観閲式に臨み、自衛隊最高指揮官内閣総理大臣安倍晋三から敬愛する自衛隊員諸君に対する訓示の機会を借りて、重大かつ慶賀な発表を申しあげる。
冒頭、この夏に相次いだ自然災害によりお亡くなりになられた方々の御冥福をお祈りするとともに、被災された全ての皆様に、心よりお見舞いを申し上げます。
その被災現場には、必ず、士気旺盛な自衛隊員諸君の姿がありました。民家が土砂に押し潰されている。土砂崩れの一報に、君たち隊員は、倒木を乗り越え、ぬかるみに足をとられながらも、休むことなく歩き続けました。体力の限界が近づく中、立ち尽くす御家族を前に、最後の気力を振り絞り、全員を救出した。
「さすが自衛隊」。被災者の方々にそう言っていただける能力、そして、何よりも、その志の高さを改めて証明してくれました。自衛隊の災害派遣実績は、これまで実に4万回を超えています。
自然災害だけではありません。悪天候で交通手段が断たれてしまう離島において、患者の命を救うには、一刻の猶予もない。こうした中での緊急輸送は、正に、君たち自衛隊員が国民の命綱です。
11年前。一人の女性の容態が急変し、危険な状態に陥っているとの一報が、那覇駐屯地に入電しました。建村善知一等陸佐率いる4人のクルーは、躊躇なくヘリに飛び乗り、鹿児島県徳之島に向けて、漆黒の闇が広がる空へと飛び立っていきました。
現地は、一面の濃霧が広がり、着地目標のグラウンドは、視界不良。垂れ込めた雲が進入を阻みました。
容態は一刻を争う状況の下で、建村一等陸佐は、これまでの4,800時間を超える飛行経験と自衛官人生の全てを傾け、着陸に挑み続けました。地上の管制官に、近くの徳之島空港への着陸調整を依頼するなど、最後まで決して諦めませんでした。これに応え、地上にいる隊員たちも、最善を尽くしました。
「ありがとう」
管制官への感謝の言葉が最後となりました。4人が再び基地に戻ることはなかった。建村一等陸佐は、かつて、部下の隊員たちに、こう語っていたそうであります。
「自分たちがやらなければ、誰がやる。」
全国25万人の隊員一人一人の、高い使命感、強い責任感によって、日本は、日本国民は、守られている。
事に臨んでは危険を顧みず、身をもって責務の完遂に努め、もって国民の負託に応える。諸君の崇高なる覚悟に、改めて、心から敬意を表します。
私は、自衛隊の最高指揮官として、諸君と共に、あらゆる災害から国民の命と安全を守り抜き、次の世代に引き継いでいく。そのために全力を尽くす覚悟です。
今や、国民の9割は敬意をもって自衛隊員に接するようになっています。自衛隊発足以来の60有余年、自衛隊は、憲法違反の存在であるとか、あるいは軍国主義復活の危険を宿しているなどと、国民からは厳しい目で見つめられてまいりました。
自衛隊員諸君はさぞかし肩身の狭い思いをしてこられたものと思います。しかし、そんな国民の疑心を次第に払拭してきたのが、災害派遣の実績です。
かつては、自衛隊法における隊の本務は、外国の侵略に対しわが国を防衛する防衛出動と、公共の秩序維持にあたる治安出動のみとされていました。それだけでは旧軍隊と大した変わりはありません。国民から胡散臭い存在とみられるのも故なきこととは言えなかったのです。いま、数次にわたる自衛隊法の改正を経て、災害・地震防災派遣、原子力災害派遣などが本務として追加されています。
防衛出動とは自衛のためとはいえ、戦争において戦闘を命じることです。戦争とは所詮大量殺人と大量破壊行為以外の何ものでもありません。治安出動とは、市民運動や労働運動を武力をもって制圧することにほかなりません。心苦しくも、これまで自衛隊員諸君には、日ごろ、この大量殺人・大量破壊、国民制圧の訓練に精進していただいてまいりました。君たち隊員諸氏も、たいへん不本意であったことと推察いたします。
しかし、君たちは歯を食いしばり、ひたすらに殺人と破壊・市民弾圧の訓練に明け暮れ、その技倆を磨いてきました。本当に御苦労さまでした。そう、ねぎらわずにはおれません。
そこで、新たな提案を申しあげたい。今般、自衛隊法を改正して、自衛隊の任務から防衛出動と治安出動を除外することとしたい。自衛隊の本務は、災害・地震防災派遣、原子力災害派遣のみとなる。
この際、その本務にふさわしく、自衛隊は災害救助隊に、防衛省は災害救助省に名称を変更して、隊員には存分にその誇りを胸に、果たすべき役割を全うできるようにしたい。
御家族の皆様。
大切な伴侶やお子様、お父さん、お母さんを、隊員として送り出してくださっていることに、最高指揮官として、心から感謝申し上げます。送り出していただいた隊員について、これまでは、戦地で人を殺したり殺されたりするのではないかというご心配をおかけしておりましたが、これからは、一切そのようなご心配は無用に願います。
そして、隊員諸君。
諸君には、もう、殺戮や破壊のための訓練は不要です。ひたすらに、災害救助の訓練に邁進していただきたい。それこそが、全ての自衛隊員が強い誇りを持って任務を全うできる環境を整えるということであって、今を生きる政治家の責任であります。私はその責任をしっかり果たしていく決意です。
これまで君たちは、災害があれば被災地で被災した人々の救助のために働き、救助が終わると駐屯地に戻って、大量殺戮と大量破壊そして、デモ隊鎮圧などの訓練に邁進したきたが、こんな二重性格を強いられることはもうありません。
もちろん、隊の所有機材も災害救助隊にふさわしいものにしていく。まずは、迷彩服は止めて、災害救助に最も適切な目立つものにする。被災者や共同して働く誰からも鮮やかによく目立つ斬新な制服のデザインを募集することとしたい。
こうすることによって、もうけっして、君たちを「違憲の存在」と陰口をたたいたり、軍国主義復活のおそれあると疑ったりする者はなくなるだろう。
自らの職責の重要性に思いを致し、気骨を持って、国民生活の安全のために、ますます精励されることを切に望み、私の訓示といたします。
(近い将来のいつか、このような内閣総理大臣訓示を聞きたいものと思う)
(2018年10月16日)
初出:「澤藤統一郎の憲法日記」2018.10.16より許可を得て転載
http://article9.jp/wordpress/?p=11299
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 https://chikyuza.net/
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