グローバリゼーション時代の今、「ヒト・モノ・カネ」は、国境を越えて世界を自由に飛び回っている。情報も当然そうである。人はそう考えている。しかし事実は違う。国境は、そんなに低くはないのだ。
《簇生する「日本会議」論考から一つ》
「日本会議」報道に関しての一つの事例でそれを示そうと思う。
この数ヶ月、日本会議に関する書物の出版は雨後の筍のようである。
それらの書物を読み始めた。そこで驚いたのは「日本会議」のイデオロギーの極端な戦前回帰主義である。想定していなかったわけではない。しかし、戦後半世紀経って遊就館を見たとき以来の驚きである。
大東亜戦争の国定(こくてい)イデオロギーを文章化した『国体の本義』や『臣民の道』が、彼らの依拠するテキストである。会員の多くは「日本神話」を歴史的事実として確信しているらしい。私は以前に、三原じゅん子参院議員の「八紘一宇」論に、批判的な文章を書いた。それでも彼女の発言は、ネット右翼に支持された、少数派だと思っていた。
しかし、2016年7月10日
参議院選挙番組で、三原はジャーナリスト池上彰の質問に答えて、神武天皇の実在を信じてもよいのではないかと答えている。三原は確信犯であり、しかも少数派ではないのだ。
2016年6月10日現在、安倍内閣の閣僚数は20名であるが、その中に「日本会議国会議員懇談会」会員が10名、「神道政治連盟国会議員懇談会」の会員が17名いる。「日本会議内閣」である。
「日本会議」会員の総数は、約38000人で、「日本会議国会議員懇談会」には、全ての国会議員の42%にあたる、約300人が党派を超えて、参加している(数字は山崎雅弘著『日本会議―戦前回帰への情念』、集英社新書、2016年7月刊、による)。
《天皇は短波放送を聴いているだろうか》
山崎書によれば、安倍政権と日本会議の関係を大きく報道をしたのは、『東京新聞』(2914年7月14日)が、初めである。その後、『朝日新聞』、『神奈川新聞』などの日刊紙、一部の週刊誌が続いたが、「日本の大手メディアは事実上、安倍政権と日本会議との密接な関係についてほとんど報じてこなかったのです」と山崎はいう。
対照的に、海外の主要メディアは2012年12月の第二次安倍内閣誕生以来、国家主義的・軍国主義的な政権として批判的な報道を続けている。
山崎は次のように書いている。(■から■、同書58頁)
■第二次大戦中、昭和天皇は実際の戦況を知るために、外国の短波放送に耳を傾けていたといわれています。日本の新聞とラジオは軍の統制下にあり、軍人は天皇に対してすら、自分の所属組織(陸軍・海軍)に都合のいい情報しか伝えなかったからです。(略)現代に生きる日本人も、ある種の分野においてはすでに、正確な情報を得るためには「日本国内のメディア」よりも「外国のメディア」に頼らなくてはならない時代に入りつつあるのかも知りません。■
海外メディアは私も断続的には見てきた。しかし管見の限り、今まで安倍政治を「ファシズム」と書いたものはない。
《Japan Reverts to Fascism》
ところが最近、ついに”「ファシズムに回帰する日本」Japan Reverts to Fascism”という文章が現れた。National Review という、1955年創刊の米国保守系雑誌の(2016年7月16日電子版)の論考である。要約すると次の通りである。
・参院選で改憲派が三分の二の議席を制した。
・自民党は、「押しつけられた憲法」は改訂すべきと改憲を重要課題の一つとしてきた。 現行憲法は西欧的な人権思想に拠っているのを改訂せよというのである。
・信じ難いこの「原理転換」は、安倍内閣閣僚の多くが「日本会議の国会議員メンバー」 であることから説明できる。
・日本会議は、「自虐史観」を排し、「大東亜戦争」の正当性、東京裁判の不当性を強調し、南京虐殺や慰安婦の存在を否定している。
・自民党の改憲草案は、天皇の元首化、国防軍への昇格、戦争放棄の廃止、表現の自由の 制限をうたっている。現に表現の自由は安倍による言論統制人事により進行中だ。この 5年で、日本の報道の自由度世界ランキングは、11位から72位まで転落した。
・日本人は、自分の手足を縛る政策が実現可能となるという不条理な選択をしたのである。
自由世界第二位の経済大国であり、アジアにおける最重要の同盟国が、「ファシズム」 に回帰するのを、米国は黙視すべきでないだろう。
こんな具合である。我々は既に言論統制下にある。それは、統制と自粛の合作である。我々が、見たり、聞いたり、決めたりしていることは、国内政治というカベの中で行われているのである。
《不愉快ではあるが・・》
戦争に明け暮れる「覇権国」から、しかも奇矯な人物が大統領候補となる「同盟国」から、説教されるのは不愉快である。いくらなんでも日本が、中国や北朝鮮のような不自由国家とは思わない。しかし、安倍政権の支持率がなぜ高いのかを問い続ける人間としては、さまざま見方と言説に目を通していきたいのである。(2016/07/22)
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