対米追従路線に傾斜する民主党政権 -「対等な日米同盟関係を」の公約はどこへ-

著者: 岩垂 弘 いわだれひろし : ジャーナリスト・元朝日新聞記者
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 野田佳彦政権が発足して間もなく3カ月を迎えるが、その対米追従路線が顕著になってきた。まるで自民党政権時代を上回るかのような対米傾斜である。

 野田政権の対米追従をまざまざと見せつけたのは、11月12日にハワイのホノルル市で行われた日米首脳会談だ。同14日付朝日新聞夕刊によれば、この会談で、野田首相はオバマ米大統領に対し、TPP(環太平洋経済連携協定)問題では「日本政府としてTPP交渉参加に向けて関係国との交渉に入る」、米軍普天間飛行場(宜野湾市)移設問題については「内閣をあげて取り組んでおり、(名護市辺野古への移設に向けた)環境影響評価書を年内に提出する準備を進めている」と伝えた。
 これに対し、オバマ大統領は、TPP問題では「野田首相の決定を歓迎する」、普天間飛行場移設問題では「日本側の取り組みを評価する」と応じたという。

 米国政府はなぜTPP交渉の妥結に強い意欲を示し、かつ妥結を急ぐのか。なぜ、日本に「TPP参加」を強く求めてきたのか。それに対する適切な回答と思われる記述があった。10月28日付朝日新聞朝刊3面の『攻防TPP 上』である。そこには「(TPPは)高い失業率に苦しむオバマ米政権にとっては、雇用を増やす頼みの綱だ」「オバマ大統領は、1年後に再選をかけた大統領選を控えている。9・1%という異例の高水準をどこまで下げられるかが、勝利のカギを握る。『世界にメード・イン・アメリカ(米国製品)を売る米国に戻ろう』オバマ米大統領は(10月)25日の演説でこう訴えた」とあった。
 野田首相は、こうした背景を承知の上で「TPP交渉参加」を表明したのだろうか。

 そればかりでない。その後、日米首脳会談での野田首相の発言が物議をかもしている。米側は、野田首相が会談で「すべての物品とサービスを貿易自由化交渉のテーブルに載せる」と発言したと発表したが、日本政府は「そうした発言を行った事実はない」と否定。日本側は米側に訂正を要求したが、米側は拒否、真相は明らかでない。が、もし発言の内容がほんとうに事実でないならば日本政府はあくまでも米国政府に抗議し訂正させるべきなのに、いまのところ日本側にそうした動きはない。なぜ、そんなに米国に遠慮するのか。

 米軍普天間飛行場移設問題では、沖縄県知事、同県議会、県下の各首長がこぞって「辺野古移設」に反対している。なのに、野田首相は沖縄県民の総意に背を向け、日本政府としてはあくまでも「辺野古移設」を進めることを米国政府に確約した。
 これが、沖縄県民の反発を招いたのはいうまでもない。沖縄県議会は日米首脳会談直後の14日、辺野古移設に反対し環境影響評価書提出の断念を求める意見書を全会一致で可決。18日には、県議会の代表団が上京し、首相官邸、外務省、防衛省などに意見書を提出した。

 2009年8月の総選挙で民主党が圧勝し、民主党政権(鳩山内閣)が成立した。短い一時期を除けば1955年以来ずっと続いてきた自民党政権による長期支配がついに崩れた瞬間だった。
 国民の多くが自民党に愛想を尽かしたのには、さまざまな理由があったが、一つに同党の外交政策があったと思われる。

歴代の自民党政権は、一貫して米国政府に対して弱腰だった。とくに外交問題、安全保障問題ではことごとくと言ってよいほど米国政府の言いなりで、これを快く思わない日本人は自民党政権を「アメリカ一辺倒」「対米追従」などと批判してきた。一部の人々からは「国連では、日本はアメリカの投票マシーン」「日本はアメリカの属国」「日本はまるで米国の51番目の州だ」などとやゆされてきたほどだった。
 だから、2009年8月の総選挙にあたって、民主党が「政権政策 Manifest」で「緊密で自立した外交で、世界に貢献」とうたい、「主体的な外交戦略を構築し、緊密で対等な日米同盟関係をつくります」「アジア・太平洋地域の域内協力体制を確立し、東アジア共同体の構築を目指します」「日米地位協定の改定を提起し、米軍再編や在日米軍基地のあり方についても見直しの方向で臨む」と明記した時、多くの国民がこれに拍手したのだった。ここに盛られた同党の外交政策が多くの国民に支持され、それが民主党の圧勝につながったみていいだろう。

 しかるに、野田政権には「主体的な外交戦略を構築し、緊密で対等な日米同盟関係をつくる」努力、「アジア・太平洋地域の域内協力体制を確立し、東アジア共同体の構築を目指す」努力、「米軍再編や在日米軍基地のあり方についても見直す」努力が感じられない。
そればかりか、日米同盟を一層強化しようという姿勢が明白になりつつある。
 このことは、野田政権が「松下政経塾政権」といわれることと無関係ではないだろう。なによりも、野田首相と玄葉光一郎外相が松下政経塾出身者である。そして、内閣を支える党の政調会長が松下政経塾出身の前原誠司氏である。
 松下政経塾出身の政治家に共通するのは、外交政策面では日米同盟を基調とする路線、経済政策面では新自由主義的な構造改革路線を主張する点にあるとされる。とすると、野田政権の日米同盟深化路線もうべなるかなである。

 民主党は、総選挙で掲げた「政権政策 Manifest」を弊履のごとく捨て去ってしまったといってよい。民主党に公約通りの「自立外交」を期待した有権者の失望と落胆は大きい。
 民主党は、国民に対する政党の公約というものをどう考えているのだろうか。先の総選挙で当選した民主党の衆院議員はこうした事態をどう考えているのだろうか。「国民に対する裏切り」をどう考えているのだろうか。この問題に政党として真面目に向き合わないと、次の総選挙では有権者から厳しいしっぺ返しを受けるだろう。

初出:「リベラル21」より許可を得て転載http://lib21.blog96.fc2.com/
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