専門家に対する信仰はやめ、その言を吟味しよう。

著者: 澤藤統一郎 さわふじとういちろう : 弁護士
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「コロナおたく」を志そう。「感染症マニア」になろう。その道の専門家になる必要はないが、専門家の説明を正確に理解する能力を身につけよう。それ丈でなく、専門家の言を問い質す力量を身につけなければならない。そのために、基礎的な知識が必要なのだ。誰かの指図を鵜呑みにし受け入れるのではなく、自立した主権者として自主的な判断をするためである。面倒でも「おたく」「マニア」となろうではないか。

コロナ蔓延のこの時期。安倍や小池に欺かれてはならない。タヌキにも狐にも化かされないためには、相応の心構えが必要なのだ。感染症のなんたるか、新型コロナのなんたるか、そして日本の医療体制や製薬業界事情についての基礎知識を身につけておくことが必要なのだ。面倒でも、ある程度の学習がどうしても不可欠なのだ。

私も、にわか勉強だ。そして考える。この難局を切り抜けるために何が必要なのか、この難局を奇貨としての為政者たちの逸脱した行動をどう抑制するか。そのために何が必要なのか。誰を頼ったところで、正解を得られるものでもない。自分自身で考えるしかない。

感染症法は、その対象となる感染症を 一類から五類に分類している。
(一類感染症)エボラ出血熱、クリミア・コンゴ出血熱、痘そう、南米出血熱、ペスト、マールブルグ病、ラッサ熱、(二類感染症)急性灰白髄炎、ジフテリア、重症急性呼吸器症候群(SARS)、結核、鳥インフルエンザ(H5N1)、(三類感染症) 腸管出血性大腸菌感染症、コレラ、細菌性赤痢、腸チフス、パラチフス(以下、略)

「指定感染症」とされた新型コロナウイルス感染症は、これらの知られた感染症に比較して、感染力がとりわけ強いわけでも、致死率が特に高いわけでもない。しかし、これまでになかった感染症であることから、人類の誰もこの感染症に対する抗体をもっていない。もちろん、ワクチンも治療薬もないことから、恐怖の疫病となっている。

もっとも、この感染症がいかに猖獗を極めようとも、、人間集団に感染し尽くせば、自然の抗体を獲得した人類は、やがてこの感染症を克服する。しかし、それまでどれだけの生命が奪われることになるのか、計り知れない。何より大切なのは、これらの生命の損失を最小限に押さえることにある。

いま、感染患者に対する積極的な治療方法はなく、PCR検査で確認された患者には入院が義務付けられているが、入院の意味は感染防止のための隔離と自然治癒を期待しての対症療法を行うことしかない。

何よりもワクチンの開発が求められている。ロイターの伝えるところでは、「米ピッツバーグ大学医学部の研究者は、開発中のワクチンに感染予防に役に立つ水準で免疫力を高める効果があることをマウスを使った動物実験で確認したと発表した」という。おそらくは各国の研究者が工業化にしのぎを削っていることだろう。が、その実用化は、早くとも来年の初めであろうという。

そして、治療薬である。幾つかの既存の薬剤が、新型コロナに有効と期待されている。たとえば、エボラ出血熱の治療薬として開発されていた抗ウイルス薬であるレムデシビル(米ギリアド)。抗インフルエンザウイルス薬として、200万人分が備蓄されているファビピラビル(富士フイルム富山化学の「アビガン」)。 気管支喘息治療薬として承認された吸入ステロイド薬シクレソニド(帝人ファーマの「オルベスコ」)など。

これらのワクチンと治療薬の開発を急ぐとともに、これが完成するまでの間に感染を可能な限り予防し、罹患患者を早期に確認して感染拡大防止のために隔離するとともに、対症療法を行う。とりわけ重症者への救命治療が中心的課題となる。

医療がなすべきことは、まずは可能な限り広範な検査である。主訴のある人、罹患の可能性の高い人を中心に、積極的な検査が必要である。

いま、東京の感染者数の拡大が大きな話題となっている。昨日(4月2日)までのところ、検査陽性者の状況(チャーター機帰国者、クルーズ船乗客等は含まれていない)は、以下のとおりである。

陽性者数(累計)  684 人
そのうち入院中 628 人
  軽症・中等症 610 人
  重症       18 人
そのうちの死亡  16 人
そのうちの退院 40 人

公表されている検査実施人数(累計) 3336人である。そのうちの陽性者が684人(20%)であり、その陽性者の死亡者と現在入院中の重症者は合計して34名(陽性者の5%)である。

この数値を眺めているだけでは、大きな危機感は出てこない。この患者数で、医療崩壊間近ということであれば、入院医療はICU設備の充実した専門病院に重症患者対応としてお願いし、あとの95%は症度に応じた隔離と観察ができるケアをすべきだろう。空き部屋となっているオリンピックの選手村の活用などを真っ先に考えるべきであろう。

問題は、公表されたこの数値のバイアスである。検査者数の極端な少なさが不自然である。意図的に検査者を少なくして陽性者数を抑えてきたとの疑惑は払拭できない。累計死者数(16人)も、極端に少ない。死因が肺炎とされる死亡者は全国で年間14万件にも及ぶ。東京だけでも1万人以上。実はこの間の肺炎死者の中に、コロナウイルス死者が紛れていたのではないか。

いずれにせよ、行政がこれから爆発的感染者拡大が起こると予測をするのであれば、その根拠を示してもらわねばならない。国民は、専門家という名の占い師を信仰しているのではない。
(2020年4月3日)

初出:「澤藤統一郎の憲法日記」2020.4.3より許可を得て転載

http://article9.jp/wordpress/?p=14622

〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 https://chikyuza.net/

〔opinion9610:200404〕