3人の候補者
沖縄の松川正則宜野湾市長急逝に伴う市長選挙が9月1日に告示された。投開票は8日である。候補者は、佐喜真淳氏(60)、桃原功氏(65)、比嘉隆氏(47)の3氏。
比嘉隆氏については情報量が少ない。私が知り得ているのは、氏が磁気探査機や測量業の会社代表であること、玉城デニー県政には中立の立場をとっていること、子どもの新型コロナワクチン接種に反対し、県庁はワクチン副反応対策部を設置せよと主張していることぐらいである。新聞は事実上、保守の佐喜真氏と革新の桃原氏の一騎打ちになると報じている。
佐喜真氏は元宜野湾市長(第16・17代)、沖縄県議会議員(2期)、宜野湾市議会議員(2期)の経験を持ち、市政与党の保守系市議らが擁立し、自民・公明が推薦している。
桃原氏は宜野湾市議を連続8期務めた。市政野党の革新系市議などが擁立し、立民、共産、社民、社大、新しい風・にぬふぁぶしなどから成るオール沖縄が支援している。
佐喜真氏について
佐喜真氏には2018年9月、翁長知事の死去に伴う知事選挙に宜野湾市長職を辞して立候補し、玉城デニー氏(元衆議院議員)と戦ったが敗れた過去がある。得票数は玉城デニー氏(当時58)が396,632票、佐喜真氏(当時54)が316,458票、その差80,174票だった。
沖縄自民党県連は2022年9月、玉城知事の任期満了に伴う選挙にも佐喜真氏を擁立して戦ったが敗れた。その選挙には元衆議院議員の下地幹朗氏も立候補したため、保守分裂の形となった。さらに、佐喜真氏は、同年7月に台湾で行われた旧統一教会の結婚式に参加したことが明らかになって得票が伸びなかった。投票の結果は玉城デニー氏339,767票、佐喜真氏274,844票、下地幹朗氏53,677票であった。佐喜真氏と下地氏の得票数を合わせても玉城氏に11,246票及ばない結果ではあった。
今回の宜野湾市長選挙に関し沖縄自民党県連は、今年6月の沖縄県議会議員選挙で玉城県政に大勝した勢いに乗って、佐喜真市政実現に意欲を燃やしている。
桃原氏について
桃原氏は8月21日に、92項目の基本政策を発表。24日には市内で総決起大会を開いた。普天間飛行場の危険性の除去、雇用創出、市民の所得向上など経済政策を打ち出している。辺野古新基地建設には反対。市議8期の実績を訴え、市民目線の市政運営の実現を掲げる。
政策の基本的な違い
宜野湾市は普天間基地を抱えている。そして普天間基地返還(移設)は跡地利用をどうするかという経済問題と深く関わっている。沖縄タイムスは9月1日、佐喜眞、桃原両候補者の政策を比較する記事を掲載している。その中から「基地問題」の項目だけを取り出してみる。
佐喜真氏
・普天間飛行場の固定化を許さず早期閉鎖、運用停止を求める。危険性除去、負担軽減を政府へ強く要求
・閉鎖、返還へ各種団体と連携、市の意思を発信
・普天間飛行場所属機の段階的移駐、返還までの間に常駐機と訓練の全国への分散移転を進める
桃原氏
・日米両政府に普天間飛行場の即時運用停止と早期返還を求め、跡地利用を実現させる。辺野古新基地建設は反対
・米軍機の爆音被害、墜落や落下物の危険性、PFAS汚染から市民の安全を守るため日米両政府に解決を強く求める
・市民、有識者らによる基地対策協議会の再開
両候補の政策で決定的に違うのは、普天間飛行場の移転先としての辺野古新基地を受け入れるかどうかということである。佐喜真氏は容認する。容認しなければ普天間基地の返還(移設)は実現しないからである。一方、桃原氏は容認しない。容認しなければ普天間基地の移設先の目途が立たない。しかも、辺野古基地建設工事を中止させるための国への訴訟はことごとく却下されてきた。今回の選挙で桃原氏が最も苦しむところである。宜野湾市の有権者がそれでもなお桃原氏を推すかどうかが結果を左右することになる。
沖縄関係予算にみる政府の腹積もり
政府は2023年12月20日、工事中の辺野古新基地に軟弱地盤があるため、沖縄県に対して設計変更の承認を命令したが、沖縄県知事はこれを承認しなかった。そこで12月28日、国土交通省が沖縄県に代わって設計変更を承認した。いわゆる代執行である。国が地方自治体の事務を代執行するのは初めてのことである。玉城知事は早速上告したが、2024年1月、最高裁が結論を下す前に防衛省沖縄防衛局は軟弱地盤の改良工事に着手した。最高裁判所が沖縄県の上告を退ける決定を下したのは、3月1日だった。今後、沖縄県が法的手段によって闘うことは極めて困難になった。
政府のこの様な姿勢は2025年度の沖縄関係予算に現れた。8月30日内閣府は概算要求額を2820億円と決定した。前年度比100億円の減額であり、総額4年連続で3千億円を下回ったことに玉城知事は「大変残念」との談話を出した。しかし一方で、米軍基地の跡地先行取得に特化した新規事業には68億円を計上した点や、離島支援策を拡充した点については評価している。
内閣府の概算要求には県選出の自民党国会議員や県連関係者は、6月の県議選で自民が躍進し、中立派と合わせて議席の過半数を獲得した効果が早くも表れたと喜んでいる。
かつて、沖縄県知事や革新系市長の頭越しに基地予定地の地主に現金をばらまき、住民を分断したのは当時の安倍首相であったが、ここへ来て政府は、長く続いている普天間飛行場移設と辺野古基地建設問題に予算を添えてけりをつける方向へ、はっきりと梶を切り始めたように思われる。
宜野湾市長選挙の行方
佐喜真氏は現在、統一教会との関係は一切断っていると明言している。今年6月の県会議員選挙の結果でもわかるように、本土自民党の「裏金」問題は沖縄の選挙には影響を及ぼさなかった。辺野古基地の工事は予定よりだいぶ遅れているとはいえ、政府は着々と工事を進めており、普天間飛行場の移転先の完成は時間の問題だ。それに加えて北朝鮮や中国の脅威、台湾有事への備え等々、佐喜真氏としては「有利な条件」が揃っている。
桃原氏はどうか。氏にとって不利な点はいくつかある。その一つは佐喜真氏に比べて政治家としての多様な経験が不足しているということである。おそらく宜野湾市における知名度も佐喜真氏に比べて低いのではないか。第二は普天間飛行場の将来像を市民にはっきりと示せないことである。前述したように、普天間飛行場の即時閉鎖も辺野古基地建設中止も現在のところ現実味がない。第三は6月の県会議員選挙に見られたように、「オール沖縄」の勢力劣化である。県会議員選挙の結果に学んで勢力を取り戻せるかどうか。桃原氏は、地域住民や浮動層を味方につけるための厳しい選挙活動を迫られるだろう。
この市長選挙の行方は今のところ分からない。ただ、沖縄の基地問題の一つの大きな転機となることは確かである。 (2024/09/02)
初出:「リベラル21」2024.09.06より許可を得て転載
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