小沢一郎の「徳川家康」戦略

http://amesei.exblog.jp/ より転載。

アルルの男・ヒロシです。

   民主党代表選挙だが候補者が乱立している。そしてメディアは小沢一郎が動けなくなっているとと報じているが実際はどうだろうか。私はここで仮説を提示してみる。

【仮説】今回の代表選挙は小沢一郎は自分のグループへの獲得目標は具体的な首相ポストではなく、それ以外にある。小沢一郎が最後の勝負をかけるとすればそれは来年9月の代表選挙だ。

 菅直人をやめさせるときに民主党代表選挙に対する当規約の改正という議論があった(今もある)のを覚えているだろうか。代表の任期は今は2年であるが、これを延長し、同時に代表解任規定をもうけるというものだ。この規定改正の話が立ち消えになっている。

 緊急の両院議員総会を開いて、代表解任を決議し、そのうえで規約を改正して首相の代表解任を実現することも考えていたようなのだが、菅が8月10日に6月上旬に表明した「辞意」を確認したことでこれは消えた。菅が8月末以後も総理に居座るということになれば、この改正の話が再び持ち上がっていただろう。

 ところが今になって、前原誠司・前外相が出馬するという報道が出始めた。最初に前原待望論をぶちあげたのは、渡辺周・国民運動委員長だった。そして、盆明けになってから仙谷由人官房副長官が前原でもまんざらでもないということを口走り始めた。

 代表選挙は当初は野田佳彦・財務大臣の楽勝ムードだった。しかし、「フロントランナー・カース」というべきか、最初に優勢が伝えられた候補は失速するというジンクスがある。野田は終戦の日の「A級戦犯は戦争犯罪人ではない」とする発言あたりから雲行きが怪しくなってきた。コリアンとアメリカの支持があつい前原誠司の周辺から不満が出たのかも知れない。

 また、「財務省の組織内候補」と言われるほどの増税姿勢が批判の対象にもなった。先陣を切って野田を批判した馬淵澄夫・元国交大臣だけではなく、みんなの党に近い反増税派から批判が噴出した。

 それで世界経済への不安と米ドルの下落もあり、円高が加速したことで、野田は、東日本大震災の復興財源を確保する臨時増税の時期をめぐり、2012年度の実施にこだわらない姿勢を示し始めた。野田は18日、地元・千葉市での講演で、増税の時期について「経済情勢を見ながらやる。風邪をひいたときに水を浴びせたら肺炎になる」と語り、先送りする可能性を示唆したのだ。

 これも言葉通りに受け取るのは危険だが、野田は大連立をめぐっても、拙速にことを進める動きを見せたために、逆に自民党の心象を悪くしてしまった。野田の焦りは、当初野田を推していた仙谷と前原の焦りでもである。民主党政権は国民の信頼を裏切っているのでこのままで行けば長くは持たないという判断を前原らはしている。

 仙谷は政治生命も物理的な自分の生命も先が長くないことを知っているので、早く大連立を実施して自民党を取り込み、財務省とアメリカにいい顔をしたいと考えて野田を急かしたのだろうが、野田があまりにも下手くそだったので、前原に乗り換えるゾとブラフを仕掛けているのだろう。

 更に、野田の代わりに前原を出したいという勢力は日本国内だけではなくアメリカにも居た。3月10日に「沖縄はゆすりとたかりの名人」という”迷言”を残して、国務省の日本部長の座を追われた、ジャパン・ハンドラーズの一人である、ケビン・メアが18日に来日し、有楽町の外国人記者クラブで講演し、「日米同盟を強化しないと、放っておくと中国は沖縄を占領するぞ」という的はずれな「恫喝」を長時間にわたって繰り広げた。(文春新書本の宣伝ということで名目を付けて来日したようだが、営業活動の一種としての政界工作もやっている)

 この背景にはアメリカ国内でサイノロジスト(中国専門家)が幅を利かせる中で、保守系の牙城であるヘリテイジ財団でさえも中国融和派(チャイナ・エンゲージメント)にかじを切ったことで危機感を覚えている、米共和党のシンクタンク戦略国際問題研究所(CSIS)の一派の焦りがある。

 メアはCSIS直属ではないが、米共和党のブッシュ政権でアジア担当だった、リチャード・ローレスやリチャード・アーミテージ、トーケル・パターソン(米レイセオン社幹部でもある)の子分である。この夏前にも、仙谷副長官の顧問で内閣官房参与の前田匡史を官邸に突如訪問していた。

 これはメアがローレス系の軍事・安全保障・エネルギーコンサル会社の「NMVコンサルティング」の一員になった挨拶であり、具体的にはモンゴルに日米と共同で放射性廃棄物処分場を作るという案の交渉だったらしい。この話は共同通信や毎日新聞が先んじてスクープしたせいで頓挫し、松本剛明外相が国会質疑で公式に否定することで決着を見た。

 ここからわかることはジャパン・ハンドラーズの存続危機感が日本への稚拙な政界工作を繰り広げさせており、それがホワイトハウスのオバマ・バイデン正副大統領の大戦略と大きく齟齬をきたしているということである。

 だから、野田の代わりに前原を出すという動きが出てきたのは理由は簡単だ。米のジャパンハンドラーズの指令で仙谷副長官と前田匡史・内閣官房参与が動いたのだ。それでアーミテージの子分のケビン・メア元国務省日本部長が来日し前原にメッセージを送っているはずだ。それで一回休みの前原が動かざるを得なくなったのだろう。だから、これは、野田=ホワイトハウス・米財務省と、前原=米国務省・国防総省という政治闘争を反映した動きでもある。

 米財務省側は他に選択肢もないので、米財政を支えるという意味で財務省組織内候補の野田佳彦が操りやすいので押しているはず。野田の直接のカウンターパートとなっているのはティム・ガイトナー財務長官だが、今はここにジョー・バイデン副大統領が加わった。バイデンは米財政破綻を防ぐために中国訪問に来ており、日本にもそのついででやってくる。

 実はすでにバイデンは選挙モードの国内担当オバマの代わりに大統領職を海外で遂行している。米債務問題での共和党との妥協を一応取り付けたのも上院議員として議会経験が長い、バイデンであり、オバマはその経過報告をテレビに向けて演説するだけの「広報官」の役割しか行っていない。大統領選挙が近くなると、大統領は国民向けの遊説に時間を割く必要が出てくるが、オバマの場合は若造の経験不足がたたり、バイデンの補佐なしにはもう何も出来ないだろう。ガイトナーが辞任できないのもバイデンを支えるという意味である。

 もっと言えば、ケビン・メアの元上司はヒラリー・クリントン国務長官である。ここでは、アメリカ国内では、バイデンとオバマ陣営とヒラリー・クリントン陣営の戦いになっているわけだ。クリントン陣営はビンラディン処理を完了したことでブッシュ政権から居抜きで残っていた気の合う盟友ロバート・ゲイツ国防長官を失った。

 後任にはCIA長官あがりのレオン・パネッタ新国防長官(元下院議員、クリントン大統領首席補佐官)を迎えたが、パネッタは「予算畑」なのでバイデン側の米国の財政安定派ともつながる。つまり、クリントン側の軍産複合体路線は弱体化。それがアーミテージやメアの「営業活動」の強化につながる。軍人もカネがなければ戦争もできないということだ。アメリカ国内では、バイデンのホワイトハウスとガイトナーの財務省が勢力を確保した。

 米国内での路線争いが属国の日本の国内政治に影響を与えているとは私は繰り返し書いてきたが、今回もそうだ。オバマ政権はホルドレン大統領補佐官やバイデン副大統領が細野豪志を高く評価しているようで、ヒラリーら、「中国封じ込め派」の覇権志向側はアメリカの国内の財政事情を考えていないということになる。日本の外務省はこの「中国封じ込め派」(中国・モンゴル部長ですら前原と近い京大出身の垂秀夫である))の影響力を受けていたが、だから今、本国からの指示が分裂しているので困り果てているだろう。

 結果的に「敵の分裂」で利益を得そうなのが小沢一郎だ。

 前原が野田を押しのけて代表選出馬を決意し、一本化に仙谷が成功するというシナリオも残っているが、それがなければ、今回の民主党代表選の見えない勝利者は小沢一郎だろう。代表選出馬意思を見せている、野田、馬淵、小沢鋭仁、海江田万里をして、「今増税はしない」「党員資格停止処分の見直し」を確約させた。実は小沢の生き残り戦略にとってはこ2つの獲得目標だけが重要だったのだ。

 小沢自身は裁判があるので、不確定要素が残るが、9月26日に石川知裕元秘書らの裁判の判決があるとも言われている。この裁判では検察官調書の大量却下が裁判長によってなされており、これが厚生省の村木事件の末期の訴訟指揮と極めて酷似していることから、小沢秘書の裁判についても悪い結果がでないのではないかとの期待感がある。だから平野貞夫が言うように「小沢は自分の裁判を終わらせてからではないと具体的な行動には動かない」ということであるようだ。

 したがって小沢は更に新首相に「衆院解散はさせない」ということを呑ませれば「大勝利」となる。自分の裁判の結果次第では細野副総理で小沢首相の組み合わせ可能性も視野にいれているだろう。あるいは、今は原発大臣をやっている、細野を来年までに宰相のための経験を積ませる。細野を支える自分は副総理(行政機構改革担当大臣兼務)になるのではないか。いずれにせよ、2012年が勝負の年になる。

 「鳩がつき、菅がこねし天下餅、座って食うは小沢一郎」となるか。小沢一郎は「徳川家康」になれるか。注目である。裏切りの世界の中で生き残るのはホンに大変だて。

〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://www.chikyuza.net/
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