福島県県民健康管理調査検討委員会(以下健康管理調査委員会)の甲状腺検査の結果が時を追って公表されつつあり、その中で小児甲状腺ガン発症者が既に累計で28名見つかったことから、原発の放射能の影響を懸念ないし指摘する声が、国内外から当然のことながらあげられている、そうして当局はチェルノブイリの経験からして、小児甲状腺がんが急増したのが事故発生後4年以降であるとなどを上げて、原発事故とは関係ないと表明しているが、その信ぴょう性についても疑問の眼差しが向けられてるのも事の成り行きというものだろう。「既にチェルノブイリを超えてるのだ」とい指摘が端的になされる次第なのである。
以下では、チェルノブイリでの事態の推移と対比しつつ、健康管理調査の報告について考察する。
1.チェルノブイリ(’86)での小児甲状腺がんの初期発生状況~本当に事故後4年目以降なのか?
筆者の入手できたデータを整理すると以下のごとし。(1)
’81 ’82 ’83 ’84 ’85 ’86 ’87 ’88 ’89 ’90 ’91 ’92 ‘93
ベラルーシ (データなし) 2 4 5 7 29 59 66 79
ウクライナ 4 5 4 5 7 8 7 8 11 26 22 47 42
1986年の事故発生後両地域で多少の時差はあるが、4年目以前にも前兆的な増加があったようにも見えるが、微妙なところで誰の目にも明らかなのは確かに4年目すなわち1990年以降だろう。
ところで事故以前はどうなのかというと、データのあるウクライナでの発生確率でみると、ウクライナの全人口は大体45百万人で、15-19歳レンジは350万内外(一世代70万人)と思われるから、例の15―19歳レンジ百万人に一人説が大体当てはまるようである。つまり平常の発生確率に沿っているだろう。
(1)長瀧重信 原子力事故に学ぶ放射線による健康影響および対策 丸善出版
2.福島では増加しているのか?
健康管理調査委員会の6月5日会合の資料(2)を参照すると
1年目 2年目
一次検査総数 40,764人 134,735人
二次検査対象数 205人 935人
二次実施数 166人 255人
悪性・悪性疑い 12人 16人
1年目、2年目とも二次検査が対象者全員に対して完了していないが、悪性・悪性疑い数と実施数比では顕著な差はないように思われる。今後の動向に注意するほかない。
しかし絶対数としては、通常15―19歳レンジで100万人に1人の発症確率から見ると、隔絶した高さにあるのは、一見して明らか。上記一次検査総数を母数とすると通常なら一人も出ない。あるいは全員が15―19歳帯にあると見做しても、0.17人が精々なのだ。
単純計算で170倍弱となる。しかも二次検査はまだ対象者総数の半部にも遠く及んでいないのだから、発症確率は今後際限なく跳ね上がる可能性もある。
委員会の説明にあるように、今回のような超音波計測器用いた検査を大規模に行った前例はなく、これまでのような外見や触診での診察で発見されるのとは検出レベルが違い過ぎて、単純比較できないのという言い分は確かに一理はある。しかしそれでも170倍の差がそれで説明出来るのだろうか。
3.福島県外での検査実績
実は同じ6月5日会合の資料中には、福島県外の非汚染地域(青森・山梨・長崎)での超音波での検査実績も収録されており、細かい数字は省くがいわゆるA1,A2,B判定の現出分布は福島のそれと何ら変わらないのである。これはあくまでスクリーニングを目的としたもので、ガンを検出するための細胞検査までは行っていないので、ガン発生数は不明だが、恐らくA2,B判定者を対象にそこまで行えば福島と同様の結果をみるに違いない。
もう一度福島県での結果に戻ると、上記28名の年齢分布も出ており、全員が事故時9歳以上で、平均年齢はほぼ17歳なのである。これはチェルノブイリ(ベラルーシ)が10歳以下に8割強が、さらに5歳以下に絞ってもそこに5割が集中していたのと著しい対照をなしている。これはヨード欠乏地帯である同地域で甲状腺にヨードが十分に蓄積されていない、生まれて間もない幼年者にヨード131汚染が集中したためであったのだが、福島ではこれまでの所、そのような機序を窺わせるデータは全く現出していないどころか、現実はそれとは真逆なのである。
これは一体どう考えればよいのだろうか?
4.現在の小児甲状腺がんは福島だけの問題ではない
チェルノブイリと同様の発がん機序が福島でも働いていたと考えるならば、今回発見された罹患者たちは、実は福島第一原発の事故による放射能汚染で発症したのではなく、恐らく発症者の0-3歳時に何らかの理由で、ヨウ素131によって汚染された可能性が高いのではないか。そう考えると、福島外の非汚染地域とみなされた所でも、福島と変わらないA2,B判定者の分布が見受けられたのも、当然のものと頷けるのだ。恐らくや、全国で稼働している原発からの低濃度放射の漏えいや、あるいはモニターに引っかからない一次的な高濃度漏えいがその原因なのだろう。
そう考えると、上記三地域でスクリーニングのみ行い、細胞診までおよばなかった理由およそ推測がつくというものだ。そんなことをしてがんが発見されようものなら、全国津々浦々に反原発運動が燃え広がり、収拾がつかなくなるのは火をみるより明らかだからだ。
5.結語にかえて-反原発運動の原点へ
これまでに見てきたように、福島で現在までに明らかになってきている小児甲状腺がんの多発は、3.11福島第一原発の事故に直接起因するものではなく、むしろ原発に普遍的に付きまとう放射能の低レベル漏えいによるものであるこを強く示唆し、他方3.11原発事故に起因する小児甲状腺がんは恐らく今後2-3年のうちに検出できるようになってくるだろう事が推測できたのだった。
以上から反原発運動の今後の進め方として次の様な二軸の形成を要請するのではないか。
①原発は事故が起きなくとも低レベルの放射能漏えいで、住民の健康に著しい悪影響を及ぼすという反原発の原点に立ち返り、まずは全国レベルでの小児がん検診の実施を強く地方・国のレベルを問わず行政に対して求めて行く運動を展開する。
②もちろん福島での原発事故起因の小児甲状腺がんの多発は間近に迫っているのは確実であり、それへの監視と対抗運動への備えを進める。
原発は、事故があろうが無かろうが取り返しのつかない重篤な健康被害をもたらすという反原発運動の原点に立ち返ること、このことが今緊喫の課題として突き付けられているのだ。
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://www.chikyuza.net/
〔eye2295:130620〕