場合は現在、休戦中ですが、1950年以来、すでに68年間も戦争が続いています。
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
〔eye4452:180918〕