安倍晋三の歴史認識 ―積極的平和主義という名の対米隷従―

著者: 半澤健市 はんざわけんいち : 元金融機関勤務
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 本稿は、2015年8月14日に閣議決定を経て安倍自身が発表した戦後七〇年談話から情緒的な枝葉を切り取り、その核心である安倍の歴史認識を読みとる試みである。

談話は次の構成をとっている。
1.世界の帝国主義時代と不戦への変化
2.対応を誤った日本の戦争
3.敗戦と不戦の決意
4.その成果としての平和の継続
5.積極的平和主義による平和への貢献
数点に絞り以下に感想を述べる。

第一 帝国主義時代と日本の誤りについて 
日露戦争は独立を守った自衛戦争であり、その勝利は「多くのアジアやアフリカの人々を勇気づけました」と書いている。一瞬はそうであった。しかしネルーも孫文も魯迅も、日本が遅れてきた帝国主義者だと気付くのに長い時間はかからなかった。安倍はそのことには目をつぶる。第一次世界大戦後の戦争違法化思想に日本も同調した。ところが1929年世界恐慌への対応にあたり政策を誤り戦争へ突入したというのである。たしかに経済ブロックがいくつか出来た。しかしなぜ日本とドイツが開戦に踏み切ったのか。それが問題の核心である。その限りで安倍の針路誤り論は、「勝者の裁き」とその期間は一致している。東京裁判は1928年から45年までを審理の対象としたからである。
15年戦争が近代日本の本来路線からの一時的な逸脱なのか。近代日本発足時から埋め込まれた好戦DNAの示現なのか。
前者は吉田茂、司馬遼太郎に始まり、居酒屋の論客にまで共通する多数説である。後者は夏目漱石が『三四郎』で、広田先生に(日本は)「亡びるね」と言わせた時に始まった。歴史における正否判断は学者の仕事だといいながら、安倍はポビュラーな言説に与しているのである。

第二 敗戦と不戦の決意について
 戦争犠牲者の上に今日の平和があるというのは正しいのか。安倍はこの短絡な連結が好きらしい。そもそも「敗戦した」などという日本語はあるのか。もちろん「敗北した」である(英語では Japan was defeated と正しい)。安倍は、談話で「ひたすら不戦の誓いを堅持してまいりました」というが、一体、日本は戦後のいつに、どういう形で不戦の誓いをしたのか。
ポツダム宣言の受諾に始まり、東京湾上で降伏調印をし、連合軍の占領によって主権を失い、その体制下で「日本国憲法」を制定し、サンフランシスコ平和条約を締結し、国際連合へ加盟した。日本の「不戦表明」は、こういう一連の国際関係のなかで認めさせられたのである。そして多くの国民によって支持されたのである。安倍も書いている「いかなる武力の威嚇や行使も、国際紛争を解決する手段としては、もう二度と用いてはならない」という不戦の決意は、とりわけ新憲法前文と第九条において明確に表明されたのであった。
国連加盟にあたっての重光葵外相の演説(1952年12月18日)も想起しておく必要がある。重光は憲法前文を読み上げたのちに次のように述べたのであった。(■から■)

■以上は日本国民の信条であり、日本国憲法の前文に掲げられたところであります。この日本国民の信条は完全に国際連合憲章の目的及び原則として規定せられておるところに合致するものであります。日本は、一九五二年六月国際連合に提出し加盟申請において「日本国民は国際連合の事業に参加し且つ憲章の目的及び原則をみずからの行動の指針とする」ことを述べ、(略)、日本は、この厳粛なる誓約を、加盟国の一員となった今日再び確認するものであります。■

押しつけ憲法を嫌う安倍晋三は、「不戦の誓い」がこのような歴史的文脈のなかに位置づけられるのを認めたくないのである。その証拠に安倍談話には、「憲法」と「国際連合」という文字は一度も出てこない。

第三 平和の維持と積極的平和主義 
このように安倍は、不戦に関して憲法九条と国連憲章という基本理念の実在、かかる確固たる基盤を示すことを拒んでいる。それどころか、戦争のできる「憲法改正」を掲げ、国連中心主義から逸脱して「日米同盟」を一貫して強化している。だから戦後日本の平和維持や国際協力の実績、さらには国際社会による日本への寛容への謝辞も誠意が感じられないのである。
「憲法」と「国際連合」は出てこないが、「民主主義」は一回出てくる。談話の最終部分の一つ手前の次の段落である。(■から■)

■わが国は、自由、民主主義、人権といった基本的価値を揺るぎないものとして堅持し、その価値を共有する国々と手を携えて、「積極的平和主義」の旗を高く掲げ、世界の平和と繁栄にこれまで以上に貢献してまいります。■

騙されてはならない。安倍の民主主義は「積極的平和主義」の為にこそ存在するのである。価値を共有する国とは落日のアメリカであり、彼らの軍事予算削減を補完するために世界の果てまで「国防軍」を派兵しようというのである。それは中近東でもあろうし、中南米でもあろうし、アジア人同士が戦う戦場でもあるだろう。

安倍談話の本質は、四つのキーワードにあるのではない。「集団的自衛権」行使を確実なものにして対米隷従を強化する。この一点を目標とした不義と瞞着の作文である。(2015/08/18)

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