安倍晋三による国政私物化の本命は「桜を見る会」であって、「前夜祭」ではない。

(2020年11月25日)
安倍晋三とは、右翼陣営の期待を担って改憲に執念を燃やしながら挫折した政治家である。また、長い任期の中で何のレガシーも残すことのできなかった愚昧な首相としても記憶されることになる。のみならず、近い将来の歴史教科書には、「国政を私物化した未熟な日本のリーダー」として名を残すことにもなろう。

「国政を私物化した」典型事例のひとつが「桜を見る会」である。昨日(11月24日)以来話題急浮上の「桜を見る会前夜祭」ではなく、白昼堂々と新宿御苑で行われた、政府主催の「桜を見る会」。本来、招待される資格のない、安倍晋三の地元である山口4区の有権者を呼んで、飲み食いさせたのだ。公私混同、これに過ぐるものはない。

野党議員から問題視され、招待者の名簿の提出を求められるや、その1時間後に名簿の全部をシュレッダーにかけて廃棄し、「不存在で提出できない」と開き直った。この汚いやり口が強く印象に残る。これが、私たちの国のトップが実際にやったことなのだ。こんな人物を、私たちの国の国民は、7年余も首相の座に就け続けていたのだ。なんと情けない民主主義ではないか。

「桜を見る会」とは何であるか、去る5月21日、弁護士662名が提出した安倍晋三らに対する告発状から引用する。

 「桜を見る会」とは、戦前の「観桜会」を前身とし、1952年、吉田茂が内閣総理大臣主催の会として始めた会とされており、「皇族、元皇族、各国大使等、衆参両議院議長及び副議長、最高裁判所長官、国務大臣、副大臣及び大臣政務官、国会議員(中略)、その他各界の代表者等」、「各界において功労・功績のあった者」が招待範囲とされ、毎年4月、新宿御苑を会場として行われてきた。
 ところが、被告発人安倍が2012年12月第二次安倍内閣を組閣して「桜を見る会」が安倍首相主催になった途端、それまでは1万人前後であった出席者数が2013年には約1万5000人に跳ね上がり、2018年には1万7500人に、2019年には1万8200人にまで膨れ上がった。予算額が1766万6000円であるのに対し、支出額は、2018年は5229万円、2019年は5518万7000円と、異常な予算超過ぶりを示している。このように出席者数も支出額も激増させながら、被告発人安倍主催の「桜を見る会」は7年連続で行われてきたのである。
 しかも最も問題になったのは、「桜を見る会」の出席者の中に、被告発人安倍の後援会員が800名から850名も含まれていたことである。これは、毎年、「安倍事務所」が、都内観光や「前夜祭」という「安倍晋三後援会」の行事とセットにして、国の行事である「桜を見る会」への参加を後援会員に無差別に呼びかけ、応募してきた後援会員やその家族、知人らがほぼ全員「桜を見る会」に招待されるというシステムによるものである。何ら「各界の代表者」でも「功労・功績のあった者」でもない後援会員らが、国費によって皇族や「各界の代表者」らと共に、無償で酒食の提供を受け、被告発人安倍や有名芸能人らと共に写真撮影の機会も与えられるなどの特権的な扱いを受けてきたのであり、公的行事や国家予算の私物化であるとの国民の厳しい批判を受けたのは当然であった。
 そればかりか、被告発人安倍は、「桜を見る会」の招待者名簿はシュレッダーにかけて廃棄した、データも残っていないなどと強弁して一切の検証作業を拒む姿勢を取り続けており、国民の憤りは沸騰している。

レコードにA面とB面とがあるように、また、プランAがだめなときに予備的なプランBの出番がまわってくるように、国政私物化のメインの問題は飽くまで、「桜を見る会」であって、「前夜祭」はサブの問題なのだ。この点を、告発状は、こう述べている。

 私たち法律家は、被告発人安倍の「桜を見る会」私物化についても強い批判を持ち、その違法性の追及を検討している。すでに本年1月、「桜を見る会」6年分の予算超過額が財産的損害であるとする背任罪による告発がなされているが、背任罪以外にも公職選挙法違反等が疑われるところ、上述した招待者名簿の破棄・隠蔽などにより、現時点では分析、検討のための確たる資料を入手するに至っていない。

今、B面としての「前夜祭」問題で安倍晋三の嘘が明らかになりつつある。この機会に、A面としての「桜を見る会」問題についても、きちんと安倍晋三の嘘を究明しなければならない。そのことが明確となって相応の責任を取ったとき、安倍晋三は、日本の民主主義のために、なにがしかの貢献をすることになるだろう。

2020年5月21日、662名の弁護士と法学者が提出した告発状は、かなり長文のものとなっている。その冒頭部分を、以下のとおり転載する。なお、その後、同趣旨の告発状の提出は進み、近々1000名に達すると報告されている。

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告  発  状

2020年5月21日

東京地方検察庁 御中

被告発人
住所 山口県下関市…(略)
(東京都千代田区永田町2丁目3番1号 首相官邸)
氏名 安倍晋三
職業 衆議院議員・内閣総理大臣
生年月日 1954(昭和29)年11月12日

被告発人
住所 山口県下関市東大和町1丁目8番16号 安倍晋三後援会事務所
氏名 配川博之
職業 安倍晋三後援会代表者

被告発人
住所 山口県下関市東大和町1丁目8番16号 安倍晋三後援会事務所
氏名 阿立豊彦
職業 安倍晋三後援会会計責任者

第1 告発の趣旨
1 被告発人安倍晋三、被告発人配川博之及び被告発人阿立豊彦の後記第2-1の所為は、刑法60条、政治資金規正法第25条1項2号、同法12条1項1号ホ及び同2号に該当する。
2 被告発人安倍晋三及び被告発人配川博之の後記第2-2の所為は、刑法60条、公職選挙法249条の5第1項及び同法199条の5第1項に該当する。
よって、上記の被告発人らにつき、厳重な処罰を求め、告発する。

第2 告発の事実
被告発人安倍晋三(以下、「被告発人安倍」という)は、2017(平成29)年10月22日施行の第48回衆議院議員選挙に際して山口県第4区から立候補し当選した衆議院議員、被告発人配川博之(以下、「被告発人配川」という)は、安倍晋三後援会(以下、「後援会」という)の代表者、被告発人阿立豊彦(以下、「被告発人阿立」という)は、後援会の会計責任者であった者であるが、
1 被告発人安倍、被告発人配川及び被告発人阿立は、共謀の上、政治資金規正法第12条1項により、山口県選挙管理委員会を経由して総務大臣に提出すべき後援会の収支報告書につき、2019(令和元)年5月下旬頃、山口県下関市東大和町1丁目8番16号所在の安倍晋三後援会事務所において、真実は、2018(平成30)年4月20日、ホテルニューオータニ東京において開催された宴会である「安倍晋三後援会 桜を見る会前夜祭」(以下、「前夜祭」又は「本件宴会」という)の参加費として、参加者1人あたり5000円の参加費に参加者数約800名を乗じた推計約400万円の収入があり、かつ、上記前夜祭の前後に、ホテルニューオータニ東京に対し、少なくとも上記推計約400万円の本件宴会代金を支出したにもかかわらず、後援会の2018(平成30)年分の収支報告書に、上記前夜祭に関する収入及び支出を記載せず、これを2019(令和元)年5月27日、山口県選挙管理委員会に提出し、
2 被告発人安倍及び被告発人配川は、共謀の上、法定の除外事由がないのに、2018(平成30)年4月20日、ホテルニューオータニ東京において開催された前夜祭において、後援会を介し、被告発人安倍の選挙区内にある後援会員約800名に対し、飲食費の1人あたり単価が少なくとも1万1000円程度であるところ、1人あたり5000円の参加費のみを徴収し、もって1人あたり少なくとも6000円相当の酒食を無償で提供して寄附をしたものである。

初出:「澤藤統一郎の憲法日記」2020.11.25より許可を得て転載

http://article9.jp/wordpress/?p=15970

〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 https://chikyuza.net/

〔opinion10316:201126〕