(2021年3月17日)
NHK番組「クローズアップ現代+」が、スクープとして放映した「日本郵政職員のかんぽ保険不正販売問題」。元総務次官の日本郵政上級副社長鈴木康雄が、この番組にクレームを付けると、NHK経営委員会は鈴木に迎合した。何と、鈴木の意を酌んで、上田良一会長を厳重注意としたのだ。経営委員会でその中心的役割を果たしたのが森下俊三。当時は委員長代行で、現委員長。
さて、経営委員会でのどのような議論を経て、異様な「会長厳重注意」に至ったのか。メディアが議事録の開示請求をしても、経営委員会がこれを出させない。第三者機関「NHK情報開示・個人情報保護審議委員会」が、5度にわたって「開示すべき」と答申したにもかかわらず、どうしても応じようとしない。
それななら、訴訟するしかないではないか。訴訟提起を構想して見ようということになった。以下がその試案である。
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NHKに対して経営委員会議事録等の開示を請求し、開示が得られなければ訴訟を提起しようと考えています。その際の訴訟における請求は以下の2点です。
①被告NHKに対する、経営委員会議事録開示請求
②被告森下俊三に対する、議事録不開示による損害賠償請求
その請求の根拠は、概要以下のとおりです。
《NHK情報公開制度と用語の整理》
※ NHKには、情報公開法の適用はない。
※ これに代わるものとして、NHKは情報公開に関する内規として、00年制定の「NHK情報公開基準」と、01年の「NHK情報公開規程」とがある。前者が綱領的に制度の概要と理念を示し、後者がそれを条文化したもの。
※ この内規では、情報公開法と同様に「情報公開」制度を「情報提供」「情報開示」とに二分している。「情報提供」は典型的にはホームページへの掲載という一般的なもので、「情報開示」は特定の視聴者からの特定の文書についての開示請求に応じるもの。
※「情報開示」制度における文書開示の請求を、内規では、文書についての「開示の求め」という用語を用いている。
※ 視聴者から文書の開示の求めがあった場合、開示を原則とするが、規程8条1項一~六号に該当する場合は例外とされる。
※ 視聴者は、「開示の求め」に対する判断に対して、「再検討の求め」を行うことができる。(規程17条)
※ NHKは、「再検討の求め」があれば、「NHK情報公開・個人情報保護審議委員会」に意見を求め、「その意見を尊重して」最終的に開示・不開示の判断を行う。(規程21条)
《訴訟の全体像》
※ 訴訟の基本性格は、行政文書の公開請求に対する不開示決定を取り消す行政訴訟ではなく、視聴者がNHKに対する受信契約上の「文書開示請求権」にもとづいて、「当該議事録等」の開示を求める民事訴訟となる。
※ 下記の民事訴訟ではあるが、情報公開法の理念を援用しての訴訟となる。
原告 これから文書の「開示の求め」手続を経て、開示を拒否された視聴者
(今回は「再検討の求め」の手続を経ることなく提訴する。)
被告は2名。(1) 文書開示義務の主体であるNHKと、
(2) 文書開示拒否の責任者である松下俊三
請求の趣旨 (1) 被告NHKは原告らに対して、各議事録を開示せよ
(2) 被告松下俊三は各原告に対して、それぞれ2万円を支払え
《被告NHKに対する文書開示請求の根拠》
☆原被告間に受信契約が締結されている。
☆受信契約の効果として、被告NHKは原告視聴者に対し下記債務を有している。
A「豊かで良い番組」(法1条)の放送を提供すべき債務 (中心的債務)
B 視聴者の権利に関わる法令・内規の遵守義務 (付随的債務)
☆NHKの法令・内規の内、
視聴者の権利に関わるものについては、その履行が契約上の義務となる。
☆上記Bには、情報公開基準・同規程における「情報開示義務」を含み、NHKは、文書の開示の求めをした視聴者に対し、求められた文書の開示義務を負う。
☆開示請求権の根拠となる理念は、公開基準前文の「放送による表現の自由確保」と「視聴者に対する説明責務」にある。これが、具体的な開示可否の判断基準ともなる。当該議事録の開示は、まさしくその両者の検証に不可欠である。
☆開示請求権の要件は、当該文書が規程第3条の(役職員が業務上保有する)文 書に該当することで足りる。開示が原則で、例外の主張は被告の抗弁となる。
☆開示の求めに対する応答が不開示であった場合、通例、再検討の求めに進んで、審議会の意見を待つことになる。しかし、本件議事録に関しては、既に5度の開示を指示する答申が出ており、不開示の不当違法は明らかである。
☆基準も規程も、「NHKは審議委員会答申を尊重して開示・不開示の判断を行う」と、《答申尊重義務》を明記している。NHKはこの《答申尊重義務》を履行して、開示しなければならない。
☆NHK側の不開示の理由は、「当該議事は非公表を前提とした審議・検討に関する内容で、これを公開したのでは今後の活発な議論の妨げなる」というものだが、既に審議会答申が十分な反論をしている。
《被告松下俊三に対する、文書開示拒否を理由とする請求》
★併せて、違法な文書不開示の責任者である森下俊三に対して、文書不開示によって原告に与えた精神的損害慰謝料1万円と、弁護士費用1万円を請求する。
★この請求は、契約の不履行による責任追及ではなく、不法行為に基づく損害賠償請求である。
初出:「澤藤統一郎の憲法日記」2021.3.17より許可を得て転載
http://article9.jp/wordpress/?p=16444
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 https://chikyuza.net/
〔opinion10654:210317〕